19 / 24
愛してはいないそうですが
しおりを挟む
あれから、ゆっくりとジャイルの環境はかわっていった。
たまに、本隊と連動して動く日だと聞くようになり、ついに本隊と共に動くと聞き。
今日は、暴走したと言われることはなくなり。
いつの間にか、本隊と共に出撃するのが通常になり、ついに魔獣の巣を一つ潰して、見事に前線を押し上げた。
おれがこの砦にきて、一年と少したった頃だった。
***
そして、なぜかおれはジャイルと馬車に乗せられて、アルクロフト公爵家に向かっている。
前線を押し上げたので、ジャイルはいったん家に帰ることになったと説明を受け、お前も一緒に行くぞと言われた。
そりゃそうだ。砦から出るなら、専属男娼もお役御免だな。最近暴走もなくなったしなと、ギール男爵家に帰るつもりで荷をまとめたのに。
いつまでも、馬車が分かれない。
え?途中で分かれて、おれは自領へ帰るんじゃないの?
ジャイルに聞いても
「俺と一緒に来い」
しか、言われないし。
もしかして、アルクロフト家公爵家に連れて行く気か?男爵家の三男なんて、貴族の末席にいるだけだから、公爵家の絨毯を踏める身分じゃないんだけど??
***
公爵家の邸宅に着くとその大きさに驚いた。そもそも門から邸宅までも馬車だったし。エントランスは広いし、華美ではないが手すり一つとっても、長年いいものを手入れされながら使い込まれた重厚な重みがあった。
お前用の客室はここだと案内され、部屋の豪華さに驚く。
座っているソファから違う。なんだこれ刺繍?堅い布に細かに総刺繍が施されているぞ。用途は座るだけなのに、これだけで芸術品じゃん。おそるおそるソファに座っていると、なんと公爵様に呼ばれた。
内心ビビりながら案内された執務室に入る。
公爵は、ジャイルと同じダークグレーの髪と瞳で、立派な体格だった。普段着のテーラードジャケットが窮屈そうだ。この人に似合うのは軍服だ。
「ライ・ギール。砦で、愚息の相手をしてくれたときいた。ご苦労だったな。褒美をとらせよう」
公爵は立派な書斎机に座ったまま、そう、おっしゃった。おれは正面から机を挟んで、立ってそれを聞く。よかった。褒美ね褒美。約束の成功報酬とは別に、おれ個人に何かくださるということだろう。太っ腹だ。
このまま公爵家で専属男娼だと言われたらどうしようかと思った。
しかしおれが返答する前に、バンッと乱暴にドアが開いた。
ジャイルが許可をえることもなく、部屋に入ってくる。
「父上、俺の伴侶です。勝手なことはなさらないでください!」
……敬語使えたんだな、ジャイル。
で、誰が伴侶?
「伴侶は女にしろと言っているだろう!」
公爵が言い返している。あぁ、うん。おれもそう思うよ。伴侶は女性がいいよね。ていうか女性じゃないと子が産めないしね。一騎当千のアルクロフト家の血筋はたくさん残してもらわないと困るな。国全体でそれを望んでるよ。
……で、誰が伴侶?おれはジャイルから何も言われてないんだけど?
しばらく親子で伴侶はこいつだ、許さんと問答が交わされた。え?やっぱりおれは当事者なの?
「……前線を3つ」
やがてジャイルが何か交渉し始めた。
「前線ごときでどうにかなると思うな」
え?なんの交渉?
「5つ。兄上の妻をとっとと決めればいい」
何が5つ?それ危なくないやつ?あとアルクロフト家に嫁ぎたい良家の娘さんは、簡単に見つからないと思うよ。命の危険があるから。
「7つだ。これだけ落ち着けたら考えてやる」
「こいつを伴侶にしたら、全部行く。戦いは俺で、家のことは兄上にしたらいい」
敬語どうした。いつもの口調に戻っているぞ、ジャイル。
「もとよりそのつもりだ。お前に社交はムリだ……力を手中にしたと聞いたが、まことだな?」
「ああ、だがこいつがいなければ発揮できない」
ジャイルがおれの腰に手を回した。やつの手が腰骨をツーとなぞる。首筋に口づけを送られる。
やめろ、お前、親の前で何やってんだ。
おれの弱いとこを触るな。こんなところで色気を出すな。
「……7つだ。それがすんだら勝手にしろ」
交渉?は、それで終わった。
たまに、本隊と連動して動く日だと聞くようになり、ついに本隊と共に動くと聞き。
今日は、暴走したと言われることはなくなり。
いつの間にか、本隊と共に出撃するのが通常になり、ついに魔獣の巣を一つ潰して、見事に前線を押し上げた。
おれがこの砦にきて、一年と少したった頃だった。
***
そして、なぜかおれはジャイルと馬車に乗せられて、アルクロフト公爵家に向かっている。
前線を押し上げたので、ジャイルはいったん家に帰ることになったと説明を受け、お前も一緒に行くぞと言われた。
そりゃそうだ。砦から出るなら、専属男娼もお役御免だな。最近暴走もなくなったしなと、ギール男爵家に帰るつもりで荷をまとめたのに。
いつまでも、馬車が分かれない。
え?途中で分かれて、おれは自領へ帰るんじゃないの?
ジャイルに聞いても
「俺と一緒に来い」
しか、言われないし。
もしかして、アルクロフト家公爵家に連れて行く気か?男爵家の三男なんて、貴族の末席にいるだけだから、公爵家の絨毯を踏める身分じゃないんだけど??
***
公爵家の邸宅に着くとその大きさに驚いた。そもそも門から邸宅までも馬車だったし。エントランスは広いし、華美ではないが手すり一つとっても、長年いいものを手入れされながら使い込まれた重厚な重みがあった。
お前用の客室はここだと案内され、部屋の豪華さに驚く。
座っているソファから違う。なんだこれ刺繍?堅い布に細かに総刺繍が施されているぞ。用途は座るだけなのに、これだけで芸術品じゃん。おそるおそるソファに座っていると、なんと公爵様に呼ばれた。
内心ビビりながら案内された執務室に入る。
公爵は、ジャイルと同じダークグレーの髪と瞳で、立派な体格だった。普段着のテーラードジャケットが窮屈そうだ。この人に似合うのは軍服だ。
「ライ・ギール。砦で、愚息の相手をしてくれたときいた。ご苦労だったな。褒美をとらせよう」
公爵は立派な書斎机に座ったまま、そう、おっしゃった。おれは正面から机を挟んで、立ってそれを聞く。よかった。褒美ね褒美。約束の成功報酬とは別に、おれ個人に何かくださるということだろう。太っ腹だ。
このまま公爵家で専属男娼だと言われたらどうしようかと思った。
しかしおれが返答する前に、バンッと乱暴にドアが開いた。
ジャイルが許可をえることもなく、部屋に入ってくる。
「父上、俺の伴侶です。勝手なことはなさらないでください!」
……敬語使えたんだな、ジャイル。
で、誰が伴侶?
「伴侶は女にしろと言っているだろう!」
公爵が言い返している。あぁ、うん。おれもそう思うよ。伴侶は女性がいいよね。ていうか女性じゃないと子が産めないしね。一騎当千のアルクロフト家の血筋はたくさん残してもらわないと困るな。国全体でそれを望んでるよ。
……で、誰が伴侶?おれはジャイルから何も言われてないんだけど?
しばらく親子で伴侶はこいつだ、許さんと問答が交わされた。え?やっぱりおれは当事者なの?
「……前線を3つ」
やがてジャイルが何か交渉し始めた。
「前線ごときでどうにかなると思うな」
え?なんの交渉?
「5つ。兄上の妻をとっとと決めればいい」
何が5つ?それ危なくないやつ?あとアルクロフト家に嫁ぎたい良家の娘さんは、簡単に見つからないと思うよ。命の危険があるから。
「7つだ。これだけ落ち着けたら考えてやる」
「こいつを伴侶にしたら、全部行く。戦いは俺で、家のことは兄上にしたらいい」
敬語どうした。いつもの口調に戻っているぞ、ジャイル。
「もとよりそのつもりだ。お前に社交はムリだ……力を手中にしたと聞いたが、まことだな?」
「ああ、だがこいつがいなければ発揮できない」
ジャイルがおれの腰に手を回した。やつの手が腰骨をツーとなぞる。首筋に口づけを送られる。
やめろ、お前、親の前で何やってんだ。
おれの弱いとこを触るな。こんなところで色気を出すな。
「……7つだ。それがすんだら勝手にしろ」
交渉?は、それで終わった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
86
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる