天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる(第12章終了しました)

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第九章:図書館での殺人未遂事件

112 僕が犯人に伝えたいこと

 しばらくすると魔法が終わったようで、辺りから光が消えた。
 エイシア様が険しい顔を僕に向けてきたのだけれど、いつも感じるような恐ろしい気配は全く感じない。
 僕に気を遣ってくれているんだろうか?
 それともたまたまなのか……


 エイシア様は両手を腰に当てて、淡々と話しだした。

 「さて、犯人についてだが……」

 エイシア様によると、犯人は既に捕まえていて、現在は拘置所という所にいるそうだ。
 拘置所は、魔術研究所の中で罪を犯した人が収容される場所らしい。
 職員とその家族を合わせれば、数百人もの人が敷地内で生活しているのだから、中には犯罪を犯す人も出てくるのだろう。
 だから、そういう場所も必要なのだと、エイシア様は言った。


 続いて、拘置所で犯人と話をした時のことを話してくれた。

 犯人の言い分としては、研究所の職員は全員、魔術士を支える為に日々、誇りを持って職務を遂行している。
 優秀な職員を差し置いて、下賤の者が魔術士のパートナーに選ばれるということは、許されることではない。
 職員を侮辱するに等しい行為……だそうだ。

 「そ、そうなんですね……」
 
 エイシア様を前にしても、そんなことを言えるなんて、何というか……凄いな。
 犯人の度胸にある意味、感心してしまった。
 普通の職員は、エイシア様と関わることがあまり無いらしいから、怖さが分からないのかもしれない。

 きっと犯人は、貴族の家の生まれであることを、凄く誇りに思っているのだろう。
 だけど、魔術研究所にいるってことは、跡継ぎでもなければ、家にとって重要な人間でもないってことだ。
 「中流階級」とは言っても、身分という括りでは、「平民」に過ぎないのに。


 そしてエイシア様は、犯人に対する処分についても、教えてくれた。

 「高貴な生まれを自称する犯人には、世界魔術士協会本部にある『魔術実験場』に移籍してもらう。そして、魔術の進歩の為にその身を捧げてもらうことにした。
 ただの無能力者が協会本部の施設で働くということは、とても名誉なことだ。家の人間もさぞかし、誇りに思うことだろう」

 魔術実験場……初めて聞く名前だけど、その名前の通り、魔法に関する実験をする施設なのかな。
 そして、その身を捧げるってことは、魔法の人体実験の被験者になるということだろうか?
 そうだとしたら、実験の内容はロクでもないものになる可能性が高い。
 さっきイズリーさんが、今回は見せしめの為に厳しめの処分をするだろう、と言っていたし。

 はたして、犯人は生きていられるのだろうか?
 姿も名前も知らない犯人に対して、同情する気持ちは全く湧いてこないけれど。


 「私は速やかに実験を行い、その様子を魔術研究所の全職員に通達しなければならない。お前とスタイズを犯人に会わせるつもりは無いが、犯人に伝えたいことがあれば、今のうちに聞いておこう」


 犯人に伝えたいこと、か……
 うーん、何かあるかな?

 スタイズさんに酷いことをした罰だ!
 苦しめ、地獄に落ちろ!! ……とか?


 ……でも、人を介してそれを伝えたところで、何になるんだろう。

 犯人が誰なのかは分からないし、魔法の実験で命を落とすかもしれない奴だ。
 僕の言葉で反省したり後悔したとしても、今更どうでも良いし、許す気にはなれない。
 奴がスタイズさんに酷いことをして怪我をしたという事実は、変わらないんだから。

 そもそも、犯人がエイシア様に話したことを考えれば、僕の言葉なんかで改心したりすることは無いだろう。
 言うだけ無駄だと思う。


 僕はエイシア様に「犯人に伝えたいことは特に無い」と言うと、「そうか」の一言を残して、姿を消してしまった。
 やっぱり、消える時も唐突な人だ。



 ドアがノックされて、イズリーさんの「セルテ様、宜しいでしょうか」という声が聞こえてきた。
 返事をするとドアが開いて、彼女が着替えを渡してくれた。

 イズリーさんが部屋を出て行った後、僕は用意された部屋着に着替えることにした。
 脱いだ制服をザっと畳んで、棚に置く。
 スタイズさんの様子が気になるので、早く彼の元に戻らないと……そう思った時、ベッドの方から声が聞こえてきた。

 「セ、セル、テ……く……」

 この声は、スタイズさんだ!!
 僕は慌てて、彼の元に駆け寄った。
 すると、仰向けになったままの彼が目を少し開けていて、僕と視線が合ったんだ。

 「すま……ぁ、い……」

 彼はそう言って、悲しそうな顔をした。
 もしかして「すまない」って言いたいのかな?
 今回の件は、突然おかしい奴に突き落とされたのが原因なんだし、彼は何も悪くないじゃないか。
 僕は首を左右に振って、そんなことは無いと伝えた。



 「いま、なん、じ、だ……?」

 スタイズさんに時間を聞かれたので、壁に掛けられた時計を見る。
 夕方の六時になるところだった。

 「もうすぐ夕食の時間ですよ。お腹空きましたか?」

 「そ…か……おな…か……は……」

 彼はまだ、はっきりと話すのは難しいようだ。
 途切れ途切れに話すのを頑張って聞いてみると、お腹は空いていないらしい。 
 具合が良くないし、食欲は湧かないよね……


 右手を伸ばしてスタイズさんの頬に触れると、熱いままだった。
 だけど、さっきまでの、眉に皺を寄せて苦しそうにしていた時の表情と比べると、今は少し緩んだようにも思える。
 エイシア様が魔法をかけてくれたおかげで、少し良くなったんだろうか?


 「ライナートさんが言ってましたけど、骨にひびが入ったのは全部治ったそうです。熱は数日したら下がるそうなので、元気になったらまた一緒に鍛錬したり、遊びましょうね」


 「ああ……たのしみ、に……して、るよ……」

 彼の口元が緩やかに弧を描いた。

 スタイズさん、元気になるよね……?
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