劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~

山外大河

文字の大きさ
20 / 30
二章 誇れる自分である為に

ex 彼の為にできる事について

しおりを挟む
 好きな男の子の事だから、深く意識しなくても些細な変化や違和感は感じられる。

 だからアイリス・エルマータは気付いていた。

『俺はすげえって事で。堂々とドヤっていくよ』

 そう言っていたユーリ・レイザークが完全には吹っ切れてくれていない事には。
 ずっと心に靄のような物が掛かり続けているという事は。

 実際アイリスはユーリの事を凄いと思っているけれど、それでもユーリ自身はまだ自分の固有魔術の事を……というよりは自分の事そのものを受け入れていないようで。

 そんな感情が伝わってくるような言動が、本人が自覚しているのかは分からないけれど、結構頻繁に見受けられた。

 あんまりそれを指摘すると本人が余計に思いつめそうだから、まだ触れずにはいたけれど……どこかで爆発してしまいそうな、そういう危うさがユーリからは伝わってくる。

 だから……出来ることならなんとかしてあげたい。

 そう考えていたアイリスにとって、今日の事は絶好の機会となる筈だった。

 大勢の教師が見に来る中で、ユーリの事を凄いと思ってくれる人がいると。
 魔術師、ユーリ・レイザークの事を多少なりとも評価してくれる人がいると。

 そう考えていた。そんな楽観的な事を。

 だけど現実はそううまくはいかなくて。
 寧ろ自分が抱いて欲しかったものとは真逆の感情を多くの人が抱いてしまったように思えて。

 だとすれば……だとすれば。
 あまりに酷な場所にユーリを連れてきてしまった事になる。

「なんかごめん……ボクが思ってたのと、ちょっと違った」

 思わずそんな言葉が出てくる。
 今すぐにでも中止して貰った方が良いんじゃないかと、そんな気持ちが言葉に乗る。

 それに対しユーリは言う。

「いいよ気にすんな。今日はお前が主役だ」

 そう答えるユーリは思ったよりも大丈夫そうだ。

 多分自分が席を外していた時に、ブルーノ先生に何か前向きになれるような事を言ってもらえたのだと思う。
 まだ知り合って僅かな時間しかたっていないけれど、あの先生はそういう言葉を掛けてくれそうな、そういうイメージがある。

 それが具体的にどういう会話だったのかは分からないけれど……あの場に戻ってきた時の雰囲気を見る感じ、少しは安心できそうな感じをしていて。
 今だって本当はもっとへこんでいても良い筈なのに、うまく割り切ってるようにやる事をやってくれている。

 この状況を割り切れるって事は、何か考え方が変わる様な。
 それこそ転機となるような事があの場であったのだろう。

 それを担ったのが自分ではないのが少し悔しいけれど、ユーリにとって大きなプラスとなる事があったなら本当に喜ばしいことだ。
 心からそう思う。

 ……だけどそれはそれとして。

(……これは駄目だ)

 ユーリが平気だったらこれを容認していいのかと言われたら、それはきっと違うと思うし……そもそもきっと、何も大丈夫ではない。

 多分平気ではない。

 ただ、思ったよりも大丈夫そうだっただけ。
 相対的にそう見えるだけだ。

 例え考え方が変わったとして。
 現状の自分をちゃんと前向きにとらえられるような考え方になったとして。
 人間は機械なんかじゃないからそれで全部割り切っていける筈が無い。

 どんな捉え方をしたとしてもどうしたって傷つくような事はあって、何をどうやったって余程の聖人でもなければ大なり小なり承認欲求なんてのはどこまでも付いて回ってきて。

 だから今のユーリはとても無理をしているような気がする。

 ……今まで辛い中で一緒に隣を歩いてくれて。
 自分も辛いのにずっと引っ張ってくれていた友達を……置いていっちゃいけない所に置いていっている気がする。

 だから、このままじゃ駄目だ。

「……」

 なんとかしなければならない。
 今は無理でも。
 今すぐ何かを変えることはできなくても。

 今自分の事しか見てくれてない人達に自分の友達は凄いんだという事を証明したい。

 そして……それ以上に、ユーリ・レイザークという大切な友達自身にもだ。

 その為に何をすればいいのかは分からないけれど、やれるだけの事をやっていきたい。

 そんな風に。

 自分だけが脚光を浴びて、承認欲求を満たしていく中で。

 アイリスは途中から殆どずっと、ユーリの事を考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...