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プロローグ
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学校の帰り道、なんとなく、いつもと違う角を曲がってみた。
細い路地の先に、小さな古道具屋があった。
「カタカタ堂?」
風に揺れる看板には、手書きの文字でそう書かれている。カタカタ揺れて、ちょっと笑っているみたいで……なんだか不気味。
古びたガラス越しに覗いてみると、ぎゅうぎゅうに詰まった骨董品たち。
妙に秒針の速い古時計、やたら小さな引き出しがいくつもついた棚、暗くて役に立たなそうな卓上灯。
その中で、ひときわ目を引いたのは——真っ白なキャンバスだった。
他のものはみんな古びているのに、そこだけぽっかり空いた穴のように、白く浮いて見える。
気がつくと、その前に立っていた。
「それは、描く人を選ぶからね」
ふいに、奥から現れた背中の曲がったおじいさんが言った。
この不思議な古道具屋の店主らしい。
家に帰って、鞄を放り投げる。
あのキャンバスは、いま部屋のイーゼルに立てかけられている。
そう、買ってしまったのだ。あれを。
なぜかわからないけど、どうしても手放したくなかった。
しばらくその真っ白なキャンバスを見つめたあと、思い立って、少しだけ絵の具をのせてみることにした。
テレピン油と絵の具をゆっくりと混ぜる。ちゃんと混ぜないと、乾いたあとで小さなダマになるから。
少し考えてから、深い青色の絵の具を手に取った。
不思議なことに、手が止まらなかった。
気づけば描き上がっていたのは、夕暮れの空。どこか寂しげな絵だ。
筆を置いて、寝る準備をする。明日も学校があるし。
夜、静まり返った部屋に、風のような音がふっと響いた。
目を覚まし、音の方を見る。
キャンバスが、ほんのり光っている。
その中に、何かいる? 人影のようなものが、ぼんやりと浮かび上がっていた。
輪郭がにじむように揺れて、次の瞬間、スッと姿がはっきりする。
「……また不完全か。君、ちょっと画力が足りないんじゃない?」
しゃべった。
しかも、めちゃくちゃ失礼。
現れたのは、王冠をかぶった金髪の青年。
どこから見ても王子様なんだけど、口の端を上げて笑うその意地悪そうな顔はとても王子様には見えなかった。
細い路地の先に、小さな古道具屋があった。
「カタカタ堂?」
風に揺れる看板には、手書きの文字でそう書かれている。カタカタ揺れて、ちょっと笑っているみたいで……なんだか不気味。
古びたガラス越しに覗いてみると、ぎゅうぎゅうに詰まった骨董品たち。
妙に秒針の速い古時計、やたら小さな引き出しがいくつもついた棚、暗くて役に立たなそうな卓上灯。
その中で、ひときわ目を引いたのは——真っ白なキャンバスだった。
他のものはみんな古びているのに、そこだけぽっかり空いた穴のように、白く浮いて見える。
気がつくと、その前に立っていた。
「それは、描く人を選ぶからね」
ふいに、奥から現れた背中の曲がったおじいさんが言った。
この不思議な古道具屋の店主らしい。
家に帰って、鞄を放り投げる。
あのキャンバスは、いま部屋のイーゼルに立てかけられている。
そう、買ってしまったのだ。あれを。
なぜかわからないけど、どうしても手放したくなかった。
しばらくその真っ白なキャンバスを見つめたあと、思い立って、少しだけ絵の具をのせてみることにした。
テレピン油と絵の具をゆっくりと混ぜる。ちゃんと混ぜないと、乾いたあとで小さなダマになるから。
少し考えてから、深い青色の絵の具を手に取った。
不思議なことに、手が止まらなかった。
気づけば描き上がっていたのは、夕暮れの空。どこか寂しげな絵だ。
筆を置いて、寝る準備をする。明日も学校があるし。
夜、静まり返った部屋に、風のような音がふっと響いた。
目を覚まし、音の方を見る。
キャンバスが、ほんのり光っている。
その中に、何かいる? 人影のようなものが、ぼんやりと浮かび上がっていた。
輪郭がにじむように揺れて、次の瞬間、スッと姿がはっきりする。
「……また不完全か。君、ちょっと画力が足りないんじゃない?」
しゃべった。
しかも、めちゃくちゃ失礼。
現れたのは、王冠をかぶった金髪の青年。
どこから見ても王子様なんだけど、口の端を上げて笑うその意地悪そうな顔はとても王子様には見えなかった。
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