異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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心の、在り方

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順位戦は着々と進み、たくさんの騎士が目の前で真剣勝負を繰り広げている。

今回は王国騎士団から、近衛騎士団に入団を志す騎士も多く参加をしていた。
近衛騎士になるには、こうして順位戦へ出場し、自らの腕を近衛騎士団へ示すのが何よりの方法なのだという。

団長さんとアナスタシアは、血が滾るのか、試合場所の近くまで行って観戦中。しかし、周りの騎士さんは気が気でないに違いない。うっかりするとあの2人、『私が(俺が)相手になってやろう』と乱入するがあるからである。



「だからどうして座ってられないのかしら」

「それはもう仕方ありませんよね」

「あら、シオンはあちらで観戦しなくていいの?イザという時に止められるのは貴方くらいじゃない?」

「もうその役目は後身に譲りたくてですね。
あそこ、見えますか?とりあえずオルガとジェイクを置いてます。他にも、団長の隊ととアナスタシア様の隊の副官を」

「・・・頑張ってもらいたいわね」



どうぞ、と周りの騎士さんから差し入れ。
お茶と焼き菓子だ。以外にもこれがイケる。



「美味しいわね。騎士団クッキーとかって売り出してみたら?意外と買ってくださる方もいるかも」

「・・・その手がありましたね。下位騎士達のお小遣い稼ぎにはなりそうです」

「そうね?売り子さんしたら、買ってくれる令嬢と急接近とかしちゃったりしてね」

「すみませんレディ・タロットワーク、そこの所詳しく」
「今からでも間に合うでしょうか!」
「どの辺に出せば売れますかね!?」

「え、えええ」
「お前達落ち着け。レディに失礼だ」

「「「す、すみませんっ」」」



周りにいた若い騎士さんが必死に食いついた。
・・・く、苦労しているのかしら?

私はクッキーを3~4枚ずつパラフィン紙…ここではそうは呼ばないがら私にクッキーを包んで出してくれた紙に包んで、一つ銅貨1枚程度で売ってみてはどうかとアドバイスした。
1枚、ってところがポイント。これくらいならいいかな?って思う値段じゃないと食いつかないからね。



「このクッキーを作った方が、まだまだ量を作ってくれるかにもよるだろうけど」

「それは大丈夫です!」
「たくさんあるんで!」
「これ、俺達が作ったんです!レディのレシピで!」

「え?私の??レシピ???」



なんだそれは。初めて聞いたぞ?
ていうか、シオンも初耳だった様子。



「・・・レディ?レシピ本を出版しているのですか?」

「そんな訳ないじゃない、出してないわよ」

「あ、ご存知なかったんですね」
「この間、砦でタロットワークの執事殿がウチの料理長シェフ達に、レディのレシピ集を売ってくださって」
「すごく重宝しています!飯があんなちょっとした工夫で美味しくなって!」

「・・・セバス・・・何して・・・」



そう言われると、思い当たる節はある。

ターニャやライラがよくメモを取っていること。
もちろんマートンはこれまで教えたレシピは、全部しっかりメモっているはずだ。そこにセバスが加わっていない訳が無い。

しかしいつの間に広めて…?
大掛かりではなく手売り、という所がまた怪しい。
秘密にできる人を選んで売っているのか…?



「このクッキーは、僕達騎士見習いに取って、練習なんです」
「僕達は食事でみんなを支えるつもりなので」
「だから、あのレディのレシピはすごくすごく大切です。一生掛けて秘密は守り通します」



そう言って、深深と頭を下げて行った。
…いや、その『秘密を守る』って何?墓までもっていけとか言ったんじゃないの…セバス…?

その後、順位戦が終わるまでになにやら天幕が貼られ、クッキーを売り出し始めた。
キャッキャウフフ、と買っていった令嬢達の中で、お菓子作りを子が続出したのは余談である。



********************



私のレシピ、だというクッキーを口に運ぶ。
さくり、という軽い口当たりの、私にとってはのクッキー。
型抜きではなく、絞り型のクッキーという所が…まあ確かに私のレシピ、と言われても頷けるかも。
この形のクッキーは王都のどこを探しても出されないし、これまで見た事があるのはタロットワークの関係者のみ、のはずだ。

簡単だと思うのに、思いつかないのは、絞り袋で使うのがケーキのクリームだけという思い込みなのか?



「・・・美味い、ですね」

「クッキーってこんなものでしょ?」

「それを言えるのは、ではないですか?」

「そうかしら。・・・ああ、気になったのだけど聞いてもいい?」

「何でしょうか」

「シオンは『副官』と呼ばれるじゃない?『副団長』ではなく。まあ『副長』とも呼ぶけれど」

「ああ、そうですね。元々私は副団長を拝命するまでは、団長の隊の副官でしたので。そう呼ぶ者も多いですね。
『副長』は『副団長』のもじりかと。エンジュ様もそう呼んでいましたよね?」

「『副長』の方が呼びやすかったのよね」

「その理屈ですよ、どちらも。今は俺も別の隊を率いていますので、団長の隊の副官は別にいますよ」



ほら、と示された人を見ると、シオンよりも少し年配の騎士。
意外ね、もう少し若い騎士が付くと思ったわ。

私が意外、と思った事がわかったのだろう。
シオンが苦笑してみせる。



「そんなに、意外でしたか?」

「ごめんなさい、他意はないのよ?ただ、貴方の後任だからもう少し若い子を付けたのかと思って」

「団長の側に付けるには、あれくらい人でないと悪影響しか与えませんからね」

「あら、?」

「そう思って下さっても結構です」

「それにしてはシオンは気がするけれど」

に関しては人それぞれ、という事ですよ。俺もに謳歌してはいますよ?」

「あらあら、いけない人ね」

「ここではこのくらいにしておきましょうか。貴方を口説くには少し陽が高すぎますね。
・・・おや、これは珍しい人が出ていますね」



ふと、目を向ける。
そこには、王国騎士団の服を身につけた、一人の青年。





「・・・彼」

「ご存知ですか?ドラン公爵のご子息ですね。嫡男ではないですが、かなりいい腕をしていますよ。この分だと近衛に入りそうですね」

「そう。・・・かなり有望株なのかしら?」

「そうですね、入ったとしたらいい線いくのではないでしょうか。俺の隊には入れないですが、他の隊で彼を育てたいと言っている者がいますよ。その隊長も貴族の子息でしたから、ついて行きやすいのではないでしょうか」

「やっぱり、どこの家の出、というのは気にするもの?」

「騎士生活が長ければ長い程、そんなことに拘る奴は大成しませんね。何よりも剣の腕、資質、志に寄ります。
身分に拘って、上官の命令に従えないような奴は要りませんからね。…ですから、近衛ウチに入団してもすぐに王国騎士団へされる奴も少なくありません」

「どこも、同じね」

「魔術研究所でもそうですか?」

「どうかしら?あそこは塔に付いて勉強をする所だから。みんな自分の魔術の腕を磨くことにしか興味ないんじゃないかしら。各塔同士、横の連携もないのよね。
だから今度『順位戦』みたいにそれぞれの腕前を披露する場を設けてみようと思って。
面白そうじゃない?魔法合戦とかね」

「・・・」

「え?どうしたの?」

「・・・・・・王都、壊れませんよね?」

「何言ってるの、私とゼクスがいて、そんなこと訳ないじゃない?」

「そうでしたね。貴方とゼクスレン様の防御壁を突破できる魔術師がいるわけないですね。
・・・と、話を戻しますが。かの隊長は、ドランの遠縁でもありますから、他の人よりはに話を聞くでしょう。
聞かなければ、それなりにするまでですが」

「お仕事には厳しいわよね、『副団長殿』」

「そうでなければ、勤まりませんよ。その魔法合戦には、俺も招待してください。面白そうだ」

「そうね、貴方とフレンには囮とかサンドバッグにな」「それは勘弁願います」

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