異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 ~迷子の獣とお城の茶会~

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お茶をしつつ、私はシオンとお話。
仕事の話…『タイド』の話と、定期的に仕入れている回復薬ポーションの話を一通り終えると、エルフの郷ビフレストの話を聞きたいと言ってきた。



「そういえば、お一人で帰ってきたのですか?」

「道案内で森の人エルフの冒険者さんがいてくれたわよ?」

「レオニードはどうしたんです?」

「置いてきたけど?依頼クエストがまだ終わってなかったから」

依頼クエスト、ですか?冒険者ギルドからは今回の『タイド』の話だけだと聞いていますが」



どこから聞いたのか知らないが、その人は話はしなかったのね。言い出しにくかったのかしら。



「『種付け』ですって」

「・・・ご婦人レディの口からそんな話が出るとは意外ですが。そうですか、森の人エルフも他種族の血を取り入れる時期が来ましたか」

「あまり、驚かないのね」

「そうですね。むしろ、森の人エルフが集落を形成していた事が明るみになった事が驚きでした。今回の『タイド』に冒険者が介入しなければ、今でも森の人エルフが多数いる事は知られないままではないでしょうか」

「さすがに、王家は知っているだろうけれどね」

「そうですね、諜報部がありますから。団長もご存知だったと思います。私は話に聞く程度でしたので、公にはしていませんでしたが」



さすがに近衛騎士団副団長、といったところか。
森の人エルフが生きている事を情報として知ってはいても、踏み込んだ情報はなかったのだろう。さすがに団長さんにしてみれば知っていただろうが、国家機密に等しい情報だ。女房役に渡すとしても時期を見るだろう。

シオンの雰囲気からしても『種付け』にはさほど拒否感を示していない。これが貴族と平民の違いかもね。
そんな私の視線を気にしたのか、少し苦笑したシオン。



「『種付け』に反応した方がよかったですか?」

「いいえ、そんな事ないわ。さすがに貴族ともなると、その辺りにはするんだろうなと」

「・・・確かに、そうかもしれませんね。私の生家にも母上以外に女性はいましたし、庶子もおりましたので。『血を繋ぐ』という点に関してならば、理解があるかもしれませんね。そこに関しては私もそんなに拒否感はありません。レオニードはどうでした?」

「まあ、あの人はだから。ちょっとやりずらいな、という空気はあったけれど、割り切っていたわよ?
私との賭けに負けたから、10人のノルマを課してきたけれど」

「じゅ、10人とは。同じ男として同情しますね」

「あら、シオンなら引く手数多だと思うわよ?綺麗どころがたくさんいたもの。他の冒険者さんは腰が引けてたわ」

「それはそうですよ、『種だけ欲しい』と言われて『では』と応じられる男はレオニードくらいでしょう。自分の血が入った子供が産まれる訳ですから、それなりに気を使うのでは?冒険者達は貴族の出という訳ではなかったのでしょう?」

「そうね、皆平民出だと思うわよ」

「なら、なおさらです。ご存知かと思いますが、この国エル・エレミアでは一夫多妻制が主ですから。貴族のように後継者問題の為に愛人を置いて庶子を産ませるならばともかく、平民ならば浮気したらそれこそ大変とか」

「貴族でも浮気、って大事じゃないの?」

「確かにそうなんですが、『遊び』として奨励されているフシもありますのでね。・・・誤解しないでくださいね?俺に庶子はいませんよ」

「残念ね、シオンの子供なら大層美丈夫に育つでしょうに。
『種付け』の事だけれど、森の人エルフさんから言われたわ。人族にもたまにある、って。最近でもあるのかしら?」



そう聞くと、シオンは難しい顔をした。
両手の指を組み、膝の上へ置いて前傾姿勢。



「・・・・・・遠征に出た際に、たまにあります。
魔物に村を滅ぼされてしまった所は、大抵男手が不足していますので、そういった事をお願いされる事もあります。
騎士団では対処ができないのですが、個人の裁量で受けている場面も数度確認しました」

「そう、なのね」

「私も副団長ですし、隊を預かる責任者です。
隊員の騎士から『応えてやりたいがどうしたら』『私には無理です』等、色々と意見を言われます。
団長の意見が『騎士としてではなく、個人としてならば咎めない』という形なので、己の裁量で判断しろと言ってますが」

「それはフレンらしいわね」

「近衛は貴族の出も多いですから、『施し』という形で折り合いを付けている者も多いです。本人が庶子、という奴もいますから。そこにお家騒動が絡んで来るのでなければ、認知等はなしという形で済ませているようですね」

「詳しいのねシオン」

「・・・最終的に陳情が来るのは私の所ですからね。
重ねて言っておきますが、俺はしてませんよ?」

「聞いてないわよ?」

「確認です」



別に、シオンが過去に他の女性とどんな交際をしていようが、私に公開する義務なんてない。何人と関係していようが、今のシオンには関係ないのだし。むしろだから今の彼がいる訳で。
それを否定する事は、今の彼を否定する事にもなるしね。

それを教えろというならば、私も何人の男性とお付き合いして、体の関係があってとか包み隠さずに言うってことでしょう?そんな事したくないし。

カイナス侯爵家は、シオンのお兄さんが継いでいるとの事。
お父様とお母様は既に領地で隠居生活なのだとか。
シオンの他にも兄弟はいるそうだが、それぞれ婿やら嫁に出ているそうだ。その為、カイナス伯爵として本家を盛り立てていくのが筋なのだそうだが、本人は身を固めずに独身貴族。



「シオンは伯爵として世継を望まないの?」

「私は騎士団副団長です。伯爵としての爵位を貰ってはいますが、有事の際は国を守る軍人として動かねばなりません。・・・元より、伯爵家の存続を期待されてはいないんですよ。この爵位も私一代限りではないですか?まあ、兄上の子を養子にしてもいいのですが」

「子沢山なの?」

「ええ、愛人がそろそろ第5夫人になりそうで」

「・・・ご。」

「はい。第『5』夫人です」

「多数の女性に平等に愛を注げる人、って一種の才能だと思うのよ。どう思う?」

「私もそう思います。ですので兄の周囲は賑やかですよ?たまに事件が起こるほど」



怖い、シオンの笑顔が固まっている。
これは愛人同士で血を見るやつですね?



「シオン?侯爵家に帰ったりすることはあって?」

「ええ、たまには。ですがので、帰りますよ?」

「そ、そう、のね」

「ええ、が派手なので」



夜這いをされているらしい。
愛人で収まるよりも、弟の夫人の座を狙っている。
貴族の夜の攻防、恐るべし。



「ですからエンジュ?早く貴方が私の最愛となってくださると、俺もとても心安らかになれるんですが」

「あー、えー、観劇の話っていつだったかしら?」

「ええ、10日後はいかがでしょう。私も非番ですから」



サクッと変えた話題に笑顔で付いてきた。
シオンの切り替え、早いわね。



「観劇の後はお食事をご一緒にいかがでしょうか」

「楽しみだわ」

「エスコートできるのを楽しみにしていますね」



ドレスは既にアナスタシアから団長さんへ話が行っている。
昨日通信魔法コールで『任せておけ!』という返事が来ていた。ちょっと楽しみではある。

シオンとのお茶会も終わり、見送る。
と、帰り際にシオンから質問が。



「そういえば、王太子妃様よりお茶会の誘いがあったのですが」

「あら、それってデビュタントのお茶会のこと?」

「ええ、毎年恒例の『茶会』ですね。子供達も参加できるという事で、割とにぎやかなものです。エンジュ様も来られますか?」

「ええ、王妃様からお誘いをね。今の貴族社会の状態を見るにはもってこいだとか」

「確かにそうかもしれませんね。ではそれも楽しみにします。あまり当日はお側に行けませんが」

「あら、何かあるの?」

「いえ、今回は一応『伯爵』として出ますので。それなりに社交をしておかないといけませんからね。『茶会』は男性と女性の場がはっきり別れるのですよ」

「そうなのね、私のには薄いから覚えてないけれど」



いかに私が外国育ち、という設定でも『茶会』に出た事がないという訳にもいかない。設定としては『覚えてない』で通す。子供の記憶なんてそんなものだ。シオン自身も、最初の『茶会』は友達とふざけ合ってて覚えていないとか。

華やかそうで楽しみだわ。観劇よりも後の話だけれど。
さて、たまには『貴族のお仕事』もしてみますかね。

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