真壁優志は結婚に向いていない

ちょろぎ

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真壁視点

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 飲み会は苦手だ。
 話題に上がるのは「昇進した」だ「結婚した」だの輝かしい近況ばかり。
 就活も思うように上手くいかなかった僕は聞き手に徹する事にした。
 学生の頃はいつも一緒にいたのに何だか遠いな。

 聞けば、自分で稼いだ金なのに飲み会に行くにも奥さんの許可が必要だと言う。
 恐ろしいことに結婚とは、仕事と家族と過ごす時間以外は、自由に出来ないものらしい。
 そんな生活、窮屈で仕方ないだろうにどうしてみんなそんなに楽しそうなんだろう。

 みんなまだまだ盛り上がっているが、明日も仕事の僕は早い時間にお暇した。僕が帰った事など誰も気にしちゃいないんだろうな。
 
 大人になってから友人を作るのは難しいが、元々の友達とも距離ができてしまうなんて。
 なんて寂しい人生だろう。



♢♢♢


 今日も来た。
 いつものキャップを被った瀬戸口さんが家の前を通り過ぎる。

 僕はいそいそと玄関にスタンバっている煙草を手にし、外に出た。
 玄関脇、室内禁煙を命じられた父が設置した灰皿の前で待つ。
 瀬戸口さんは僕が煙草を吸い始めたタイミングだと止まってお喋りをしてくれる。
 吸い終わる頃だと駄目。一言二言、言葉を交わして去って行っちゃう。
 水曜日と、あとたまに土日どちらかしか会えないのだから少ないチャンスを逃したくない。


「こんばんは」
 来た。お帰りなさい。
 僕を見つけて笑顔で駆け寄って来てくれる。
 瀬戸口さんと会話がしたくてこちらも必死だ。
 何をそんなに必死になっているのだろうと自分でも思う。それでも心が叫ぶのだ。絶対に仲良くなりたいと。

 少し茶色いふわふわとした髪がキャップから覗く。
 深く被ったキャップの下には意志の強そうな印象を与えるくっきり二重。
 ランニングで火照る頬。
 レギンスの下に隠された脚は綺麗な筋肉がついているのだろう。

 いいな、健康的で。
 僕も少しでも好印象になるように、家の中でもスウェットはやめて、話す時は意識して背筋を伸ばした。

 営業で培ったトークスキルを最大限発揮し、瀬戸口さん改め涼くんと友達になる事に成功した。
 一緒に食事もしたが、食の好みも食べ方も好感が持てる。
 あとノリがいい。僕が提案した事には二つ返事で乗ってくれる。
 楽しんでるかな?無理してないかな?って心配もすぐにしなくなった。
 溌剌とした声も心地好いしいつも楽しそうでこちらも笑顔になる。

 たまに涼くんがリクエストするお出掛けも、僕に気を遣ってくれてるのかなって位楽しいで溢れていた。
 トレイルランニングも、わざわざ行ったアウェイ戦の試合観戦も思い出深い。
 え、もしかして僕たち前世からの親友だった?


 お誘いが続くと何か言いたそうにこっちを見てくるのが気になってはいたけど、まさか既婚者だと思われていたとはね。

 スポーツバーで涼くんが隣にいた知らない女にキスされそうになった瞬間、頭に血がのぼって腰を抱き寄せた。
 ユニフォームの下のくびれ。僕の手が脇腹に食い込んだ。
 強く引きすぎて鼻にもちもちのほっぺが触れた。このほっぺに無許可でキスしたのかこの女。
 視界に入れたく無くて、涼くんを抱き寄せたまま、店内を後にした。

 二人きりになって思い知らされた。僕は涼くんが好きなんだと。
 絶対仲良くなりたいと思っていた時点で薄々気が付いてはいたが。今はっきりと性欲を孕んでいることを自覚した。

 ペットボトルを涼くんに手渡し僕も飲んだ。
 口では涼くんに寄り添うような事を言いつつ、頭の中では誰かに取られる位ならいっそ、と物騒な考えが過ぎる。

 絶対にバレたくなくて目を合わせられなかった。

 ⋯もしかして腰を引き寄せたのもセクハラに当たるんだろうか。

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