だからお前はいつも外してるんだ

あおいまとか

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トークアプリ

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『来んの?』
 宮岡からのトークアプリはたった一言だけだった。その後に新しい文章が増えることはない。
「もっと何か送ってこいよ」
 イラっとしながら、スマホに向かって呟く。いつもなら宮岡のアパートか、オレのこの部屋でつまみ片手に二人でくだを巻いている時間帯だ。
 だいたいあいつは、宮岡雅之みやおかまさゆきという男は隠れビッチというやつなのだ。簡単にオレに自分の体を差し出しやがった。
 あいつから「俺って男が好きなんだよね」と聞いた時には驚いた。続けて詳しく話すのを黙って聞いた。高校の時に自覚したらしい。
 「ふーん」と相槌を打った。オレらは中学から仲良くて、高校でも同じグループで、大学も同じ学科で同じ授業を受けることが多かった。自然にいつもつるんでた。意見が合わないことはもちろんあったが、大きな喧嘩に発展することはなくて、気が合った。口に出したことはないものの、親友だと思っていた。それなのになんでいま、職場の愚痴を山ほど言い合って、酔いに酔って頭が働いてない時に言った? いままでだってたくさん打ち明ける機会はあっただろう? こんな二時間飲み放題がついて、見栄えはいいものの、適当に量がケチってあるチェーン店の居酒屋のおまかせコースとやらを食べている最中に告白する内容じゃないだろう?
(つまりアレだ。お前はオレを親友だとか思ってなかったわけだな?)
 大事な秘密を、素面の時に打ち明けようとは思わなかったんだから。こんな時に、仕事でくたびれて、酒に呑まれてポロリと失言したみたいに言うんだから。
 オレは酔った頭でそう結論づけた。
「抱いてやろうか」
 宮岡のこちらの反応を伺っている気配にイラっとして、思わずそう提案した。そのセリフに宮岡はとてもホッとしたようにへにゃりと笑った。
(んだよそれ!  お前誰でもいいのかよ)
 親友でもない、に抱かれるぐらいなんだから。
 体を暴いた朝、宮岡はおそるおそるオレに聞いた。
「俺たち友だちだよな」
 
「ああ、そうなんじゃねえの?」
 やはり親友だと言われなかったことにオレはがっかりしながらそう答えた。そうなんじゃねえの。お前が友だちだと決めてるんなら、オレらは友達なんだろ。
 オレのその適当な返事にも、宮岡はやはりホッとしたように笑った。
(クソッ)
 もともとオレたちには、休みの前の日には合流して酒を飲む習慣があった。だって田舎とは違うこの大きな街で、心から信頼できる相手は宮岡だけだったのだ。梅雨に雨は降るがカエルの鳴き声と川の音も聞こえない。夏にセミは鳴いているが、ごくたまにきこえるぐらいで朝夕の大合唱もなく、秋に虫の重なり合う音色が響かないこの街で、オレはジワジワとまいっていった。大きな何車線もある道を車がびっくりするほど多く走って、さらにクラクションを鳴らしながら渋滞している風景に、なにかが吸い取られていくようだった。宮岡だけが水の合わなさを共有してくれると思っていたのに。
(なんだよ。その態度はよ。最悪だ)
 なにが最悪か自分でもわからなかったが、とにかく最悪だった。
 いままでは一緒に酒を飲み、どちらかのアパートで寝落ちるだけだったのに、そのあとに体を重ねるようになった。好きだとか愛してるとかお互い口にすることはなかった。どんどんプレイだけが激しくなっていった。そういう大人のおもちゃを使いたいと言っても宮岡は決して拒否らなかった。少し怯えてる様子なのに、必ず「いいよ」と言った。まるで、拒否れば、オレとの縁が切れると思っているように。
(ずいぶんオレは信用ないんだな)
 いつしか酒を飲まなくても抱くようになった。だってこのビッチは、手を離せばどこの誰とも知らないやつに抱かれるに違いない。信用のないオレにこんなに抱かれるぐらいなのだから。オレが抱いておかないと、セックスだけが目的の危険なやつと関係を持つかもしれない。
(オレが男同士の何もかも体験させてやるから。夜も飽きないようにしてやるから。だからオレだけにしとけよ)
 祈るように抱いた。
 後輩とのサシ飲みは許せなかった。宮岡は酒が入ったらどこの誰にでもついていくに違いないからだ。だいたい宮岡はその後輩が、「俺を慕ってくれて可愛い可愛い」と連呼していた。この前もやっと先輩の自覚が出てきたと照れてるように笑っていた。
(おーまーえー、その可愛い後輩に誘われたら寝るだろ? 絶対寝るだろ? あの照れたような笑顔をニコッと浮かべて、ついていくだろ? なのにデートじゃないだ? ふざけるなよ。誰でも良くて、ちょうどよくオレが目の前にいるから寝てるだけのくせに)
 だから「お仕置き」だと伝えてから、宮岡からの連絡は無視した。既読スルーだ。宮岡が反省して、サシ飲みはもうしないとか、人前で酒を飲むのは辞めるとかちゃんと自衛すると決心しない限り、返事をしないと決めた。

 夜も蒸して眠れない真夏に始まったこの対応は、残暑と呼ばれる時期が過ぎても続いた。
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