孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

朝永ゆうり

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〝人殺し〟との再会 ④

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 手術室に運ばれ、麻酔で眠らされた。目が覚めた時には、右腕が無くなっていた。

 右肘から下が、バッサリと何も無い。指を曲げる感覚はある。なのに、何も起こらなかった。

 リハビリを経て退院した後、杏依は海原楽器の本社事務員として働くことになった。
 ピアノ講師にはもう戻れない。ピアノはもう弾けない。弾きたいとも思わない。ピアノ演奏において、左手は伴奏だから。主旋律を奏でるのは、いつでも右手だ。

 入院中に知ったことがある。それは、彼が〝人殺し〟と呼ばれていること。

 彼がそう呼ばれるのは、きっと彼の手術を受けた全員が、こういう遣り切れない気持ちを抱えるからだろう。

 手術後の処置や経過観察は別の医者へとバトンタッチされ、白哉の顔を見ることはなかった。
 だから余計に、彼が憎い。

 彼が殺しているのは、人の心だ。杏依もまた、心を殺された一人なのだ。

 ***

 あの日からずっと恨んでいる〝人殺し〟が、三年ぶりに目の前に現れた。
 きっと今も、あの時のように、睨むような鋭い視線をこちらに向けているに違いない。

 杏依の呼吸は早くなった。だから、深呼吸を意識した。大丈夫だと、自分に言い聞かせる。けれど。

「んん……っ!」

 今度は急激な右腕の痛みに襲われた。あるはずのない、右腕の痛みに。

 なんで!? ちゃんと薬も飲んでいるのに!

「杏依先生? どうしたの大丈夫?」

「だい、じょうぶ……」

 明美の問いかけに答え、無理やりに頬を吊り上げた。けれど、杏依の額には冷や汗が浮かんだ。

 皮膚を引き裂かれるような激痛。思わず右腕を掴みそうになり、左手はくうを掴んだ。

 幻肢痛ファントムペイン――それは、あるはずのない体の部位が痛むという病状だ。

 脳の勘違いだとか、切断前の痛みがぶり返しているのだとか言われるが、その引き起るメカニズムは分かっていないらしい。長くても数時間で痛みは治まるが、杏依はあの日から時折、突然沸き起こるこの痛みに悩ませられ続けている。

 この痛みは、ただの幻想。だから、ひたすらに耐えるしかない。
 周りに迷惑をかけるわけにはいかない。俯き、ぎゅっと目を瞑って痛みをやりすごそうとした。

「大丈夫じゃねーだろ!」

 突然、左腕を掴まれた。そのまま引っ張られ、慌てて立ち上がる。

「おお、白哉先生?」

「『おお』じゃねえぞ王子。昔に治療したよしみだ、連れて帰る」

「あの、ちょっと――」

 杏依はなぜかこちらを睨みつけていた白哉によって、お店の外へと連れ出された。
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