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2度目の夏至祭
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しおりを挟む少し黙って待っていたけれど、巫女頭さんが口を開く気配はない。
・・・これもう帰っていいかな?いいよね?
私はくるりと踵を返し、少し後ろに立っていた3人に言う。
「帰ろ」
「はあ!?」
「いいのか?」
「何しに来たんだ、俺ら」
「だって、向こうさん何も話してくれないし。招待したのそっちなのに何も言わないって失礼極まりないことしといて、何で待ってやらなきゃならないの?」
私の言う事も随分失礼だと思うが、正直な気持ちでもある。
だって、向こうが私達を呼んだのに、何も説明しない、席にも案内しない、何コレ。
付き合う意味ある?私の感覚にそういう礼儀はないからわかりません。
すると、周りの巫女や神官達が声を荒げた。
「何という無礼な!」
「そちらが巫女頭様に礼儀を尽くさないにも程がある!」
「跪き、挨拶をするのが筋だろう!」
ぎゃんぎゃん喚く外野に、辟易する。
キャズが戦闘体制、とばかりに口を開きかけるのを、掌で塞ぐ。
『何すんのよ』と目が言っている。まあまあ、と声をかけ、ディーナとケリーにも目配せ。
2人はわかった、と言うようにキャズの両側に立ってくれる。
「無礼と言いましたね?それはどちらに対してでしょうか」
「貴様に決まっているだろう?何を・・・」
「おやめなさい、クリス。皆も黙りなさい」
「レオノーラ様!なぜ!」
「私が静かに、と言ったのが聞こえないの?先程の光景を見たでしょう、貴方達も」
正に鶴の一声。巫女頭さんが口を開くと、押し黙る外野の方々。試したのかな?
私は数歩前へ。彼女と1mほど間をあけて、前に立つ。銀髪に琥珀色の瞳のキツめな美女。
「巫女頭レオノーラ。申し開きはありますか」
「・・・っ、ご無礼、申し訳ございませんでした」
「全て貴方が責任を取る。それでいいですか」
「はい、全て私の責任でございます」
「・・・それだけじゃないと思うけどね。少し神殿にも風が必要でしょう。受け入れる気はありますか?」
「全て、コーネリア様の御心のままに」
巫女頭の後ろにいた人達はぽかん、としている。
まさか、自分達の巫女頭が膝を折り、私に謝罪するとは思ってもいなかったのだろう。
きっと彼等は巫女頭が私を罵り、謝罪をさせ、罰を与えようとする事を想像していたはずだ。
「彼等には何のことかわかっていないのでは?説明してあげたらどうです?
それに、私はさっきの説明が聞きたいわ。どうして、アリシアさんにあんな罠を仕掛けたのか」
「・・・先程の魔法陣は、聖属性の魔力があるかどうかを判断するものです。
ここは『聖別の間』と言いまして、神殿に来た子に聖属性の魔力があるかどうかを調べる場所でもあります。
先程光ったのは、姫様に聖属性の魔力があるかどうかを調べるためでした」
「それを誰が許したのかしら?」
「申し訳、ございません」
「貴方の一存で?それとも、神殿内部の保守派かしら?それが私にとって、いいえ『タロットワーク』に対する無礼である事に気づいているのよね?」
私もここまで追い詰める気はなかった。
しかし!しかしですよ!セバスの気配を感じるんです!ここはきちんと認めさせておかないと後が怖い!
私がではない。神殿の人員総入れ替えとか、神殿そのものを解体とかしそうで怖いんだ!!!
神殿には神殿でないとできない役割がある。無くなってしまうのも困るのである。
後ろに控えている巫女達も、事の深刻さを悟ったのか顔を青くしている。
神官達もだ。しかし、1人だけ全く顔色を変えていない人がいる。
「まあまあ、そのように怒らないでいただきたい、タロットワークの姫君よ」
「貴方に発言を許した覚えはありません。下がりなさい」
「つれない事を言うものですな。神殿内で私と仲良くしておいて不利益になる事はありませんよ」
「っ、大司祭様、何を」
「君は下がっていなさい、レオノーラ。巫女頭の地位を失いたくはないでしょう」
あれっ、これってヤバ~い奴?大司祭って言った?という事は、この人が神殿のトップ?
ちょっと神殿の役職とかに詳しくないので、私は巫女頭さんに対して話しかけた。
「レオノーラさん?この人が神殿の一番偉い人なのかしら」
「っ、は、はい」
「えーと?貴方が一番上ではなくて?」
「そこの娘は巫女達のリーダーというだけであって、神殿内部の事には詳しくありませんよ。
この私、ヨハン・グリッシーニが神殿の王です」
グリッシーニって食べ物かよ!
そこで思わず笑いたくなってしまったが、ここで腹筋崩壊するわけにはいかない。
グッと堪えて我慢する。その表情を驚愕とでも受け取ったのか、ヨハン大司教は声高に話し出した。
「今回の余興につきましては、姫には不快に思われたかもしれませんね。
そこの巫女頭は何も知りはしません。全ては巫女達が彼女を『聖女』にしようと勝手に行った事です」
「けれど、貴方はご存知でいらした」
「ええ、周りに耳はたくさんいますからね。ですが、それを止める必要がありましょうか?
真に『聖女』たるならば、そのような試練すら乗り越えるでしょう。女神がそう望まれるのであれば」
なんかいい事言ってる風だけど、揉め事知っておきながら放置してたって事よね?
それって管理者としてどうなの?管理者責任を問う問題よね?
「・・・そうですか。では、ヨハン・グリッシーニ。此度の責任は貴方にあるという事ですね」
「これはこれは!私に何の罪が?」
「あら、貴方は先程おっしゃっていたでしょう?『神殿の王』だと。
ならば、この中で起きた不始末の責任は、王が取るべきもの。そうではありませんか?」
「巫女達の暴走です。ならば巫女頭であるその娘の責任というもの」
「もちろん、彼女にも相応の罰を。ですが、事前に何かが起きるとわかっていて放置した。
女神の名の元に、といえば聞こえはいいですが、要は部下の監督不行き届き、という事ですわよね?」
「ぐっ、・・・で、ですが、貴方にそんな権限が」
「ありますわよ?『タロットワーク』と知っていながら、私に『罰を与える』などと口走る巫女もいましたわね。
─────ヨハン・グリッシーニ。貴方は私がコーネリア・タロットワークと知りながら、巫女達の暴走劇に巻き込まれる事が分かっていながら、事が進むのを黙って放置した。そうですね?」
「それは」
「夏至祭の華である合同結婚式を台無しになる事を見過ごした。これは神殿に属する者でありながら、そして大司祭という名誉ある地位にありながら、止めるべき立場でありながら、貴方はすべき事をしなかった。それを国王陛下の前で、女神の前で、『私は悪くない、何の責任もない』と言えますか?
・・・もし、そう言えるのであれば、貴方には聖職者である資格はありません。恥を知りなさい」
私はそのまま、未だ膝を付いたままの巫女頭さんを立ち上がらせた。そして彼女を見つめて告げる。
「巫女頭レオノーラ。貴方は神殿に属する巫女達を統率する立場でありながら、今回の件を止める事ができなかった。それは貴方が負うべき罪です。わかりますね?」
「はい、姫様。私の不徳の致す所でございます。アリシア・マール様にも申し訳ない事を致しました」
「アリシア嬢は何と?」
「貴方に、責任は、ないと・・・許してくださいました」
「そうですか。彼女がそう言うのであれば、その事に関してそれ以上は言いません。ですが、貴方が巫女達の暴走を助長させるような振舞いをしていた事は事実です。身に覚えはありますね」
「申し訳、ございません・・・っ」
「レオノーラ様!」
「レオノーラ様、申し訳ございません!私達が、私達のせいで!」
レオノーラさんは悪くない。そう言えればいいんだけど。彼女は巫女達からとても好かれている。それは彼女がこれまでどれだけ頑張ってきたかということ。それがわからない訳ではないんだけど、手綱を取れなかったというのは由々しき事だ。
今後、同じような事が起きる様では困る。そうなれば、レオノーラさんに巫女達を統率する手腕がないと同じ事になる。
私、凄い偉そうな事言ってるけど、ここで内密に私の権限・・・あんまりないけど!そこはなんとかセバスがしてくれるに違いない!無駄に王位継承権なんてある訳じゃないんだから!
私の名前で収まる範囲で正しておけば、大したことにはなるまい。
『それはアカン』となればセバスが止めに出てくるはずだ。
さて、丸く収まるといいんだけどな。
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