24 / 197
冒険者ギルド編~多岐型迷路~
23
しおりを挟むお互い名乗り終わった所で、お仕事の話を開始。
クエスト依頼書は、『獅子王』が持っている。それをテーブルへ置きながら、彼は足を組んだ。
「レディのお目当ては『毒胞子』か」
「ええ。ドロップ率が良くないから手に入らなくて。いっその事クエストにして、誰かに依頼を受けてもらえたらいいかなと」
「『毒胞子』ねえ・・・おいグラストン、ドロップすんの何だった?」
「・・・レディ、わかっていて依頼を出しているんですね?」
「ええ、そうだけど。何か問題がある?」
「グラストン、だから」
「ちょっと待っててくれないか、アルマ。レディ、あれはかなり交戦も低く、難易度も高く設定されるクエストになります。申し訳ないが、手を貸せる冒険者に当てはありません」
「あらそうなの」
「申し訳ないが、こちらのクエストは破棄させてもらいます」
『獅子王』が黙っているのをいい事に、ギルマスさんは依頼書をクシャクシャに丸めた。うーん、という事は本格的に私が多岐型迷路へ乗り込むしかないのでは…?
まあタナトス召喚しつつ、ターニャかライラに着いてきてもらえば道中は安全に行けそうな気がする。ただ私あんまり運が良くないんだよな…交戦率が低いということは、TAKEいくつかかるの?10倍速にしないといけない感じ?
「では仕方ありませんね、この話はなかったことに」
スタッと立ち上がる私。こうしてても仕方ないし、ギルドに登録しなきゃダメかな?登録したとしても、多岐型迷路に入る許可ってもらえるのかしら。
でも参加資格は誰にでもある、っていうのがギルドの鉄則だし、許可されない事もないだろう。
さて1階に降りてキャズに…と思った私の手を掴んだ人がいる。振り返ると『獅子王』が止めていた。そのまま金色の瞳に険を含んでギルマスを睨み付ける。
「悪いな、座ってくれレディ。───てめえグラストン。何を勝手に俺のクエストを台無しにしてやがるんだ」
「待てアルマ、これはギルドマスターとして容認できない」
「ああん?ギルドマスターとしてだあ?
お前、勝手に自分だけの判断で却下しただけじゃねえか、ふざけんなよ?ギルドの掟も無視しやがって何を言ってやがる」
「アルマ落ち着け、このドロップ品は」
「『悪魔茸』だろ?知ってる」
「知ってるんなら!」
「だから必要なんだろ!てめえ、俺が何も知らずに王都に来たとでも思ってんのか!見くびってんじゃねえぞ、伊達にS級冒険者なんぞやってねえ。今回はギルド本部からの要請も兼ねてんだ、邪魔すんな、ぶん殴るぞ」
…えっと?殴りましたよねさっき?
ギルドマスターさんに反論している最中、『獅子王』は1発殴ってました、私見ました。
しかし『獅子王』はそんな事お構い無しです。
あ、もう1発いくぞ、ってことかな?
『獅子王』はギルドマスターがクシャクシャに丸めた依頼書をもう一度綺麗に伸ばし、私に見せるように押し出した。
「もう一度聞く。レディ、あんたの望みは『毒胞子』だな?間違いないか」
「ええ、交戦率も低いし、ドロップ率も低い。でもどうしても『毒胞子』が欲しいの。無理にとは言わないわ、危険度も高いしね。ダメなら他に手は無い訳では無いから」
「誰かアテはあるのか?」
「そうね、自分で取りに行くしかないかな?と思っているけど」
「は?・・・あんた自分でか」
「ギルドでダメなら仕方ないでしょ?」
「腕に覚えがあるってのか?」
「私は戦えないわよ?でもその代わりに手段が無い訳では無いから、行けない事もないかもしれないなと」
何かを考えている『獅子王』。
私が自分で取りに行く、と言ったことに驚いているギルドマスターさん。直ぐに申し訳なさそうな顔になり、私に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません、レディ・タロットワーク。大変失礼を致しました」
「別に気にしていませんよ、貴方は貴方の考えがあってそうしたのでしょうから」
「・・・ギルド員を無駄に消耗させるためのクエスト、だと思いました」
「何の為に?私がそんなに面倒くさいことをする理由が何かありましたか?」
「お貴族様の、ワガママかと」
ああなるほど、他にも無理難題を言ってくる貴族がいるわけね?それでギルド員を守る為にクエスト破棄を申し出たと。
ギルド員にとってはいいギルドマスターなのかな?私には関係ないし、興味ないけどね。
そのまま頭を下げたままのギルドマスターさん。頭を上げろとは言わない。だって私が『下げろ』って言ったわけじゃないし、この人の独断でやってることだ、好きにすればいい。
そんな私を見て、『獅子王』は笑った。
「なかなか肝が座ってるのな、レディ・タロットワーク。エンジュ様と呼んでもいいか?」
「どうぞご自由に?本当に受けてもらえるの?簡単とは言えないし、危険もあるのよ?」
「そりゃそうだろ、危険じゃないクエストなんかない。今回、ギルド本部から要請されてる多岐型迷路の調査も兼ねるから、エンジュ様のクエストはちょうどいいんだ、受けるぜ依頼」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ。さすがに私が多岐型迷路に乗り込む、って言うと怒る人がかなりいるから」
「なのに行こうとしたのか?」
「それしか方法がない、というならやむを得ないかなと」
「答えたくなければ言わなくていいが、何の為に?」
「能力値回復薬の作成に挑戦しようと思って」
そう言うと、ギルドマスターさんはガバッと頭を上げた。まだ下げてたのか、この人。
「パ、能力値回復薬だって!?あれがどれだけ厄介な代物がわかっていて言っているんですか!?」
「そんなに厄介?『毒胞子』さえあれば後の素材は簡単に手に入るじゃない、後はトライ&エラーでしょう?」
「そ、そんな簡単に?」
「ねえ、グラストン・ノイシス。貴方私を『誰』だと思っているのかしら。これでも『タロットワーク』の人間なのよ?できないことに手間をかける事は趣味じゃないの、わかるかしら」
「っ、」
「ギルドマスターだと言うのなら、もう少しあの多岐型迷路の事に真剣になりなさい。本当に『魔物大発生』なんて起きたらどうしてくれるつもりなの?
情報を小出しになんてしてないで、さっさと神殿や騎士団にも通達なさい。何かが起こってからでは遅いのよ?こうしている間にも『悪魔茸』が人を襲わないとは限らないの。
言っている意味がわかるわよね?」
「まさか、本当に、生ける屍の事を?」
「起きない、と言い切れるの?それともギルドではそうなったとしても対処できるだけの蓄えがあるんでしょうね?」
「・・・早急に、手を打ちます」
「さっさとしなさい、ゼクスレンからも叱責されたのでしょう?貴方、危機感が足りないのではなくて?」
「・・・それくらいにしといてやってくれ、エンジュ様。あとは俺が形が残らないくらいぶん殴っとくから」
その言葉に1番顔色が悪くなったギルドマスター。
まあわかる、こんなゴリラに殴られたら原型留めないのでは。
私は部屋を出て階段を降りながら、後ろからついてきている『獅子王』に話しかける。
「いつから迷宮へ入るつもり?」
「そうだな、明日からと言いたい所だが、用意もしないとならない。明後日から1週間くらい、とりあえず潜る」
「そう、わかったわ。回復薬はこちらでも用意するわね」
「いいのか?必要経費は普通こっち持ちだろ」
「そういうものなの?でもかなり難易度も高いし、それくらいはさせてもらうわ。使わなければ返してもらえばいいだけの話でしょう?」
「持ち逃げするかもしれないぜ?」
「貴方はそんな事しないわ、そうでしょう?アルマ・レオニード」
出入口に、キリ君が待っていた。
私は彼を見つけたので、後ろにいる『獅子王』へと振り返る。彼は少し驚いたような顔をしていた。
「貴方は私の依頼を受けてくれた。だから私貴方を信じるわ」
「・・・参ったねこりゃ」
「期待しているわ、『獅子王』」
「ああ、任せておきな。明日、またここで会おう」
「ええ、わかったわ。今日と同じくらいの時間でいい?」
「ああ、バーにでもいるから声を掛けてくれ」
さてさて、思いがけずS級冒険者にクエストを引き受けて貰ってしまった。さすがに何もフォローしないわけにはいかないわよね。
とりあえず、研究所に戻ったらいくつか回復薬でも作成しますか。
570
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる