異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

文字の大きさ
25 / 197
冒険者ギルド編~多岐型迷路~

24

しおりを挟む


失敗しくった。
まさかシールケの『主』があんな女性ヒトだとは。

冒険者になりたて、それもギルドに入ったばかりの新人ルーキーを自分の『騎士ナイト』にするような貴族だ、大した人間ではないとタカを括っていた。

王都だけあって、ギルドには平民だけでなく貴族からの依頼もかなり多い。しかも厄介なものばかり。
冒険者ギルドも商売だ、金がないと運営できない。だから少々の無理をしても貴族からの依頼も受けなければならない。

だがしかし、度を超えたものも多い。
希少レアな素材を手に入れて来い、は1番多い依頼だ。確かに報酬も悪くはないが、そんな依頼ばかりに冒険者を割いてもいられない。

今回の依頼もそうだ、『毒胞子』だと!?
神殿からの依頼ですら消化できてないってのに、さらに受注するだなんてなんて事をしていやがる、シールケ!
自分の『主』だからといって、優先させてどうするんだ。これはキツく灸を据えないとならんな。

目の前で依頼書をぐしゃっと丸めた。
アルマが睨んでいるが、依頼者の『レディ・タロットワーク』は観察するかのように見ていた。
その瞬間、『これはまずったか?』と脳裏によぎる。予想であれば、ここでヒステリーな癇癪を起こして騒ぎになる。
そのままシールケを呼んで、強制的にお帰り願おうと思っていた。

が、しかし。

『ならこの件はなかったことに』

あっさりと引き、立ち上がる。
この瞬間、『失態』の2文字がハッキリと脳裏に浮かんだ。

顔を見れば、もうその興味は俺にはなく、次の手を考える色。魔術研究所で向かい合ったゼクスレン所長を思い出す。そうだ、タロットワークなのだ、と。



「くそ、何だって俺は・・・!」

「そうやって悔いてる暇があんのかクソ野郎」



脳天から降ってくる低くドスの効いた声。
瞬間、頬が熱く燃えるような衝撃。咄嗟に体で受身を取る。
次の瞬間には椅子ごと吹っ飛んでいた。



「てめえ、よくも人の選んだクエストにケチ付けてくれやがったな、グラストン」

「待てアルマ!こっちにも事情があってだな!」

「んな事知るか!威張り散らす腐った貴族共と見分けが付かねえようならギルドマスターなんぞ辞めちまえ!」



ガタン!と勢いよく蹴り飛ばしたテーブルが破砕。
自分に入れられるはずだった一撃。本気で冷や汗が出る。



「─────ギルド本部から依頼要請が来た。
王都近郊に出現している迷宮ダンジョン多岐型迷路ルーレットメイズ』の調査。可能なら攻略しろだとよ」

「なっ!?S級冒険者獅子王を動かす程の事になってんのか!?」

「近衛騎士団、王国騎士団両方からの調査要請があったらしい。なんでも、王都近郊で『見かけない魔物の発見報告』が上がっている。中にはデマもあるようだが、何やらおかしいとの事だ」

「『見かけない魔物』・・・それはつまり」

「─────迷宮ダンジョンから出てんじゃねえのか、だとよ。それこそデマだと切り捨てようとしたが、調査要請を上げているのが近衛騎士団団長『護国の剣』フリードリヒ・クレメンスと、副団長の『剣聖』シオン・カイナスが連名だ。
そこに『姫将軍』アナスタシア・タロットワークからもとくれば、無視する訳にもいかんだろ」

「そりゃ・・・お前が引っ張り出される訳だ。S級冒険者レベルの御三方となれば、『獅子王』を引っ張りだす必要があるな。
お前、確か『剣聖』と騎士団時代同期じゃなかったか?」

「あん?そんな事もあったな。向こうは侯爵子息、こっちはスラム上がりの傭兵崩れだ。肩を並べて『同期』だなんて言えねえよ」

「お前の時代、おかしい腕前の奴ばっかりだな」

「うるせえ。そこに来てあの依頼だ。これは渡りに船だと思ったね。ちょっと毛色の違う女だなと思えば、タロットワークの人間だ。・・・上手くやれば向こうサイドの情報を出してくれるかもしれねえ、と思ったところのお前だ。ぶん殴りたくなるのもわかるな?」

「本当にスマン。ここの所、トリュタケ絡みで貴族からの注文や神殿からの催促で首が回らなくなっててな。これ以上ギルドに負担をかけたら困ると思っていた矢先だったんだ。
その上頼みの綱であるお前を、貴族からの依頼なんぞで持ってかれたら困ると思ってな」

「むしろ問題はそのトリュタケだろ。知ってんのか?ギルドを通さずに冒険者へ依頼してる奴等が出てきてるぞ」

「だからその対応だよ!あ~~~、クソ!金に糸目を付けない連中が出てきやがって、ホイホイ乗っかる冒険者が多いんだよ!
そういう奴に限って、大した準備もしねえから負傷率も上がる。もしもあの階層で死んでたりでもしたら、それこそレディ・タロットワークの言う通り生ける屍リビングデッドの登場だよ」

「なんだよ、すげえじゃんさっきの姉ちゃん。んな事まで頭が回る才女か?こりゃ落としがいも出てきたな」

「おまえ本当に片っ端から女を口説くな」

「いつ死ぬかわかんねえこの稼業だぜ?出会ったいい女は抱いておきたいじゃねえか、それが冒険者ってやつだろ?」

「それで問題になった女がどれだけいると思っていやがる。この王都ギルドだけでも両の指じゃ足りねえだろ」

「足も入れたら足りるか?」

「死ぬまで治らんな、その性格はよ」



********************



魔術研究所へ戻れば、アナスタシアが来ていた。
ゼクスさんと話をしていたみたいで、私が帰るのを見ると執務室へ手招きしてきた。



「アナスタシア、来ていたの?」

「ああ、ちょっと2人に相談と報告を兼ねてね。ギルドへ行ってきたのだろう?エンジュ」

「ええ、『毒胞子』の回収依頼をね。偶然にも『獅子王』が受けてくれたわ」

「・・・なるほど」
「ギルド本部も重い腰を上げたということか。アナスタシア、お主等の行為も無駄にはならんかったようじゃな」

「ん?何かしたの?」



アナスタシアだけでなく、フレンさんやシオン。
近衛騎士団から正式に、ギルド本部へ対して迷宮ダンジョンの調査依頼をしたそうだ。

きっかけは、とある村の青年の『見かけない魔物がいる』という話からだ。アナスタシアが遠征して回った結果、見かけない魔物はいなくとも小鬼ゴブリンの群れが多い事を発見。それだけならば哨戒任務を増やす事で対応し、巣を探して討伐すればいいのだが、王国騎士団の方からも同じような話が来たと言うのだ。

これはもしかしたら、本当に『見かけない魔物』…迷宮ダンジョン内の魔物が抜け出ているのではないか、という結論に至った。

調査をして、そのような事実がないならばそれでもいい。外界の魔物の突然変異という事もあるだろう。その場合を考え、近衛騎士団と王国騎士団で綿密にルートを決め、探索をするそうだ。
現在、『見かけない魔物』の報告があった場所を収集、特定をし、隊を振り分けているのだという。



「だから、私も明日からまた遠征に出る。この事を兄上とエンジュに言っておかねばと思ってな。邸に戻らないから」

「そうなのね、気をつけてねアナスタシア。回復薬少し持っていく?」

「ああ、助かる。後、迷宮ダンジョンの調査にカイナスを派遣する事になった」

「え?なんで?」

「ギルドの人間だけでは隠蔽もありうる。その調査に行く人材が誰なのかわからなかったからな。こちらからも手駒を出すことにした。とはいえ、それなりに腕も立ち如才なく相手とやっていけるとなると、カイナスが適任だろう。『獅子王』が出るならば、さらにな」

「『獅子王』だけでも充分すぎる気がしてるけど」

「エンジュよ、『獅子王』が昔騎士団におった話を覚えておるか?その時、カイナス伯爵が同期だったんじゃ」

「えええ!?あの2人同じ歳なの?」



言われてみれば、まあ同年代くらいかしら。
『獅子王』の方が老けてる…ように見えるけど。

あの2人ならば、最下層の迷宮主ダンジョンボスも倒してこられるんじゃないの?
んー、これは『毒胞子』のドロップに期待ができるかもしれないなあ。

しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...