異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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この世界での私の立場

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この世界にきて2ヶ月が過ぎようとしていたある日。
珍しく朝からゼクスさんとご飯が一緒。

ゼクスさんは夜遅くまで起きてたり、かといって日の出と共に起きてたりする。
なので私が朝ご飯の時間には既に書斎に籠ってるか、研究所へ出勤している事がほとんど。
一緒に朝ご飯を食べる事は数回しかなかった。



「コズエ殿、今日は儂に付き合ってくれんかの」

「いいですよ? 研究所ですか?」



食後のお茶を飲んでいると、ゼクスさんが申し訳なさそうに聞いてきた。そんなに恐縮しなくてもいいのに。
私が是、と答えると嫌そうにはぁ、とため息をついた。



「なんですか?」

「いや・・・気が進まんでのう・・・」

「そんなに嫌なのに私を連れてくんですか?」

「コズエ殿が嫌な訳ではないんじゃ・・・」



どんより、と沈んだオーラ。
まるで子供が『歯医者行きたくないです』って嫌がる感じ?
どこに行こうっていうんだろう? 国王陛下のとことか?

すると、セバスさんがゼクスさんに話しかける。



「旦那様、表に馬車の用意が整いました」

「くぅ・・・行くとするか・・・」



とぼとぼと歩き出すゼクスさん。
ねぇそこまで行きたくないなら無理に行かなくてもよくない?
そう言おうかどうしようかと迷いながら私も後に続こうとする。



「気になさらなくても大丈夫ですよ、コズエ様」



しょうがない人だ、と言うように苦笑するセバスさん。
私を先導するように、少し前に立って歩き出した。



「セバスさん、何か知ってるんですか?」

「これから行かれる場所は、タロットワークの本邸です。
旦那様は若様に会うのがお嫌なんですよ」

「え?本邸?若様?」



若様、って事はゼクスさんの息子さんよね?
これから行くところって、タロットワーク家の本邸ってことか。
確かにこのお屋敷って私とゼクスさんしかいないもんね。

馬車に乗り込むと、とほほ、と落ち込んでいるゼクスさんが先に座っている。
そんな主人にセバスさんはあれこれ注意をし、お土産の入った包みを無理矢理膝に置いたりとテキパキと動く。

ではいってらっしゃいませ、と送り出され、私は初のタロットワーク本邸へと出発した。

私が住んでいるゼクスさんのお邸は、貴族エリアの中でも学術エリア寄りに位置している。もちろん、王都の中央に位置している行政エリアに近い方が偉い人が住んでいる事が多い。

もちろんゼクスさんも偉い人なのだけど、あの人は自分の職場に近い所がいいって言ってもうひとつお邸を建てたんだって。私が住んでるのはそちらで、別邸と呼んで区別しているそうだ。

タロットワークの本邸には、ゼクスさんの息子さん夫婦が住んでいる。
『ゲオルグ・タロットワーク』といって、政府の高官。現在は宰相補佐をしているそうだ。

最初にお城で会った時に『本邸に住んだ方がいいのではないか』という話もあったのだけど、ゼクスさんは『本邸はうるさいから嫌だ、コズエ殿は私が後見人だからこちらで面倒を見る』と言い張った。
…いい事言ってるようにも聞こえますが、単に異世界の事色々聞きたいし、職場から遠くなるのも嫌だという話です。
私もその方が気兼ねないのでそうさせてもらった。

ゼクスさんの息子さんのように、タロットワークの一族は基本的に文官としての能力が高いらしい。ゼクスさんの子供は5人いて息子が3人、娘が2人いるそうだ。

長男がゲオルグさん。王都で宰相補佐官をしている。補佐官は数人いるみたいだけど、これってエリートコースよね?
次男も三男も他領で政務官をしているみたい。
娘さん達はこの国の貴族や他の国へ嫁入りしているそうだ。まだ会ったことはないのだけど、そのうちご紹介してくれるらしい。

ゼクスさんの奥様は既に鬼籍に入られている。
お綺麗な方だったみたい。肖像画飾ってあるけど、まぁ美人よ。



********************



馬車に乗ること数十分。
貴族の住むエリアでも、学術エリアにほど近い別邸付近とは違い、本邸近くはかなり大きなお屋敷も建っている。まぁ立派なお庭。あれマーライオンみたいの見えたな…?

王城のある行政エリアにも近い場所に、タロットワーク本邸はあった。はい、大きいです。敷地面積的に東京ドーム建つかもしれない。



「・・・すごいですね」

「広いだけじゃろ。維持費がもったいないとおもうんじゃがの~儂」

「まぁ雇用が増えるといえば増えるからいいんじゃないですか?」

「ここに住んでた時は庭師が入れ替わり過ぎて誰だかようわからんくてな~、どこぞの刺客かと思うた」

「それは・・・危ないですね・・・」



門を通ったのにさっぱりお屋敷が見えてきません。
地球でもテレビでハリウッドとかのお屋敷とか門から家まで距離がすごいです!みたいなニュース見たけどそれよりさらに…遠くない?
これは貴族が馬車使うのしょうがないと思うわ…
もしも門から徒歩で進むとしたら何分かかるんだろう?

緑のアーチをくぐり抜けると、そこには別邸の3倍はあろうかというようなお屋敷があった。
…収容人数は何名ですか?100名いけますか?

馬車が入口に着くまでに、お屋敷の中から使用人さん達が出てきてズラっと並ぶ。…華麗なる一族?いいとこの旅館みたいだな。

仏頂面のゼクスさん。
馬車から降りて一言。



「出迎えはいらん。さっさと仕事に戻れ」



こんなに冷たい声音のゼクスさん、初です。
いつものんびりおっとり、ぼんやり感のゼクスさん。
セバスさんの前だってボケて突っ込まれてるのに、今のゼクスさんは本当に『厳格な主人』そのものだった。

あーら、ご機嫌斜めだわー、と思いながらも私も使用人さんの手を借りて馬車を降りる。
ジャンプすれば降りられない事もないんだけど、それやったらセバスさんに笑顔で怒られました。
『淑女のする事ではありませんね』ってニコニコしておられました。私淑女じゃないです、と思ったけどここは逆らったらイカン、と本能が察したのでそれからはやっていません。

ゼクスさん、玄関入って私が付いてきてるかチラッと振り返った。
ちょっと心配そうな顔が一瞬覗いたけど、私が付いてきてるの見てまた仏頂面に逆戻り。この家ではそういうキャラ付けなのかな?
私達がお屋敷の中に入ると、さっと使用人さんは散っていきました。お仕事ご苦労様です。

ゼクスさんの前には1人の執事さん。
セバスさんよりも若い。30代前半ってとこかな?
どこかのお屋敷にあの『悪魔で執事』みたいな人はいないのだろうか。ちょっと期待しています。



「おかえりなさいませ、大旦那様」

「出迎えは不要、と言付けて置いたはずだが」

「申し訳ございません、大旦那様をお迎えするのに出迎えなし、とはいきませんので」

「そのような気遣いはゲオルグにだけやっておれ。
まだセバスには届かんな」

「精進いたします」



主人と執事の攻防です!
まぁ確かに大旦那様お迎えするのに出迎えなし、っていうのは使用人サイドとしてはありえないんだろうな。
でも主人サイドとしてはそういうのしてるくらいなら仕事せーよ、という感じ?ゼクスさん仰々しいの嫌いだもんね。

とはいえこのお屋敷で向こうみたいに『帰ったぞーい』とか言うのもどうなんだろう…

なんて事を考えていたら、いつの間にかゼクスさんいなかった。
あれ、置いてかれたよ、なんて思ってたらメイドさんが静かに待っていました。



「・・・ご案内いたします」

「はい、お願いします」



年齢は本来の私と同じくらいだろうか。
にこり、ともせず静かに歩き出す。
案内された部屋は、来客用の応接スペースだった。
ゼクスさんはいない。ここで待っててねって事かな。

ソファを示されたので座る。
下手の席をどうぞ、と示されましたけど普通お客様には上手の席をすすめるもんじゃないの?でも貴族様はそういう感じなの?どうなの?と思いつつも示された所に座ります。私の常識、こっちの身分制度じゃ非常識かもしれないしね。帰ったらセバスさんに聞いてみよ。

しばらくするとお茶を出されたので飲んで待つ。
んー、ゼクスさんはどこに行ったのだろうか…
そしてドアのとこにいるメイドさんはいつまでそこにいるんだろうか…



********************



本邸に着いて早1時間ほど経過。まさか席について1時間も待たされるとは想定外でした。
暇ですね。本でも持ってくればよかったよ。
長い待ち時間は病院とか行ったら当たり前だし、それで怒ったり騒ぎ出したりする程短気じゃないつもりだけど、さすがに何の音楽もかかってない、見るものもないと来ると限界が近い…

お茶も何杯も飲んでられないし。お腹がタプタプです。
そしてずーっとドアの所にメイドさんいるのよね。ずっと立ってるの。
そこに居られるとさすがになんか息が詰まるんだよね…



「あのー」

「・・・」

「すみません、私いつまでここで待っていればいいんでしょうか」

「・・・」

「えーと、聞こえてます?」

「・・・」



おっと、無視されましたよ?
どーせいっちゅーの。

はぁ、とため息を付きつつ、私はメイドさんの前まで移動する。
俯き加減のメイドさんの前に立ち、無理矢理目を合わせるように動いてみる。
一瞬の攻防の後、視線が合った。



「私の声、届いてました?」

「・・・申し訳ございませんが、私に答える権限はございません」

「じゃあ誰に聞けば答えが返ってくるのかしら?」

「わかりかねます」

「ではわかる人を連れてきて頂けます?」

「申し訳ございません、私はこちらでお世話をするように命じられておりますので」

「・・・そうですか」

「申し訳ございません」



謝ればいいってもんじゃないと思うんですけどねー?

とにかくこの人は『ここでお世話すること以外できません』っていう事だ。
私の問いかけに答えられる権限がない…答えを持ってないってこと?メイド長かなんかに『お客様をこの部屋に案内してもてなしとけ』みたいな指示を受けてるのかな?

それがこちらのお屋敷の『常識』であるなら、部外者の私にどうこういう権利はない。仕方ないか。



「そういえば私トイレに行きたいんですけど」

「・・・ではご案内いたします」



あ、トイレには連れてってくれるのか。
そうだよね、『お世話』だもんね。という事は本でも持ってきてくれって言えばしてくれるのかな。お世話のうちだよね。

部屋を出て廊下を進む。
トイレは割と近くにあり、用を済ませてひと息。
いやあトイレも綺麗にお掃除されてるなぁ。こういう所を清潔にしとくってのは基本だよね。某夢の国でも園内の清掃に力入れてるもんね。

トイレから出ると、さっきのメイドさんが近くに控えている。
ここで反対方向に向かって猛ダッシュ!とかしたらどうすんだろ?
この人もターニャ達みたいにおっそろしく足が速かったりするんだろうか。あの子達、ヒール履いてるくせにすごく足が速い。何度追いかけっこしても負ける。なんだあのスペック。
『お待ちなさいませ~ぇ ウフフ』とか言いながら猛スピードで追いかけてくるターニャ…軽いトラウマになる。

部屋に戻るなり、私はメイドさんに用事を言い付けてみました。
お仕事だからね!お仕事だから仕方ないね!



「あの」

「・・・」

「暇なので、何か本を持ってきてもらいたいんですけど」

「・・・どのような物をご希望でしょうか」

「あんまり難しくなく、読み応えのあるものを」

「・・・かしこまりました」



私の提案、めっちゃフワッとさせときました。
でもここでどんなものを持ってくるかが、メイドさんの腕の見せ所だと思うわけ!
相手を見て、どんなものが興味あるかな?とか判断して持ってこないといけないし!

私はソファに戻って本を待つことにした。
メイドさんがドアから離れて数分、数冊の本を持ってきた。
目の前のローテーブルに並べる。
何かを言うでもなく、並べてお辞儀をしてまた元の位置へ。



「・・・そうきたか」



私の前には、絵本が並べられていた。
おっと?これはどう判断したもんか…
異世界から来たって知ってて、読解レベルは低いと判断したか。
または馬鹿にされてるのかどっちかな?
それとも、この絵本意外とこの世界とか国を知るのにすごくわかりやすい内容とか?

とりあえず1冊手に取って読んでみる。

はい、子供向けのお話でした。
クマさんがハチミツ取りに行く話。
○ーさんなのか?そうなのか?こっちにもいるのか?

他の本は、双子のリスがホットケーキを焼く話。
あれ?これは?○りと○らですか?
こういう子供向けのお話って、地球とリンクしてんのかな?

そう考えるとなんか不思議な感じがするなぁ…
他にも探してみたら同じ、または似たような話があるんだろうか。これはちょっと調べてみたいかもしれない。
図書館とかあったら入ってみたいなぁ。

そんな事を考えながらパラパラとめくっていると、何やら不穏な気配がしてきた。
どうやら廊下で誰かが大声出している様子。
私がドアを振り返ると、メイドさんも廊下の様子に気付いていて、ドアの方を見ていた。

と、ガチャっとドアが勢いよく開いた。
そこにはゼクスさん。



「おお!ここにおりましたか!」

「あー、はい」

「帰りますぞ!もうここにいる必要はございませんからな!」

「え?帰るんですか?」



何やらお怒りモード。
誰と喧嘩してきたんだろ?血圧上がっちゃうよ?

そうしていると、ゼクスさんの後ろから男の人が入ってきた。
あれ、あの人、見た事ある。息子さんだっけ?



「お待ちください父上!私の話も・・・!」
「耳を貸すに至らん!」

「それではあまりにも横暴ではないですか!」
「何を言っておる!お前の言に分があると言うのか!」

「きちんとこちらの常識を教え、教育を施す必要があるのは父上にだっておわかりでしょう!」
「そのような気遣いは不要だと何度言えば理解するのだ!
彼女を駒にでもしようとでも言うのか!許さぬぞ!」



揉めている内容がなんとなーく理解できたような気がしなくもない。これは間違いなく私の事で揉めている。

しかしそういう事は本人のいる所で話し合ってもらいたい。
確かに私は見た目15~6の少女ではあるが、中身は息子さんと同年代の大人なのである。まさに「見た目は子供、頭脳は大人!」なのだから。

他人事のように観戦していれば、部屋の入口にはお綺麗な女性が顔を出した。年齢は30代…いや20代でもいけそう。
もしかしたら息子さんの奥様かしら。
バチっとその女性と目が合った。軽く会釈をすると、その女性は扇で口元を隠しながらにこりと微笑んだ。
するりと揉めている男性陣の脇をすり抜け、私の方へ。



「はじめましてお嬢さん。随分お待たせしてしまったのではないかしら?」

「はじめまして、奥様。そうですね、暇でした」

「あらあら」



なんかもう取り繕うのも面倒になっていたので本音を言う。
そうすると奥様は視線をテーブルの上の絵本に向けた。



「貴方にはこちらの本では物足りなかったのではない?」

「そうですね、メイドさんにおまかせしたらこのチョイスでしたので。これはどう判断したらいいのかな、と思いながらも読んでました」



そう言うと、メイドさんは顔色を変えた。
ああやっぱりバカにしてたのね?確かゼクスさんは私が異世界から来たことを『息子』には言ったと言っていた。
今日ここにゼクスさんと私を迎える事で、接待役のメイドに何も言っていないはずがない。そこで誰がどう指示したのかは知らないが、私の読解レベルが子供レベルだと思ったのか、どうなのかわからなかったけど、顔色を変えた所を見るとバカにしていたと見るべきだろう。
ちなみに息子さんは知っていたはずだ、私の読解レベルは通常の大人と同レベルだって事。だって手続きとかした時にあの小難しい書類ちゃんと音読して内容確認したもん。

この会話を聞いてさらに態度が氷点下になったゼクスさん。
苦虫を噛み潰したような息子さん。
申し訳なさそうになった奥様。
顔色がゾンビ状態のメイドさん。

さて、これどうしようかな…帰りたいなぁ…

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