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弟が伴侶を連れてきた(ジャイル兄視点)1
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「ジャイルに嫁?」
あの弟に嫁?伴侶?
その知らせを聞いた時、ルーベンは驚いた。
弟のジャイルは、先祖返りなのか戦闘能力がずば抜けて高く、そのかわり力の加減に幼少期から苦労してきた。
お付きの人間も並みのものではついていけず、結局長く続いた者は2名だけだった。
兄である自分は、何度も弟に教えたものである。
「魔物はひき肉にしていいが、人間はひき肉にするな!」
「……わかってる。人間、ひき肉、ダメゼッタイ」
口癖になるぐらい言い聞かせた……それほどまでに、弟の力は大きかった。
アルクロフト家の中はまだいい。
使用人は下男にいたるまで、退役後など戦える、少なくとも攻撃を避けれる人材しか雇っていない。
ジャイルが暴走しても、大惨事にはならない。
問題は外だ。
普通の人間なら、力の加減ができないジャイルが当たっただけで、大怪我である。
どうにかアルクロフト家の中での教育を終え、力の暴発を人に向けないことができるようになってから、学園に放り込んだ。人、というものを理解させるために。
だが、弟はさっさと退学して、父と相談して前線に行ってしまった。
ルーベンが領地を離れている間になされた所業だった。
まだ、あの時はジャイルの力は成熟していなかったというのに。
***
成人して力のコントロールができるようになった途端、ルーベンは一族の采配を任されてしまった。
父は、ルーベンに采配の才があることがわかると、自分はさっさと前線に出るようになってしまったのだ。
アルクロフト家の当主の仕事は、魔獣との戦いに特化している。つまり前線の人材配置が主である。
王家の兵や各領主と連携を取り、一族の男性とアルクロフト家の兵をどの前線に送り込むか、決定する仕事だ。
配置を間違うと、もちろん、前線が後退する。
それは国民に被害が出るということでもあった。
その仕事を、父は成人したばかりのルーベンに丸投げしたのだ。
その責任の重さに、初めて参加した前線よりも胃の腑が冷えた。
父はもともと、戦場で駆け回りたいタイプである。この屋敷の書斎から出たくてたまらなかったのだ。
そもそも、配下が大部分を担っていた仕事だったので、息子に任せてもいいだろうと判断したらしい。
ルーベンは父や弟と比べると、戦闘は強くない。
一般兵と比べれば、魔獣を倒すことにたけているが、ルーベン程度の強さならアルクロフト家の外にもいる。
ただ、アルクロフト家では、強い人物ほど、人との情報交換に難を要した。
端的に言えば、言葉が通じないことが多い。
弟は、先祖返りの強さと比例して、意思疎通が難しかった。
だからこそ伴侶を連れてきたと聞いて、それが男性だとわかっても驚いた。
そもそも伴侶を得ることはムリだろうと思っていたのだ。
父は何度説明しても、ジャイルの特性を理解せず、女性の伴侶を求めていたが。
(まったく自分の結婚がうまくいったからといって)
父と母は政略結婚である。
そもそもアルクロフト家の凶暴さは、高位貴族の間では公然の秘密となっている。
大事な娘を嫁がせようという親はなかなかおらず、結果として結婚相手は金で買うことになる。
しかし政略結婚とはいえ、前線から父が帰る予定がわかるたびに、母はドレスを仕立てている。
(母上、父上はあなたのドレスなど見てませんよ)
アルクロフト家の男性は、凶暴性と性欲が連動しているらしく、成人してから結婚した父の場合は、母を抱き潰すという形で現れた。
父は前線から戻るたびに母を抱き潰して、次の戦場にいく。
たぶん母の裸にしか興味はないだろう。
過去一族の人間には、複数の女性を愛する例もあったようで、父は性の対象が一人ですんでよかった。トラブルが少ない。
思考にふけっていると、ルーベンの部屋に気色ばんだ母が入ってきた。
「買えないって、どういうこと?私は今度はサファイヤのネックレスが欲しいんだけど?」
「却下です。いつもどおり父の瞳に合わせて、黒瑪瑙にしてはいかがですか?」
「ええ?だってあの人、あんまり宝石は見てくれないんだもの」
(そもそもネックレスは見てませんよ。裸しか)
「母上の瞳に合わせて、黒真珠を少しあしらったらいかがですか?寄り添う感じで」
「……そうねぇ」
「そもそもジャイルの伴侶の件で、今年は余裕がありません」
「……あの子ねぇ。よく伴侶なんて見つかったわよねぇ」
他家から金のために嫁いできた母だが、今ではアルクロフト家の事情を理解している。
自分の子どもたちの凶暴性を早々に察知し、「私にはあなたたちは育てきれないわ」と、戦いに秀でた者に子どもたちを一任した。アルクロフト家の、他所とはだいぶ違う育て方にもめったに口を出さない。
稀有な感性である。そしてアルクロフト家では、そうでなければやっていけない。
過去に嫁いできた女性は、凶暴な子どもを避け、別宅にこもることも多かったようである。
つかず離れずの距離で、それでも本宅に住んでいる母はそれだけで素晴らしい。
母が、肉体的には1番この屋敷では弱い。
子どもたちと会うだけなのに、護衛を複数配置するという奇妙な関係が続いたが、彼女はそれに順応した。
今では、アルクロフト家の社交は彼女が取り仕切っている。適材適所だ。
茶会で、夜会で、母が父のことをのろけるだけで、アルクロフト家はバーサーカーの巣窟から、少しは話しの通じる家に近づくのだ。
アルクロフト家のあまりの強さに魔獣と交わったのではないかと陰口を叩かれることもあるが、ルーベンとしては存外的を射ているのではないかと思う。
うちはすこしおかしい。
10代の頃の制御不能の血のたぎる感覚を経験するとよくわかる。
ルーベンは祖先に、人とは違う何かの血が入っていても驚かない。
父はいまだにルーベンに、舞踏会で嫁を見つけてこいというが、母はあっさり「無理よ。アルクロフト家は結婚相手として検討もされないわ。お金で解決なさい」と現実的である。
金に、または魔獣の被害で困っている、伯爵家以上の家格の合う令嬢を探しているが、今のところルーベンの結婚の候補も見つかっていない。
飛び抜けた強さもないが、その分凶暴性も低く、公爵家の嫡男で、意思疎通にも問題ない自分の嫁候補が見つからないのだ。
小さい頃から邸を破壊し続けるジャイルが、伴侶を迎えるなど、ルーベンの頭にも、母の頭にもなかった。
「あの子の伴侶のためなら仕方ないわねぇ」
どうやら高額のネックレスは諦めてくれたようである。
ルーベンはホッと息をついた。
あの弟に嫁?伴侶?
その知らせを聞いた時、ルーベンは驚いた。
弟のジャイルは、先祖返りなのか戦闘能力がずば抜けて高く、そのかわり力の加減に幼少期から苦労してきた。
お付きの人間も並みのものではついていけず、結局長く続いた者は2名だけだった。
兄である自分は、何度も弟に教えたものである。
「魔物はひき肉にしていいが、人間はひき肉にするな!」
「……わかってる。人間、ひき肉、ダメゼッタイ」
口癖になるぐらい言い聞かせた……それほどまでに、弟の力は大きかった。
アルクロフト家の中はまだいい。
使用人は下男にいたるまで、退役後など戦える、少なくとも攻撃を避けれる人材しか雇っていない。
ジャイルが暴走しても、大惨事にはならない。
問題は外だ。
普通の人間なら、力の加減ができないジャイルが当たっただけで、大怪我である。
どうにかアルクロフト家の中での教育を終え、力の暴発を人に向けないことができるようになってから、学園に放り込んだ。人、というものを理解させるために。
だが、弟はさっさと退学して、父と相談して前線に行ってしまった。
ルーベンが領地を離れている間になされた所業だった。
まだ、あの時はジャイルの力は成熟していなかったというのに。
***
成人して力のコントロールができるようになった途端、ルーベンは一族の采配を任されてしまった。
父は、ルーベンに采配の才があることがわかると、自分はさっさと前線に出るようになってしまったのだ。
アルクロフト家の当主の仕事は、魔獣との戦いに特化している。つまり前線の人材配置が主である。
王家の兵や各領主と連携を取り、一族の男性とアルクロフト家の兵をどの前線に送り込むか、決定する仕事だ。
配置を間違うと、もちろん、前線が後退する。
それは国民に被害が出るということでもあった。
その仕事を、父は成人したばかりのルーベンに丸投げしたのだ。
その責任の重さに、初めて参加した前線よりも胃の腑が冷えた。
父はもともと、戦場で駆け回りたいタイプである。この屋敷の書斎から出たくてたまらなかったのだ。
そもそも、配下が大部分を担っていた仕事だったので、息子に任せてもいいだろうと判断したらしい。
ルーベンは父や弟と比べると、戦闘は強くない。
一般兵と比べれば、魔獣を倒すことにたけているが、ルーベン程度の強さならアルクロフト家の外にもいる。
ただ、アルクロフト家では、強い人物ほど、人との情報交換に難を要した。
端的に言えば、言葉が通じないことが多い。
弟は、先祖返りの強さと比例して、意思疎通が難しかった。
だからこそ伴侶を連れてきたと聞いて、それが男性だとわかっても驚いた。
そもそも伴侶を得ることはムリだろうと思っていたのだ。
父は何度説明しても、ジャイルの特性を理解せず、女性の伴侶を求めていたが。
(まったく自分の結婚がうまくいったからといって)
父と母は政略結婚である。
そもそもアルクロフト家の凶暴さは、高位貴族の間では公然の秘密となっている。
大事な娘を嫁がせようという親はなかなかおらず、結果として結婚相手は金で買うことになる。
しかし政略結婚とはいえ、前線から父が帰る予定がわかるたびに、母はドレスを仕立てている。
(母上、父上はあなたのドレスなど見てませんよ)
アルクロフト家の男性は、凶暴性と性欲が連動しているらしく、成人してから結婚した父の場合は、母を抱き潰すという形で現れた。
父は前線から戻るたびに母を抱き潰して、次の戦場にいく。
たぶん母の裸にしか興味はないだろう。
過去一族の人間には、複数の女性を愛する例もあったようで、父は性の対象が一人ですんでよかった。トラブルが少ない。
思考にふけっていると、ルーベンの部屋に気色ばんだ母が入ってきた。
「買えないって、どういうこと?私は今度はサファイヤのネックレスが欲しいんだけど?」
「却下です。いつもどおり父の瞳に合わせて、黒瑪瑙にしてはいかがですか?」
「ええ?だってあの人、あんまり宝石は見てくれないんだもの」
(そもそもネックレスは見てませんよ。裸しか)
「母上の瞳に合わせて、黒真珠を少しあしらったらいかがですか?寄り添う感じで」
「……そうねぇ」
「そもそもジャイルの伴侶の件で、今年は余裕がありません」
「……あの子ねぇ。よく伴侶なんて見つかったわよねぇ」
他家から金のために嫁いできた母だが、今ではアルクロフト家の事情を理解している。
自分の子どもたちの凶暴性を早々に察知し、「私にはあなたたちは育てきれないわ」と、戦いに秀でた者に子どもたちを一任した。アルクロフト家の、他所とはだいぶ違う育て方にもめったに口を出さない。
稀有な感性である。そしてアルクロフト家では、そうでなければやっていけない。
過去に嫁いできた女性は、凶暴な子どもを避け、別宅にこもることも多かったようである。
つかず離れずの距離で、それでも本宅に住んでいる母はそれだけで素晴らしい。
母が、肉体的には1番この屋敷では弱い。
子どもたちと会うだけなのに、護衛を複数配置するという奇妙な関係が続いたが、彼女はそれに順応した。
今では、アルクロフト家の社交は彼女が取り仕切っている。適材適所だ。
茶会で、夜会で、母が父のことをのろけるだけで、アルクロフト家はバーサーカーの巣窟から、少しは話しの通じる家に近づくのだ。
アルクロフト家のあまりの強さに魔獣と交わったのではないかと陰口を叩かれることもあるが、ルーベンとしては存外的を射ているのではないかと思う。
うちはすこしおかしい。
10代の頃の制御不能の血のたぎる感覚を経験するとよくわかる。
ルーベンは祖先に、人とは違う何かの血が入っていても驚かない。
父はいまだにルーベンに、舞踏会で嫁を見つけてこいというが、母はあっさり「無理よ。アルクロフト家は結婚相手として検討もされないわ。お金で解決なさい」と現実的である。
金に、または魔獣の被害で困っている、伯爵家以上の家格の合う令嬢を探しているが、今のところルーベンの結婚の候補も見つかっていない。
飛び抜けた強さもないが、その分凶暴性も低く、公爵家の嫡男で、意思疎通にも問題ない自分の嫁候補が見つからないのだ。
小さい頃から邸を破壊し続けるジャイルが、伴侶を迎えるなど、ルーベンの頭にも、母の頭にもなかった。
「あの子の伴侶のためなら仕方ないわねぇ」
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