異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 ~迷子の獣とお城の茶会~

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スライムが吐き出した時から全く動かない。
まさか、スライムの中に収まってる時から昇天召されてないでしょうね?その場合、トドメ差したのはスライムですか?



「動かないわねえ」

「・・・そういえばそうですね?生きてるのかな」

『みつけたときはいきてた』

「どこで拾ってきたの」

『うんとね、まちのなか』



どこから突っ込むべきなのか。
街中にこんな獣が転がってる事か。
それともウチのスライムが街中にホイホイ出歩いている事を追及するべきなのか。



「街中、って王都の中よね」

「そうですよね、それ以外はないと」

「その前に、私の部屋以外にこの子がホイホイ出掛けているのがどうかと思うんだけど」

「・・・確かに。街中にスライムいたらパニックになってもおかしくないです」

『だいじょーぶ、きえるから!』

「は?」
「きえる?」

『こうやるの!』



すると、スライムがすーっと
消える、というより背景と同化する、のだろうか。



「・・・」

「これ、隠密スキルの『隠遁スニーキング』じゃないですか?いつの間にこんな事できるようになったんだ?」



もう犯人は1人しかいない。ていうか思い付かない。
こんなことを教えられる人物。セバスしかいない。

私は片手で目元を覆い、溜息。何回目?
私の様子に思い当たったのか、イスト君の声から感情が消えた。



「・・・僕、血を引いてますからなんとも言い難いんですけど」

「わかってる、何も言わないで」

「やらかすのってだけじゃないですよね」

「ま、まあどうやって見つからないようにしてるのかはわかったわ。でもこんな獣が街中に転がってるってありうるのかしら」

「何処からか脱走してきたんでしょうか。調べます」



イスト君は獣の傍にしゃがみ、息があるかどうか見ている。毛並みの中に手を入れたり、口を開いたりしている。ガブッてされたらどうしましょ。

しかし、獣が起きることはなく、イスト君は立ち上がる。



「息はあるようですね。おそらく何処かに繋がれていた物が逃げてきたのでしょう。かなり弱ってます」

「危険はない?魔法で弱っているの?」

「そうですね、魔法で縛られているせいもありますが、衰弱が激しいというのもあります。とりあえず治療しますか」

「・・・そうね、放っておくのも寝覚めが悪いし」

『・・・ごめんね、ごしゅじん』

「最終手段はキミがパクッと食べて証拠隠め」
「さすがに酷くないですかね!?」



冗談なのにイスト君が被せ気味に突っ込んできました。
いいわよね、突っ込み役がいると安心してボケられるわ。
…半分本気でしたけど。

イスト君の見立てによると、魔法で縛られている事もあり、回復魔法などで治療はできないそうだ。弾かれてしまうらしい。
そのため、ゆっくり休ませてやる事と、食事をしてもらう事が必要なようだ。



「食事、って言うけど食べられるの?この体で」

「・・・ちょっと難しいですかねえ」

「こういう場合どうするもの?」

「うーん、僕も魔獣に詳しい訳じゃないので・・・トーニが戻ったら聞いてみましょうか。あいつ確か魔獣の研究もしてたはずなんで」

「仕方ないわね、そうしましょうか。この部屋に置いておいていいのかしら?」

「エンジュ様が良ければ。この部屋は外部からの魔法も弾きますし、あまり動かさない方がいいと思います。かなり衰弱してますので」

「・・・それ、スライムの中にいたからじゃないわよね?」

「・・・」

「えっ、ウソでしょ」

「いやなんとも言い難いんですよ。だってスライムの中に入った事なんてないですし。胃袋の中が異空間状態になってる事は想像も着きますし、実際検証されてもいますけど」



すまない獣さん。もしかしたらキミの衰弱は私のスライムが元凶かもしれません。そっと撫でてみると、思いのほかゴワゴワ。



「残念・・・」

「えっ、何がですか」

「もっとこう・・・ふさふさを期待してたわ」

「汚れているからじゃないですか?」

「えっそう?じゃあ『清潔魔法クリーン』」

「あっちょっ、エンジュ様」



じゃあ綺麗に、と思って清潔魔法クリーン
少し効き目が悪く、時間はかかったものの白いフサフサの毛並みに。所々青が入っている。何それオシャレ。



「これ、汚れじゃなくてオシャレね」

「意外と効きましたね、弾かれているわりには」

「確かに時間かかったわね」



いつもならスキッとキレイになるのだが、今回はじわじわとキレイになっていた。やっぱり魔法は弾かれるのか。でも何で弾かれるのかしら?

とりあえず部屋の中に寝かせておく事に。
ソファの上にでも、と思ったのだが、それも動かさない方がいいとイスト君は言う。



「下手に動かしてトドメ刺さない方がいいですよ。かなり衰弱してますから。自己治癒能力は高いはずですから、少し待ちましょう」

「そうなのね。・・・そこまで弱るほど何があったのかしら」

「こればかりはなんとも。トーニが戻るのを待ちましょう。昼過ぎには帰ってくるはずですから」



じゃあ僕は隣にいますから、と私の机に膨大な書類の山を形成して去っていくイスト君。…それなりにあるな。
仕方ない、獣さんも起きないし、仕事しますか。



*******************



書類の山にはいくつか手紙…招待状も混じっていた。
貴族の嗜み、お茶会は全部却下。なんで届くんだ?どこからか『婦人名簿』でも出回っているんだろうか。

その中でも2つ、中を開けて見たものがあった。

ひとつはシオンからの観劇のお誘い。
見慣れた文字がカードに踊る。

『お約束の観劇のお誘いです。こちらなのですが、ご興味はいかがでしょうか。いつでも、という訳にはいかないのですが、ご予定が付く日を教えていただければチケットを手配します』

中には手書きメッセージと、公演のチラシ。



「これはどう見ても・・・・・・よね」



やはり某ヅカの劇場チラシに見える。
やっぱり娯楽や文化は似たり寄ったりのものがあるのよね。不思議なことに。それとも何か?ちょいちょい落っこちてくる異世界人が故郷を懐かしんで流行らせちゃうのか?

歌あり、踊りありという内容のようだ。
要はミュージカルよね。キラッキラの。
これは見たらハマる人はハマる、と原型のやつについては聞いた事がある。私は機会がなく見ることはなかったが。

こちらではより娯楽が少ないのだし、ハマる人も多いだろう。

いくつか日程を書き出し、私もお手紙にすることに。

もう一枚は王家から。シュレリアとエリーの連名だ。
昼間に王城の庭を解放し、大規模なお茶会をするらしい。
本来は小さな子息や令嬢のデビュタントとなるようだが、そこにご招待と書いてある。子供いませんけど?

まあそれは表向きであり、単に私とお茶をしたいのだろう。
恐らくアリシアさんも呼ばれ、王家と王太子妃、次期第2王子妃、そして魔術の頂点タロットワークとも友好関係ですよ、と他の貴族にアピールしておきたいのだ。

また小煩い人達がいるんだろうな。未だには外遊中となっている。意図せずの名前も貴族社会では広まり出している。それはステューからも聞いていた。
だとすると、ここで釘を指しておく事は後々プラスになるだろう。…でなければ、ここに手紙があるわけないしね。王妃と王太子妃が直々に送るものだ、貸しひとつ、かな?

『たまには私達に付き合ってちょうだい』
『イケメンもたくさんいますわよ?』

エリーのメッセージによると、女性だけでなく男性も来るらしい。そこは抜け目ないエリザベス王太子妃だ。きっと私が『見たい』と思っているゲストを揃えてくれることだろう。



「・・・しかしこれはドレスを作らないといけないのかしら」



当日よりなによりも、私にはそちらの方がハードルが高い。
ああ、クチュリエのマダムの嬉しそうな顔が浮かぶ…
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