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獣人族編 ~迷子の獣とお城の茶会~

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やって参りました、王家主催のお茶会。
慣れないドレスに身を包み、あれこれと試行錯誤の末出来上がった歩きやすいパンプスを履き、出陣です。

ちなみにパンプスは、私がこちらアースランドへ戻ってきてからずーっとあれこれとシュレリア王妃、エオリア・タロットワーク夫人と豪華な面子で話を詰めていき、この度商品化致しました。…私は何度か王城の私的なお茶会でコメントしただけで、ほとんど2人が進めた商品です。だが私も制作者の1人となり、マージン入ってきます。ありがたいんだけどね。

流行は身分の上の者から下へ、ということで、今回のお茶会でシュレリア王妃と私がドレスに合わせた色のパンプスを着用。
徐々にエリザベス王太子妃、タロットワーク夫人、と流していくのだそうだ。

マシュマロパンプスとまではいかないが、ストームを作ってあるだけ歩きやすくはある。ソールが薄いと負荷がかかるものね。



「レディ・タロットワークのお越しです」

「こちらへ案内してらして」

「かしこまりました」



王城のど真ん中にドン!と馬車を横付けし、ヒヤヒヤしながら案内されること数分。
しっかりと躾けられた従僕フットマンに促されて扉を潜れば、そこは1段高く設えられたテラスにティーテーブルが。

広く取られたテラスに、4席。

王妃、王太子妃、私、そして『星姫』の席だ。
4人で囲むには充分な広さのテーブル。
とはいえ、他の人が座るような席はない。ここは限られた者だけの場所となるからだ。徹底してるわね。

テラスの両脇に、下のお庭へ降りる階段はある。
そこには王家直属の親衛隊が1人ずつ立っていた。
ご挨拶には上がってくる人もいるのかもしれない。



「待っていましたわ、エンジュ様。さあこちらへ」
「あら、エンジュ様は私の隣よ?エリザベス」

「ズルいですわ!王妃様はこの間もエンジュ様を隣にしたではありませんの!」
「王妃特権ですわ!」



…何を言い合っているのか。
決まっている席を動かすのは悪いのだが、私は2人を説得し、間に座る事で一段落。

この場合、上座が王妃と王太子妃となるのだが、エリーはさっさと席を代わり、王妃と私が上座…



「・・・これ私が上座じゃマズくないかしら?」

「何を言ってますの?寧ろエンジュ様が1上位に来るのは当たり前でしてよ?」
「そうですわ、元々はエンジュ様の場所ですもの」

「まあいいわ、この席順で・・・」



これ以上言うとなんか面倒な事がさらに降ってきても困る。
この2人は私の事を全て知っているからいいのだが、今日はここにアリシアさんが入る。…未だ、私は彼女に本当の事は話していない。



「アリシアさんの事だけど・・・」

「まだ、話していないのだったかしら?」

「彼女が王族になる、というのならともかく、既にカーク王子とは婚約し臣籍に下ることは決定なのよね?」

「ええ、そうですわ」
「まだ数年先となりますけれど、カーク殿下に公爵位を受け渡す事は決まっていますわ。・・・だから、ですの?」

「それもあるけれど。あまり多くの人に言うべき事ではないでしょう?アリシアさんなら信用もあるけれど、それが負担になるのは避けたいわ」

「一理ありますわね。王族であれば監視も容易でしょうが、公爵となると色々と関わりが増えますものね」
「私達の監視下に置くことは容易ですけれど、さすがに交友関係全てにおいては難しくもなるでしょうし」



…監視下に置くことは可能なのか。ていうか置くこと多分決定なんだろうなコレ。
まあ王族直系と『星姫』のカップルだものね。仕方ないか。身の安全もあるし、仕方ないと言えば仕方ない。
ただ、王城レベルの管理体制が可能かと言うと、そこまでは厳しいといったところかしら。

パチリ、とシュレリアが扇を畳み、口元に添える。
その視線は人が集まりだしている階下の庭に向けられ優しいものだが、その口から出る言葉は冷静に尽きる。



「いざとなれば、契約魔術で縛る事も可能ですし、エンジュ様のお好きなようになされば宜しいわ。私達がどう判断しようとも、ゼクスレン様が良きようになさいますでしょう」



さて、と呟いてシュレリアは立ち上がる。
ゆっくりと足を進め、テラスから庭を見下ろす。
招待客達の集まり具合を見て、茶会の開催を告げるのだろう。

私とエリーは座ったまま、顔を見合わせた。



「・・・王妃様はあのようにおっしゃいますけれど、本当にエンジュのお好きにしていいのですわよ?」

「契約魔術、ねえ」

「少し過激に聞こえもしますけれど、その方がいいですわ。それがカーク殿下やアリシアさんのを保障するのですもの。『胡蝶の夢』を使うのが宜しいでしょうね」



私が『始祖の血族』である事は、このエル・エレミアにおいては非常に強いカードとなる。
その情報を知る事で、王族たる数名は『影』に護られようが、臣籍降下する2人においては適用されない。

ならば隠しておけばいいのだが…後は私自身の問題よね。自分が楽になりたいから話したいようなものだもの。お茶会が終わるまでに考えることにしよう。

私達の席からも、階下の様子は見渡せる。
母親のドレスに隠れる小さな子供たちもいれば、ドレスに身を包んですこし背伸びをする少年・少女の姿は初々しい。
勿論、出会いを求めるくらいの青年・淑女の姿も華々しいものだ。…凄いなこの会場。



「凄いでしょう?」

「こんなに集まるのね?」

「ただし、皆様お相手のいない方々だけ、ですのよ?
既に婚約者がお出での方は、この後の夜の舞踏会へ出席なんですの」

「エリーも出るのでしょう?」

「私は出ませんわ。あちらは殿方達が出ますから、私達女性陣はこちらのホストを務める事にしましたの」



なるほど、一日中出ずっぱりは辛いものね。
私とエリーが話している間に、シュレリアが下に降りて挨拶をしていた。皆さんそれぞれエリアに分かれ、お茶会の始まりだ。

テラスに近い方が大人エリア、奥の方が子供エリアのようだ。
…まあやんちゃな子供は大人エリアにこっそり侵入して冒険もどきの経験をするのだろう。テーブルの下とか入ってね。

小さな紳士淑女達はちょこちょこ動いて可愛らしい。
母親のドレスの影から顔を覗かせているのも可愛いものだ。



「ふふーん、可愛いわね」

「あら、エンジュも子供が欲しくなりましたの?」

「見てる分には可愛いわ」

「ふふふ、私の子供も可愛がってくださいましね」



そう言ってそっと腹部を撫でるエリー。
『王太子妃、懐妊』という話は前から聞いていた。まだ安定期に入ったばかりのため、貴族達に公にした訳ではないのだが、私には王太子夫婦本人達より連絡が来ていた。

仲睦まじくて良かった良かった、と思っていたがシリス殿下、エリーそれぞれから来た通信魔法コールの内容が明らかに違っていたのでコメントはしません。

シリス殿下は『ようやくひとつ役目を果たしました』的な内容だったが、エリーは『これでシリス様にも次の御子を孕ませて頂かなければ』という馬車馬ロックオンだったからである。
…ファイト、シリス殿下。



「これはこれは。我が最愛の2人はなんと麗しいのか」

「あら、いらっしゃいましたの?」

「それは勿論。最愛の人が来ると知っていれば、駆け付けるのは当たり前だろう?エリザベス」

「残念ですわ、私が独占したかったのですが」



テラスへ出てきたのは、誰あろうシリス殿下。
王族の正装、とまではいかないが、昼間の茶会用のパリッとした礼装姿に『爆ぜろイケメン!』と心の中で叫んだ私は正しいと思います。

白に蒼。アルゼイド王家特有の色、ロイヤルブルーを入れた白の衣装。…これ、私隣に並んだらお揃いに近いのでは?ちなみにエリーは白に瞳と同じピンクトルマリンの色を入れている。

私の横に膝を付き、手の甲にキスをするThe王子の鏡のようなシリス殿下をにこにこと笑顔で見守るエリー。
…この夫妻、どうなってるんでしょうか。

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