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第四章

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「イゴール……教えて、後頭部にある魔法陣は、なに?」
 名乗る時は定まっていた視線が、また漂い始める。走馬燈でも見ているのだろうか。何かを目で追う様にして、イゴールはうわ言の様に声をあげる。
「俺ハ失敗作ダッタノカ」
 戦う前にも言っていた失敗作という言葉。これはどういう意味だろう。私が問いかけようとしたところで、イゴールがさらに言葉を続ける。
「同胞タチニ……俺ト同ジ魔法ヲ施シテ……軍隊ヲ作リ上ゲタ……ダガ魔王ト同ジニハ出来ナカッタ、ソレドコロカ街一ツサエ」
「同じ魔法って? それは魔法陣の事? あれはあなたのチームのシンボルじゃないって事? それにその言い方はあなたは魔王の配下じゃない? 失敗作ってどういう意味? 聞きたい事が一杯なの、教えて」
 矢継ぎ早に私はイゴールに声をかける。聞きたい事がたくさんある。教えてほしい。それが、グルシアの事につながる可能性があるなら。でも私の願いは届かない様だ。イゴールは私の問いかけに答えない。ずっと意味の分からないうわ言を呟いている。
「ルネーナ……教エテクレ」
 私が諦めかけた所で、イゴールがこちらに視線を定める。漂っていない視線で、私をしっかり見据えていた。そして、懇願する様に問いかけてくる。
「俺ハ……失敗作……ナノカ?」
 失敗作というのが、どういうことなのかわからない。それに聞きたい事が沢山あるのに、答えてくれない。そんな不満があるのに、なぜだかこの質問には、ちゃんと答えないといけないと思った。答えてあげたいと思った。
「大丈夫、めちゃくちゃ手強かった……イゴール、あなたは、失敗作なんかじゃ、ない」
 本当にそう思った。本心だった。それをちゃんと表すために、一つ一つの言葉をできるだけ丁寧に、ちゃんと伝えられるように紡ぐ。
「誰が、何と言おうと、あなたは、失敗作なんかじゃ、ない……ルネーナ・グルシアが保証する……あなたは、失敗作なんかじゃ、ない」
「アァ……アァ、アリガトウ、アリガトウ」
 イゴールは空を見上げる。アリガトウを呟きながら。何度も何度も呟きながら。そして少しづつ声が弱くなってきて、次第にその声は聞こえなくなってきた。
「……アリ……ト」
 それを最後にイゴールは静かになった。強張っていたのであろう力が抜ける様に、眉間に寄っていた深いしわがほどけていく。
「ズルいでしょ、自分だけ聞きたいこと聞いてさ……そんな満たされた顔浮かべて」
 イゴールは眠る様に、そこに横たわっていた。
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