23 / 196
冒険者ギルド編~多岐型迷路~
22
しおりを挟む「おーい、キャズ?帰ってきてえ」
「ああ、こんな形で会えるなんて・・・!グッジョブ、いい仕事してくれたわあんた」
「いやいや偶然だし。しかもクエスト受けるってよ、どうしよ」
「ていうかあんた何しに来てんのよ!用があるんなら呼んでくれたら私から研究所に行ったのに!フラフラ出歩いてていいわけ?」
「キリ君が御守り卸しに行くって言うから、物見遊山ついでに見に来たのよ。ほらギルドの中も見たことなかったし。どんなもんかなって」
「はあ・・・セバスさんやターニャさん達の苦労がよく分かるわ。あんた守るのって物凄く大変じゃない・・・?」
「今はいないんじゃない?わかんないけど。それに護身装具あるから余程の事がない限り、彼等だって出てこないわよ」
「まあ・・・それあるんならね」
ふう、とため息を付くキャズ。
移動しましょ、と個別カウンターへ案内される。
と、後ろから『獅子王』の声が。
「何だよ、そんなに込み入ってんのか?」
「きちんとお話を聞くからですよ、そちらでお待ちください」
「長引くのか?俺も一緒に聞いた方が早いだろ」
こちらのパーテーション内に来ようとする『獅子王』。私はその彼の体を軽く触れて止めた。おお、硬い鎧着てる訳でもないのに、胸筋ガッシリしてるなあ。これはフレンさんやシオンといい勝負しそうだわ。
「ん?俺は邪魔か?」
「女の秘密話に首を突っ込むのはいい男のする事ではないと思わない?」
「なるほど?秘密、か」
「もちろん、貴方に受けてもらうわ。でも女同士話したい事もあるの。それは聞かれたくないわ?待っててくれるわよね」
「あんたがそう言うなら仕方ねえな」
降参だ、とでも言うように両手を挙げ、ウインク。
面白いなあ、この人。隣のバーにいるから終わったら呼んでくれ、とキャズへ声を掛けて去っていった、
キャズはうっとりしてその背中を見つめる。
「ふふ、いい男じゃない?ちょっと手が早そうだけど」
「そうなのよね、本当に手が早いのよ。あんた気をつけてよ?前のあんたならまだしも、今のあんたは思いっきりストライクゾーンよ、『獅子王』様」
「アルマさん、とか呼べばいいのに」
「無理よ、無理無理!たかがギルド職員が『獅子王』様の名前を呼ぶなんて。百歩譲ってレオニード様、よね」
「んじゃ、その『獅子王』様が受けてくださるってんだから、確実に手に入るかしらね」
「もしかして、『毒胞子』?」
「当たり。能力値回復薬、挑戦してみるわ」
「ゴメンね、一応他のパーティにも頼んでいるんだけど、なかなか交戦しないし、ドロップ率も悪いみたい」
「あー・・・希少魔物だけあって、ドロップ率も極小だったりする?」
「その通りよ」
「・・・クエストにするのが悪い気もしてきたわね」
うわー、交戦率も低けりゃ、ドロップ率も低いわけ?これはクエストにするのが悪いなあ。
しかも相手は『獅子王』様でしょ?S級冒険者に頼むものじゃないのでは。私はちょっと悩む。
しかし、自分で取りに行ければいいのだが、冒険者でもなくギルド所属でもない私が多岐型迷路に入る訳にはいかないし。
まあね、中の魔物はタナトス出しておけば一掃してくれるとは思っている。なので突入できないこともないのだが。
「・・・あんた、自分で取りに行こうかなとか思ってないでしょうね」
「鋭いっ!キャズちゃん!」
「バカ!いくらなんでも無理だからね!」
「それは重々承知の上です・・・さすがに私でもやらないわよ。命が惜しいもの」
「本当でしょうね?そういう所信用できないのよね?」
とはいえ、一応クエストは出すことに。
依頼者の名前が『エンジュ・タロットワーク』ではまずいか?と思ったのだが、ゼクスさんも『出してもいい』と言っていたので書いちゃう。ちょっとキャズが悩んでいたけど、魔術研究所が依頼者よりは、私個人の方が言い訳できる、という事で決まった。
依頼書はキャズが作成してくれることに。
終わるまで時間が少しかかるので、キリ君の様子を見に行く。
「あ、いたいた、エンジュ様」
「お、終わったの?キリ君」
「いんや、まだっす。鑑定結果待ってます。エンジュ様はクエスト発注してきたんすか?」
「うん、さっきね。今依頼書を書いてもらってる」
「報酬、どうしたんすか?」
「一袋につき、金貨1枚」
「お、そこそこっすね。受けてくれる人いるといいっすね」
「そうね。まあ後は受けてくれる人にもよるけど、御守りでも追加報酬に付けてもいいかも。なんせ低確率みたいだし、ドロップ率」
「あー、なるほど。これいいんじゃないすか?幸運上がりますよね、確か」
トントン、とウインドウ越しに私の作成したエッフェル塔型の御守りを示す。
まあ確かにPOW上がるしな。幸運にも補正付くかな?
本人に本当に受けてくれるのか聞いて、さらに要るようなら作ろうかな。もしかしたら『獅子王』ともなればもっといい奴持ってるんじゃない?パッシブスキルとかありそう。
数分後、キャズが依頼書を作ってきてくれた。もちろん、隣のバーに『獅子王』様を呼びに行ってきてもらう。キャズは喜んで行ってくれました。
キリ君は私が終わるまで待っててくれるの事。鑑定結果が終わるまで、ギルドの荷物整理なんかや、鑑定魔法を使ってドロップ品の仕分けなんかしてるみたい。
ちゃんとアルバイト料ももらってるみたいだし、魔術研究所も公認で認めてるらしい。ならいいか。後でご飯奢ってあげよう。
「おーい、お姉ちゃん来たぞー」
「あーはいはい、今行くわ」
「では私は戻ります。こちらは一旦お返ししますね『獅子王』様」
「ああ悪いな。これまでのクエスト依頼も処理しといてくれたか?サンキュな」
「いえ、喜んで。ではエンジュ様、また後で」
「ええ、ありがとうキャズ」
ぺこり、とお辞儀をしてカウンターへ戻るキャズ。
さて、クエスト依頼書は見てくれたのかしら?
『獅子王』様を見れば、依頼書をじっくり見ている。
そのまま私に話しかけようとした時、後ろから声がかかる。
「アルマ!戻ったか」
「あん?・・・ああ、グラストンか。最近な」
「何だよ水臭い。今日は久しぶりに呑みに───って、ん?そちらは、エンジュ・タロットワーク様、ですか?」
「あら、私貴方に名前を名乗ったかしら?」
『獅子王』に気さくに話しかけて来たギルドマスターさん。私を見付けると、ピタリ、と動きを止める。
それに対して私は名乗ってませんけど?と返した。キャズから話は聞いているのだろうし、知っているんだろうけど。
その様子に何かを察したのか、『獅子王』も眉をはね上げた。そのまま私の肩を抱くようにして2階に向かって歩く。
「おい、グラストン。上の応接室空いてるな?使うぞ」
「おいおい待て、アルマ!」
「話は後だ。それでいいよな?お姉ちゃん」
「構いませんけど、転びそうなんですけど!」
「ああ?悪い悪い。よっと」
ひょい、と抱えられる。これはお姫様抱っこ!
ひええええ、この歳になってからは恥ずかしいだけですけど!ときめきよりも恥ずかしさが強い!
しかし『獅子王』は大柄で背も高い。なので足も長い。コンパスには如何せん埋められない差がある…これが確かに1番早い。
スタスタスタ、と2階へ上がり、近くのドアを開けて中へ。ソファに私を降ろして、近くのソファへドスンと腰掛けた。
「さて、話を聞こうか。レディ・タロットワーク」
「・・・あら、素敵な呼び方をしてくれるのね。彼とは大違い」
「レディに対する礼儀はあるんでな。・・・おい、グラストン。お前、あんな所で彼女の名前を呼ぶもんじゃねえだろう」
「悪い、失態だ。申し訳ありません、レディ・タロットワーク。冒険者ギルド、王都支部、ギルドマスターをしております、グラストン・ノイシスと申します」
「エンジュ・タロットワークと申します。私の騎士がお世話になっているようですね。あまり手荒な真似はしないでくだされば嬉しいわ」
「なんだなんだ、『タロットワークの騎士』がギルドにいるのか?そりゃまた豪勢な事だ」
ははっ、と茶化すような『獅子王』。
それに対してギルドマスターさんは、苦い顔をした。
キャズをダシにして魔術研究所へ来たことを言われているのだと察したのだろう。
まあ、あれはゼクスさんもきっちりお灸を据えたみたいだからね。私は今後キャズを政治の駆け引きには使ってもらいたくはない。正当に評価をしてもらいたいだけだ。
応援ありがとうございます!
314
お気に入りに追加
8,520
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる