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第一章

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 エリスが少し困った顔をしてから、諦めたのかすぐに微笑んで「はい」頷く。それを見て私は「よし」と肉串に視線を戻す。
「食べよう! いただきます!」
 二人でタイミングを合わせるように一瞬視線を合わせると、二人で同時に肉へとかぶりつく。
「うぅん、おいしい!」
「美味しいです」
 幸せな味が口の中に広がる。もう一口、二口が止まらなくて、すぐ無くなってしまった。
「あぁ、いい……これ、良い!」
 こんな風に肉にかぶりつくなんて、これまでできなかった。周りを人達をがっかりさせない様に、そんな事を考えてお淑やかに上品に。ずっと憧れていたのだ。こうやってする事を。これまで我慢していた反動か、幸せ感が半端なかった。
「良い……ですね」
 エリスが呟いた。たぶん私と同じようなものだったんじゃないか。事情は詳しくわからないけど、貴族だったならこんな事してたら怒られていただろう。
「さて! 次何食べる?」
「え……私まだ食べ終わってません」
 まだ半分ほど残った肉串。私の方はもちろん、もう無くなっている。
「じゃあ食べながら見て回ろう」
 少し強引に、エリスの腕を引っ張って歩き出す。慌てたように声をあげたエリスが、諦めたように自分で歩き始めた。それを感じて私は笑って見せてから、引っ張るのをやめる。
 それから私達はあれもおいしそう、これもおいしそうと、市場通りを回った。たまに学園の生徒とすれ違ったけど、あちらは気づいてなかったかもしれない。というかもう、気にならない様になってきていた。
「はぁ、満足だよ」
 私達はいろいろ買いこんで、誰でも使える様に置いてある机で食事をしていた。あらかた食べ終わって満足したお腹を擦りながら、私は満足感を声で表す。少し苦しくて椅子の背もたれに体重を預けていた。それを見てエリスが嬉しそうに口を開く。
「ふふふ、そういう姿も可愛いです、お子様みたいで」
「お、お子様言うな!」
 その言葉でなんだか急に恥ずかしくなって、居ずまいを正した。ちょっと羽目を外しすぎたかもしれない。
「あらあら、どうしたんです? 姿勢を正してしまったら、お子様みたいに膨れたお腹が分かりやすくなりますよ」
 またあの意地悪な笑みを浮かべるエリス。だんだん性格が分かってきた。ここで慌てふためくと思うつぼな気がして、何でもない様に振舞う。
「ところで、ギルドカードの機能を教えてくれるんでしょ? 午後からクエスト受ける?」
 残念そうにエリスが少し頬を膨らませた後、言葉を返してきた。
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