バーサーカーの生贄に選ばれましたが、愛されてはいません

あおいまとか

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弟が伴侶を連れてきた2

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 ルーベンは部下から差し出された手紙を読むなり、グシャリと握り絞めた。
 アルクロフト家の中では弱いと言っても、常人より力がある。気を抜くと怪力が出てしまう。
 そのまま顔をひきつらせながら、部下に命じた。

「ベッズルの前線の戦況を調べろ。早くあの2人を、ジャイルとライを戻すぞ」
 
 ルーベンの手に握られているのはギール男爵家からの手紙だ。丁寧な状況の説明を求め、男爵家がどのくらい混乱しているかが分厚く綴られていた。

 (自分の伴侶の生家への挨拶ぐらい、すませておけ!)

 ルーベンはジャイルにその気遣いができないことを百も承知で、内心でののしった。

 ***

 父と前線を7つも押し上げると、途方もない約束をしたジャイルとその伴侶は、さっさと次の前線に向かってしまった。
 アルクロフト家で人材配置を担っているルーベンに、一言の断りもなかった。

 ルーベンは名目上、父の代理であり、父が決めたことには逆らえない。その父がジャイルの次の派遣先をベッズル地方に決めたのだ。
 そして父はさっさと他の前線に出て、邸からいなくなった。
 
 もちろん、彼らの勝手な取り決めの尻拭いをするのはルーベンである。城や前線の責任者など各所に連絡し、互いに齟齬や軋轢が生まないように調整し、やっとベッズルの前線でジャイルが戦いやすいように立場を整えた途端。
 
 事態が伝わったらしいギール男爵家から、矢のように説明を求める手紙が次々と届いた。

 いわく
 うちの三男から伴侶になると手紙がきたが、どういうことか?
 契約は、2年の約束のはずだ。
 もう次の前線にいるらしいが、危険はないのか?
 公爵家からいただいた金は、時間がかかるが返却する。
 だから三男を返して欲しい。
 だいたいなぜ男性同士で伴侶なのだ。
 そもそも当家に、伴侶にしたいという打診もなく決定し、顔も見せないとは、いくら公爵といえども横暴が過ぎる。
 などなど。丁寧に書いてあったが、要約するとこのような内容だった。
 

 (根回しの根の字も知らないコンビが!勝手に動くな!)

 ルーベンの怒りは、父と弟に向いていた。
 そして、その事態の収拾をはかるのも、自分しかいないこともわかっていた。
 
 ギール男爵家の言い分はもっともである。
 結婚は家と家との契約であり、男性を伴侶にするのは、この国では法的には不可能である。
 アルクロフト家の中では男性を伴侶にする実例が多いが、他家ではそう多くはない。

 あくまで内縁の関係となるため、本妻を別に据え愛人のように扱うのか、妻は娶らず、本妻の位置に伴侶として据えるのか。家同士で取り決めておくことはたくさんある。
 ルーベンや、アルクロフト家の人間は、ジャイルが、本妻と愛人を両方迎えるなど、無理なことはわかりきっているが、他家にそれを察しろというのは無理だろう。
 ギール男爵家はせめて、家を通せと言っているのだ。
 
 (まぁ大事な子息を、アルクロフト家の伴侶にもしたくはないだろうが)
 
 ギール男爵家に対して、ライ本人からの手紙だけで、伴侶になりますと報告して終わる話ではない。

 むしろ、まだライを2年借り受けるという契約は過ぎていないので、それが過ぎて体裁を整えてから、ギール男爵家に正式に告げれば、よかったのである。
 少なくともルーベンはそのつもりだった。
 
 (ベッズルの前線が落ち着いて、ジャイルが戻ってこれる時期に、伴侶の話は動かそうと思っていたのに)
 
 ギール男爵家にライが伴侶になると早く伝えたいなら、ベッズルに行く途中に、せめて男爵家に寄るべきだったのだ。
 中途半端に手紙で伝えるからこうなる。
 ――所詮しょせんは男爵家。力づくで抑えることもできるが。

《《》》 (そうするとまた、アルクロフト家の悪評が高まってしまう)

 ギール男爵家には破格の援助を行った経過がある。剣の買取もしている。悪評をわざと広げるとは思えない。
 しかし人の口に戸が立てられないのも、事実である。
 むりやり伴侶にしたなどの噂が広まれば、ルーベンの結婚はますます困難となり、そのうわさの影響は自分たちの子の結婚にも影響するだろう。
 
 そして1番、腹が立つのが。
 この事態を憂いているのが、自分だけだということだ。
 極論、父も弟も、目の前にいる魔獣を倒せば、伴侶は自動的に手に入ると思っている。
 
 (脳筋どもめ!)
 
 ルーベンは深くため息をついた。

 ***
 
 やっと、ジャイルの伴侶とやらに会えたのは、それからしばらく経ってからだった。
 
 その間もルーベンは忙しかった。

 ギール男爵家に、使者を立て、正式に伴侶に欲しいと打診した。伴侶候補のライは前線でも安全な場所にいること、特殊な学友という関係から発展し、ちゃんと彼らは愛し合っていると手紙をしたため、なだめすかした。
 また、ライはジャイルの本妻の立場に据えるとアルクロフト家の親族に説明したり。
 しかしアルクロフト家の分家親族と話すと、どうしても後継の話が出る。
 彼らも、子息や孫を前線に出している。

 彼らは本家のルーベンやジャイルも、子どもをしっかり作れというのだ。
 そのたびにルーベンは、嫁のあてもないのに、自分が女性を娶り、子どもを男児をたくさん持つからと、うそぶくはめになる。

 だいたいジャイルは、前線でもライを囲い込んでいるらしい。
 夜は一時も離さないとか。

 (その無駄に打っている子種、女性の腹に一発でいいから出してくれないか?)

 親族と後継ぎの話をしすぎて、苛立ったルーベンは思う。
 伴侶はライという少年のままでいい。
 妾を迎えろとも言わない。
 ただ孕むためだけの女を用意したら、仕込んではくれないだろうか?
 性技に手練れの女性、後家かもしくはいっそ平民の娼婦を用意するから精液をそこに出してくれればいいのだ。
 ライという少年といちゃついた、ついででいいから。
 
 自分の嫁はそういうわけにはいかない。
 公爵家の跡取りということを加味すると、ルーベンの嫁には伯爵家以上の家格が欲しい。ただでさえ忙しいのに、自分の嫁候補を探すのは、アルクロフト家にきてくれる胆力のある娘を探すのは、手間であり面倒だった。

 (……ジャイルに女性をあてがうのは、無理だろうな…)

 もしも寝室に女性を放り込んだりすれば、ジャイルが怒って周囲を壊しながら、暴れる姿が容易に思い浮かぶ。
 そもそもジャイルが子種だけ仕込むなど、そんな器用なことができるなら、ルーベンはここまで苦労していないのだ。

 ***
 
 ルーベンが、ライとの初対面で感じた事は、予想以上に『弱い』だった。
 伴侶候補は男性と聞いたから、せめてジャイルの拳を避ける程度の能力があるのだと、ルーベンは自然と想像してしまっていた。

 ルーベンの見立てでは、ライは剣も握ったことがないだろう。
 普通の、よくいる戦えない貴族の子息だ。
 弱い者を、なぜ、ジャイルが伴侶に選んだのかよくわからない。

 ジャイルとライを、並べてソファに座らせ、ギース男爵家から不満が出ている状況を説明し、対処を伝える。

「せめて今すぐ、非礼を詫びに、義父となるギール男爵に会いに行って来い」

 ルーベンが説明しても、ジャイルは首を傾げている。ジャイルはやはり、なぜギール男爵家が三男を返せといっているのか、わかっていない。

「ギール男爵家からみたら、誘拐したも同然だ」

 端的にジャイルに、相手の立場を伝えるが、やはりわかっていない。

「ライは自分でオレについてくるって言った」

 ジャイルはライと名乗った少年の手をしっかり握りしめている。
 子どもが「一緒に遊びに行く約束をしたもん」程度の返事しかできないくせに、伴侶とは片腹痛い。
 ルーベンは苛立ちをあらわに、ジャイルを叱ろうとした。が、
 
「手紙で何度も伝えたんだけどな。うちの親、公爵家とか身分が違いすぎて、なんか心配しててさ。ジャイルに会えば安心すると思うから、一緒に来てくれないか?」
 
 ライはしっかりとジャイルと目を合わせて、男爵家に一緒にきてくれと頼んだ。
 
 もともとは学園に入る際、生贄として手配した少年だ。
 ジャイルに殴られたことも一度ではないだろうに。
 しかしジャイルに接する様子に、怯えも気負いも何もない。
 アルクロフト家の中でも、強い者ほどジャイルに対してはある種の身構えをしてしまう。
 ジャイルの不安定な力を感じとるからだ。破裂する寸前の風船のような危うさをジャイルは常にはらんでいる。

 しかしライはありふれた友人のようにジャイルに話しかけていた。
 
 (弱いゆえの鈍さが、ジャイルの心を掴んだのか?)
 
「わかった」

 ジャイルも伴侶候補の頼みには、大人しく従っているようである。
 だが、家族に会えば安心するとは、楽観がすぎる。
 ジャイルがギース家でひと暴れすれば、この婚約話は水泡に帰すだろう。

 (いや伴侶候補を得て、暴れなくなったのだったか?)
 
 しかしルーベンには、ジャイルの気配は今までと同じに感じられる。
 いつ破裂するかわからない、安定してない力がそこにはある。
 
「書簡も持っていけ。この結婚に関しての取り決めが書かれている。ギース男爵家に異論があれば、何度でも話し合おう……父上が戻ってからになるが」

 書簡にはアルクロフト一族からも同意を得た、ジャイルの結婚の条件が記載されている。突然、三男を伴侶にすると知らされたギース男爵家に充分に配慮したものだ。
 もしギース男爵が内容に不服を持ち、実際に話し合うことになれば、場をまとめるのはルーベンだろう。しかし話し合いには、当主代理の自分ではなく、当主である父が出る必要がある。
 それがギース男爵家にみせる誠意というものだ。
 彼らは、三男が大事に扱われるかどうかを心配しているのだから、当主が丁重に礼をつくす姿をみせるのが重要だ。

 そして慌しく、弟たちはギース領に旅立って行った。

 ***
 
 二人を送り出してすぐに部下から報告が上がる。

「ルーベン様!ベッズルの前線で、ボゲードンが出たと報告がありました!」

 オーガの一種だ。大きくて切れにくい固い体をしている。

「保つか?」

 ベッズルはジャイルを引き上げさせたばかりである。少し戦力が手薄になっている。

「このままでは前線維持が厳しいようです」

 さすがにこのタイミングで、ジャイルをギース領から回すわけにはいかない。

「……私が出よう。ジャイルには男爵への挨拶が無事にすんだら、早急にベッズルに戻るように指示を出す」

 部下の不安げな表情と視線は、ルーベンが戦力になるかをあきらかに心配している。ボゲードンをその腕で切れるのか、と。

「――ジャイルが戦線に復帰する2、3日なら、私だって保たせるさ」

 恋愛どころか、人間関係に初心うぶな弟がどうにか掴んだ縁である。兄としては繋いでやるしかない。

 ルーベンは大きくため息をつきながら、久しぶりに軍服を羽織った。
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