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転職して欝々としていたら、友達の弟に遭遇。……ときめきとか、縁のない言葉だと思っていたんだけど!?
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たん!たん!たん!
やけになって、木魚をたたいて、たたいて、どれくらいたったんだろう、高良くんが耳元で囁く。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん……」
すっかり木魚をたたくのに夢中になっていた。
なんとなく、名残惜しい。
もう少しここにいたかった。
でも高良くんにそういわれたら、帰るしかない。
そっと立ち上がったけど、正座には慣れていない。
足がよろけた。
「っと。だいじょうぶですか?」
大きな、力強い手。
男の人の手だ。
支えてもらっただけなのに、また顔が熱くなる。
「う、うん。だいじょうぶ。正座になれてないから、足がしびれたみたい。ごめんね」
そそくさと後ろに置いていたバッグを拾って、高良くんのも渡す。
そしてゆっくりゆっくり階段を下りて、門を出た。
駅への道を、二人並んで歩く。
へんに私が意識してしまったせいか、高良くんも言葉少なだ。
このまま、別れたら、きっともう会えない。
今日ファストフード店で会ったのはほんとうに偶然で、もう7年くらい高良くんに会っていなかった。
京都は狭い町だといっても、生活圏が違う知り合いにばったり出くわすなんてめったにないことだ。
また会いたい。
今日みたいに話したり、遊びに行ったりしたい。
でも、もうすぐ30歳になる年上の女にそんなこと言われたら、たぶん迷惑だろうな。
姉の友達とか、断りにくいだろうし。
うだうだ考えて、ふと上を見上げた。
濃紺の空には、白々と月が輝いていた。
「わ。見て、高良くん。月がとっても綺麗」
「俺もです」
思わず声をあげると、高良くんがかぶせ気味に言う。
はい?
俺もって?
きょとんと高良くんを見ると、真剣な顔をした高良くんがじっと私を見返して、直後かぁっと赤くなった。
「え……、どうしたの?」
「菜摘さん、日本文学専攻でしょう?なんでわからないんですか?」
「は? えっと、日本文学なんか関係ある?」
どうしたっていうほどうろたえながら、高良くんがいう。
いや、本当にどうした?
わけがわからなくて、ぽかんとしていると、高良くんがやけくそみたいに言う。
「だから。夏目漱石、知らないんですか? 『I love you』を日本語に訳すなら、月が綺麗ですねって訳すっていう……」
I love you……?
「えっ」
それって、愛してるってこと?
日本語訳が頭をよぎって、いやいやそんな自分に都合のいいことあるわけないって思う。
他の意味があるはずだ。
でも、高良くんは顔を手で覆って、はーっと深いため息をついた後、真剣な顔で続けた。
「小学生の時、姉貴が菜摘さんを家に連れてきた時、好きになりました。でもあのころの4歳差は大きかったし、ようやく大学生ってころには姉貴が家を出て会えなくなって。あきらめたつもりでしたけど、今日、菜摘さんにあった瞬間、また一目ぼれしたんです」
「……」
「愛してるとか好きだとか、7年ぶりに会った途端にいうことじゃないのはわかってるんですけど、ちょっと話してるだけでもどんどん好きになっているんで。……チャンスをくれませんか?」
「チャンスって……」
嘘だ、そんなの。
都合よすぎだよ。
そう思うのに、高良くんの真っ赤な顔は、それが嘘じゃないって言っているようで。
「とりあえず、お友達からでいいんで。連絡先、教えてください」
スマホを見せられて、バッグからスマホを取り出す。
性急な態度は、強引だというより、必死という感じで。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
動き始めていた恋心が許可をもらったみたい。
喜びに跳ね上がるのを感じる。
食い気味に答えると、高良くんが目を見開いて、くしゃりと笑う。
またもうひとつ、心臓が大きく音をたてた。
やけになって、木魚をたたいて、たたいて、どれくらいたったんだろう、高良くんが耳元で囁く。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん……」
すっかり木魚をたたくのに夢中になっていた。
なんとなく、名残惜しい。
もう少しここにいたかった。
でも高良くんにそういわれたら、帰るしかない。
そっと立ち上がったけど、正座には慣れていない。
足がよろけた。
「っと。だいじょうぶですか?」
大きな、力強い手。
男の人の手だ。
支えてもらっただけなのに、また顔が熱くなる。
「う、うん。だいじょうぶ。正座になれてないから、足がしびれたみたい。ごめんね」
そそくさと後ろに置いていたバッグを拾って、高良くんのも渡す。
そしてゆっくりゆっくり階段を下りて、門を出た。
駅への道を、二人並んで歩く。
へんに私が意識してしまったせいか、高良くんも言葉少なだ。
このまま、別れたら、きっともう会えない。
今日ファストフード店で会ったのはほんとうに偶然で、もう7年くらい高良くんに会っていなかった。
京都は狭い町だといっても、生活圏が違う知り合いにばったり出くわすなんてめったにないことだ。
また会いたい。
今日みたいに話したり、遊びに行ったりしたい。
でも、もうすぐ30歳になる年上の女にそんなこと言われたら、たぶん迷惑だろうな。
姉の友達とか、断りにくいだろうし。
うだうだ考えて、ふと上を見上げた。
濃紺の空には、白々と月が輝いていた。
「わ。見て、高良くん。月がとっても綺麗」
「俺もです」
思わず声をあげると、高良くんがかぶせ気味に言う。
はい?
俺もって?
きょとんと高良くんを見ると、真剣な顔をした高良くんがじっと私を見返して、直後かぁっと赤くなった。
「え……、どうしたの?」
「菜摘さん、日本文学専攻でしょう?なんでわからないんですか?」
「は? えっと、日本文学なんか関係ある?」
どうしたっていうほどうろたえながら、高良くんがいう。
いや、本当にどうした?
わけがわからなくて、ぽかんとしていると、高良くんがやけくそみたいに言う。
「だから。夏目漱石、知らないんですか? 『I love you』を日本語に訳すなら、月が綺麗ですねって訳すっていう……」
I love you……?
「えっ」
それって、愛してるってこと?
日本語訳が頭をよぎって、いやいやそんな自分に都合のいいことあるわけないって思う。
他の意味があるはずだ。
でも、高良くんは顔を手で覆って、はーっと深いため息をついた後、真剣な顔で続けた。
「小学生の時、姉貴が菜摘さんを家に連れてきた時、好きになりました。でもあのころの4歳差は大きかったし、ようやく大学生ってころには姉貴が家を出て会えなくなって。あきらめたつもりでしたけど、今日、菜摘さんにあった瞬間、また一目ぼれしたんです」
「……」
「愛してるとか好きだとか、7年ぶりに会った途端にいうことじゃないのはわかってるんですけど、ちょっと話してるだけでもどんどん好きになっているんで。……チャンスをくれませんか?」
「チャンスって……」
嘘だ、そんなの。
都合よすぎだよ。
そう思うのに、高良くんの真っ赤な顔は、それが嘘じゃないって言っているようで。
「とりあえず、お友達からでいいんで。連絡先、教えてください」
スマホを見せられて、バッグからスマホを取り出す。
性急な態度は、強引だというより、必死という感じで。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
動き始めていた恋心が許可をもらったみたい。
喜びに跳ね上がるのを感じる。
食い気味に答えると、高良くんが目を見開いて、くしゃりと笑う。
またもうひとつ、心臓が大きく音をたてた。
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