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森の人編 ~魔渦乱舞~
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しおりを挟む小鹿ちゃんを抱っこして杖にて移動中。不意に大気が震えた。次いで、轟音。
飛行魔法で飛んでいる為、元々風の結界がある。
それを通り抜けるだけの轟音…ってなかったら耳がキーン、どころじゃすまないのでは?
「なん、ですかね。今の」
『ほう、『神の雷』を使える術者がいたとはな。エルフも捨てたものでもないようだ』
「え?インディグネイション?あるんですか」
『其方の知識にもあるか?』
「ええまあ、一応」
某RPGでは必ずと言っていいほど、魔術師の秘奥義として出てくる魔法。詠唱呪文?そりゃもちろん知ってます。カッコいいわよね!
あの魔法、回を追うごとに、出現する魔法陣のエフェクトが立体化したりしてまあ格好いいこと、この上ない。
どこぞの眼鏡大佐の秘奥義なんて、奇声あげちゃうわよね。素敵すぎて!!!何度も使うお気に入りでした。
思い出しうずうずする私。そんな私の考えが透けて見えるのか、世界樹の守護者は面白そうに言った。
『ならば放ってみせるがよい。周りは我が結界で抑えよう』
「へっ!?」
『どうにも今いる術者では奴らの『揺り籃』を破壊するに至らないらしい。中の元凶は我が仕留めよう。頼まれてくれるか?愛し子』
その異色の双眸に何が見えているのか。
まだ一陣までは少し距離があるようだけれど、世界樹の守護者には、その場が見えているかのよう。
私は内心大丈夫かな?これやらかし案件じゃない?まさかのセバスの二の舞いになったりしない?と不安を覚えた。
『さて、この木々を抜けると戦場となる。用意はいいか?』
「わかりました、やってみます」
『奥に的がある。其方にも感じ取れる『悪意』があるだろう。遠慮は要らぬ、灼き尽くしてくれ』
そっと目を閉じる。飛んでいるのに危ないと思うが、制御は世界樹の守護者がしてくれていたらしい。
らしい、とは、その時は全く気にしていなかったのだ。
後から考えたら、『あれ?危なかったよね?』と思うが、その時の私は促されるままに『悪意』を感じ取ろうとしていた。
目を閉じ、意識を向けるとモヤモヤとした暗く、異質な物を感じた。
「あれ、ですか」
『そう、あれだ。杖は我が制御しよう、其方は魔術に集中するがよい』
「ありがとうございます」
意識を集中。私が失敗したら、一陣にいる皆にも影響が出る。
世界樹の守護者は言った、『揺り籃を破壊するに至らない』と。他に方法はなさそうだ。出来ることをさせてもらおう、何かえらい事になっても何とかしてくれるだろう、この世界樹の守護者が。たぶん。
木々の向こうに球状の蛇らしきものが見えてきた。…球状、というよりは…
「──────尾を飲み込む蛇・・・」
『あれでは竜種への進化も止むを得まいな』
「───行きます」
『頼む』
心が決まった。あんな邪悪そうなものを放置したら危ない。私は世界を救う勇者とか聖女なんかではない。欠片ほどもそんな気持ちはないが、あれを放置していてはいけない、そう感じた。
「天晄満つる処我は在り、黄泉の門開く処汝在り。落ちよ、神の雷─────『神雷降来』!」
「っ、エンジュ!?」
「我が主!」
私の詠唱中、尾を飲み込む蛇を包むように立体魔法陣が組み上がる。まるで光の檻ができあがるかのよう。…見覚えあるなー、脳内の記憶ってそんなとこまで再現可能なの?
魔法名と共に、皓い稲妻が振り落ちる。
同時に、私と世界樹の守護者は地上に降りてその様子を見守った。もちろん全員に結界魔法が発動。
閃光が収まった後には、あの尾を飲み込む蛇は無く、変わりに金色の小さな竜種が浮かんでいた。
神々しくもあるものの、異彩を放っている。
「なっ、消し飛ばした・・・!?」
「なんという威力なのだ!?」
「お怪我はありませんか、我が主」
「ありがとうオリアナ、私は大丈夫」
『後は任せよ、愛し子、済まぬが傷を負った人の子を頼んだ』
世界樹の守護者はそう言うと、小鹿の姿から大きな角鹿の姿へ。…えっ!?〇ックル!ヤッ〇ルですよね!?
そこからは小規模の怪獣バトルです。
皆、何が起こったのかわからず見守るだけ。
私はオリアナに向き直った。彼女も所々怪我を負っている。…私達が来る前にどんな戦いをしたのだろうか。胸が痛む。
「『癒しの光』」
「っ、お手を煩わせました、申し訳ありません」
「いいのよ、貴方が元気でいてくれないと、私が困るでしょう?お互い様よ。世界樹の守護者が言っていたけど、他にも重傷者がいるの?」
「こちらへ」
オリアナの案内で進むと、寝かされた青髪君が。
胸元がひどく血に染っている。これはかなりの重傷?
近くにいるディードさんの顔色も悪い。
「大丈夫ですか、ディードさん」
「ああ、レディ。すみません力及ばず」
「これ、食べてください。少しずつですが魔力が回復します」
マジックバッグから魔力回復持続飴を出す。ディードさんはひとつ口に入れると、もうひとつ追加で口に入れてから、瓶を掲げてみせた。
「すみませんレディ、これは他のものにも?」
「構いません、使ってください」
「助かります、魔力が足りなくて回復に手が回らなくなっていたのです」
攻撃もしていたのだろうから、仕方の無い事だ。
聞けば、青髪君は窮地を脱してはいるが、大量出血の為安静中との事。仕方ないわよね、失った血は戻せないもの。口の中に回復持続飴を押し込んでおいた。砕いで舌の裏側に入れとけば、間違って飲み込む事もないでしょう。
…ちなみに、口の中に入れるのはオリアナがやりました。私がやろうとしたら怒られました。
見渡せば、近くで立って戦いを見ている獅子王とステュー。2人にも飴、必要よね?私は近くへ歩み寄る。
「アルマ、ステュー?大丈夫?」
「ああ、お前か」
「ご苦労様。大変だったねここまで」
「私はなんて事ないわ。2人とも、これ舐めて」
「回復持続飴か、貰う」
「それがそうなんだ。僕、食べるの初めてだよ」
「音楽家は魔力回復持続飴の方がいいんじゃねえのか?」
「じゃあ両方もらうよ、確かにかなり消耗してるし」
ぽいぽい、と2つ口の中へ。コロコロと転がしながら、楽しそうな色を翡翠の瞳に乗せる。
「へえ、なるほどね。これはいいかも」
「効果ある?」
「うん、回復薬だと急激に戻る感覚が嫌な人もいるからね。こっちは徐々に戻るからそんなにキツくない」
「そりゃわかるな、効き目の高い回復薬ほど落差もある。慣れちまえばどうって事はねえんだが」
「そういうものなのね・・・それは考えが及ばなかったわ」
ゲームじゃないのだ、確かに『回復』するだろうが、感覚までは瞬時に切り替わるものでは無いのだろう。
私自身、高級回復薬や超級回復薬を使う事はないのでわからなかったが…実験に飲ませた団長さんやアナスタシアには悪いことをしたかもしれない。いまさらだが。
「なんだ?どうした」
「・・・そこまで考えてなかったのよ、今後はその感覚を軽減する方向も考えてみなくちゃ」
「いやいや待て、んな事しなくていい。それがあるから使用者は怪我しないようにしようって思うんだからよ」
「そうだよ、君がそんな事気にする必要なんてないよ。怪我が治ったりするだけ幸運なんだから。使用感に文句言うのはくだらない権力争いが好きな方々ばかりだからね、そのくらい気にすればいいんだよ」
「言うこと言うねえお前」
「いっその事、治る前提で斬らせてくれないかなって思う事もあるんだよね」
「・・・おいエンジュ、こいつヤバくねえか」
「だ、大丈夫よ多分、実際にはやったりしないだろうから。多分」
「なんで2回言うんだよ」
「アハハやだなあ、バレるような事はしないから安心してよね」
「敵に回すと厄介だなこいつ」
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