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異変の始まり
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しおりを挟む「あら?ゼクスさんまたお客様?」
「そーなんですよ」
「ここんとこ連日で」
「なんかあったんすかね」
「お前等手が止まってるぞー」
「・・・何してるの、みんな揃って。バザーでもやるの?」
彼等の前。机の上にはビーズのような小さくて細かい石がたくさん。それをピンセットでつまみ、何やら型に並べている。
どう見てもアクアビーズにしか見えない。
昔姪っ子が小さい時にハマってやっていたなあ。
よくわからないデザインのものを大量に『あげるね!』と渡されたっけ。あれって水で固まるのすごいわよね、どうなってんのか。アイロンで温めてくっつけるのもあったっけなあ。
「遊んでないですよ!」
「バザーなんてやらないですよ!」
「あっ、また飛んでった」
「エンジュ様・・・僕達遊んでるように見えてるんですね・・・?」
「いやどっからどう見ても遊んでるでしょ」
「違いますよ!あー!細すぎてイライラする!」
「細かい作業は嫌いじゃない、嫌いじゃないが・・・さすがにこれはキツい・・・」
「あり?飛んでったやつどこだ?」
「デザインするのは好きなんですけどねえ」
「だから何してるのこれ?」
彼等の近くには箱の中にアクキーの様なものがたくさん。全プレでもなければなんなの?バサーとかで売るやつじゃないの?通販なの?
********************
疲れ切った彼等を休憩させ、話を聞いてみることに。
どうやらこれは遊んでいたのではなく、ビーズのような細かい石は、細かい魔石なのだとか。
そしてその細かいクズ魔石を並べて配置し、一定の魔力を流す事で再加工。デザインや使う魔石の量によっては御守りになるらしい。
「えっ、こんなのからできるの?」
「そうなんです」
「といっても、製作者にもよるんですけど」
「オレが作るのっていつも素早さが上がるだけなんですよね~」
「キリは風属性に特化してるからなあ。でも速さが上がるだけでできることも増えるから、冒険者ギルドには重宝されてるんですよ」
「へえ~、おもしろいわね、私にもできるかしら」
「やってくれるんですか!」
「お願いします!」
「うわ、エンジュ様の凄そう」
「助かります、僕達最近ずっとこれに追われてて・・・」
他にもこのクズ魔石から御守りを作っていた研究室があったそうなのだが、最近そこの研究員だけでは手が回らなくなっているらしい。
クズ魔石から作るので、耐久性はあまりないのだそうだ。しかし多種多様なものが作れるし、懐に余裕のない冒険者や、街から街へ移動する商人や護衛にとってはかなり需要があるのだという。
軍人…王国騎士や近衛騎士には、きちんとした魔石から作られるものが官給品として支給されるのだろうが、民営の冒険者ギルドや一般の人には魔石で作られた護符は高額すぎて手が出ないとか。
「このクズ魔石も、もともとはそういう護符なんですよ」
「で、それが壊れたりとか、発掘中に砕けたりするものを再加工してるんです」
「だから細かいんすよね~、あっさっきのやつ落ちてた」
「キリはよく飛ばしてるんだよな・・・ちゃんと拾っとけよ?そんなのでも危ないからな」
「でもこれちゃんとキレイに丸になってるのね」
「そこはアレです」
「こういうのを精製するとこがあるんです」
「これでも魔石っすからね、魔法の媒介にもなるんすよ」
「これだけ小さければ、攻撃魔法には使えませんが、生活魔法なら応用が効くんですよ。なので、街でこういった専門の店もあります。ここにあるものは魔術研究所内で加工していますけどね」
私が知らないだけで、実は色んな事をしている魔術研究所。単なるアクアビーズのおもちゃみたいに思っていたが、なかなか需要のある作業だったみたい。
なので私も参加。ゼクスさんに聞きたいことがあって来たけど、お客様がお帰りになるまで待たないとね。
イスト君に教えられ、簡単なデザインからチャレンジ。
色々とデザインがあり、それによってどんな加護が付くか変わるらしい。
細いピンセットを使い、ビーズのような小さな魔石を型に並べていく。型とは言っても、20センチ幅で正方形のプレートだ。そこに窪みがたくさんあって、そこに魔石を置いていくだけ。
…ほんとにアクアビーズみたい。結構こういうの好き。
「エンジュ様器用ですね」
「こういうの好きなのよね」
「女性の方が手も小さいし、こういう細かいものは得意なのかもですね」
「そうね、そういうのもあるかも。・・・で、この後どうするの?」
「そうしたら、全体を囲うように手で覆ってください。
全体的に、満遍なく魔力を流したら勝手に形になります」
「えっ、簡単」
「それがですね、魔石にも属性があるので満遍なく魔力を流すって割りと難しいんですよ。人には魔力属性がありますよね?得意・不得意もあるので」
「あー、成程。反発したりしちゃうわけ?」
「そうなんです。あ、でもエンジュ様って全属性でしたね。そしたら割りと抵抗はないかもしれません」
そんな話をしながら、手でアクアビーズもどきを覆う。すると、ちょっと手の下がほわっと温かくなった。
なんていうの?温かい飲み物が入っているカップの上部を手で覆った時みたいな感じ。
「あ、なんか温かい」
「それが魔力放出してる感覚ですね。攻撃魔法とか使う時もそういった何かが手から出るような、体から抜けるような感覚ありませんか?それが魔力を放出させてるって事みたいですよ」
「・・・毎度思うけど、イスト君て説明上手よね」
「そーなんですよね!イストさんの説明わかりやすいですよね!」
「口調も優しいし、聞きやすいんですよ」
「丁寧っすよねー助かってますよ」
「・・・わかりますか、エンジュ様。コイツらに言い聞かせる事がどれだけ手が掛かるか。その結果今の僕があります」
「苦労してきたのね、イスト君」
まあそうよね、この3人結構それぞれ癖があるし。
それをまとめるイスト君が人格者になるのは至極当然なのかもしれない。
と、手の下の温かさがなくなった。
これは終わりということかな?と思って手をどけると、そこには見た事のあるカメオができていた。
…こういうの、母親のアクセサリーボックスから出てきて、欲しいと思ったよなあ。カメオのブローチ、って憧れよね。これはブローチじゃなくて石の部分だけだけど。これにブローチ用の台座とピン付けたら出来上がり?
手に取って懐かしいなあとか思っていると、イスト君が凝視していた。ん?上手くできたから驚いてるの?
「・・・なんですかこれ、エンジュ様」
「え?カメオじゃないの?」
「いや、あのデザインからなんでこんなのできるんですか」
「・・・いやそんな事言われても。こういうのができるものなんじゃないの?」
「うわ、すげえ」
「やっぱりな、こうなると思った」
「さすがはエンジュ様っすよね」
「ちょちょちょ、待ってよ。じゃあこれから何ができるのよ」
「・・・『普通』はこういうのができます」
そっと出されたのは七宝焼のようなツルリとしたもの。
そこには確かに模様…のような色の濃淡が混じりあっている。
他にもルーン文字のようなものが描かれているものもある。これは魔術文字で『増加』とか『強化』とか指向性のある効果を出すためのもの。
しかし、今私が持っているカメオもどきは、私がよく知る貴婦人の横顔姿のやつ。
「・・・ぐ、偶然じゃない?」
「もうひとつ作ってみてください、エンジュ様」
みんなに見られつつ、もうひとつ。
同じように魔石を並べ、魔力を流す。
手をどけると、今度は薔薇の絵が入ったカメオもどき。あ、この柄も見た事あるなあ。
「これは確定ですね」
「しかもかなり高品質じゃないですか?」
「すげー、属性付与入ってるし」
「・・・なんであのデザインでこうなるんですかね?やっぱりイメージの差ですかね」
「と言われてもねえ・・・向こうではこういうデザインのブローチがあるのよ。だから頭の片隅に『こんなのいいなー』とかいう気持ちがないとはいえない」
その後、いくつ作っても私がやるとカメオもどきが出来上がる。他にも違うデザインで配置してみても同じ。
…むしろそれしか作れない。柄は貴婦人の横顔バージョンと、薔薇の絵の2つ。
応用が効かなさすぎじゃない?これ。
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