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第二章

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 活発な男の子が凍った鉄格子に、剣を叩きつける。凍った鉄格子が地面に崩れ落ちた。それを合図に、全員がオークに向かって走り出す。四人はそれぞれ、一人ずつ別々のオークに向かっていくのが見えた。それなら、と私は残り四体を相手取る。とは言っても密集していないから、一気に叩けるような状況ではない。
「アイスランス、スキル『拡散』」
 私の頭上に魔法陣が現れて、氷柱が一瞬で出来上がる。十本あるそれを、四体に向かって撃ち出した。
「くそっ」
 アイスランスは、コントロールがほとんどできない。そのせいもあってか、一体のオークには命中したけど、ほか三体には避けられてしまった。狙いの時点で甘かったのだ。それから、その三体は左右に振れる様にして、狙いを定めづらくしてくる。
「学習した?」
 今の私の様子から、推察したという事か。この魔法使いは、複数相手に精密な射撃をできないという風に。得意になったらしいオークたちが、ニヤニヤと笑っている。まずは一体に集中するべきか。でもそれをしたら、他の二体が一気に距離を詰めてくる気がする。仲間を囮にしても、動きが鈍らない残虐性を持っている。そんな恐ろしさと知能がある恐ろしさを両方とも感じさせる。
 私はエリス達に視線を送った。四人はオークと戦っている。結局、一対一に持ち込めずに、連携されてしまっている。四対四という構図。エリス達には強化は施してるから、一方的にやられることは無いだろうけど、経験不足のせいで一歩及ばないという感じだ。援軍は望めない。
 一瞬の逡巡とよそ見だったはずなのに、私が対峙しているオーク達は距離を詰めてきていた。一体が目の前に、他の二体の姿が無い。そんなはずはない、と考えつつも時間をかけて見極める事は許されない。すぐさま目の前のオークの拳を、左に飛び退く。
「?!」
 うかつだった。他の二体が、煙のように消えてしまう事なんてありえない。つまりは私から見えない所、目の前にいたオークの後ろに一列になっていたのだ。横に飛び退いた瞬間に、一体が列からズレて私の目の前に現れる。私は飛び退いた瞬間、相手は拳を引き付けてそれを前に突き出すだけ。避けられない。
「アイスアロ……ッ!」
 私とオークの拳の間に、魔法陣が浮かんだ。アイスアローが出来上がる最中の中途半端な氷が、オークの拳を受け止める。そのまま、氷を砕いて拳が私に飛んできた。幾分かは威力を減衰できただろうか。咄嗟に顔を覆った両腕に拳が当たって、後ろにすっ飛ぶ。体勢が崩れてしまっていて地面に一度、体がバウンドした。その勢いのまま、体を回転させ片膝をつきながらオーク達を睨みつける。
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