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──それから。
みっちり6時間あった授業も終わり、放課後。
いつもなら、お兄ちゃんと一緒に下校しているんだけど。
部活に所属していないわたしは教室を出ると、まっすぐに家には帰らず、ある個人病院にと寄った。
「次の方、どうぞ」
薄ピンク色の清潔感漂うウェアを着た看護師さんに案内され、わたしは診察室のドアをくぐって中に入った。
ここの病院は、普通の風邪をひいた時やケガをした時に来るところとはちょっと違う。
優しいグリーンを基調とした診察室には、病院らしい機材は何もない。
シンプルなデスクに、向き合って話ができるようなイスが2つ。
診察室と言うより、相談室みたいな感じかなぁ?
そしてその隣には、柔らかそうなソファチェアが一台あるだけだ。
わたしがデスクの前にあるイスに座って待っていると、わたしを案内してくれた看護師さんと入れ代わるように、先生が現れた。
「こんにちは。佐伯先生っ」
スラリと背は高く、端正でキレイな顔をしている彼は、この個人病院のお医者さん。
佐伯 恭一郎先生だ。
「こんにちは、ひとみちゃん。2週間振りかな?
元気そうだね」
そう言ってわたしに優しく笑いかけながら向かいのイスに座った佐伯先生の、一部だけ白銀色をした黒髪が揺れた。
…その髪の色は、左側の前髪辺りだけなんだけどね。
まだ若い先生だしオシャレに髪を染めてるのかなと思って訊いた事があるんだけど、でもそうじゃないみたいなんだよね。
だけど佐伯先生のキレイな顔立ちによく似合っているから、わたしはとてもステキだと思うの。
本当ならクラスの友だちに教えたいくらいなんだけど、でも病院が病院なだけに言えないんだよね。
「最近は、どう?
夜はよく眠れてるかな」
低く聞き心地のよい先生の声が、わたしの心にあたたかく響いた。
いつもここに来ると、佐伯先生はそうやってわたしの事を心配してくれるの。
「はい、大丈夫です。
ただ残りの薬が少なくなってきたんで、今日はそれをもらいにきたんですけど…」
「…そう。
じゃあ、また2週間分ほど処方しておこうね」
「はい。ありがとうございますっ」
わたしが元気よく応えると、佐伯先生はニコリ笑みを返してくれた。
「さて、今度はこっちにおいで」
「はい」
佐伯先生に促されると、わたしはデスクのイスから立ち上がり、隣に設置されているソファチェアの方にと座り替えた。
「身体、楽にしてね。
さ、目を閉じて……」
言われるままに、わたしはソファチェアの上で全身の力を抜いて目を閉じた。
するとだんだん、気持ちが落ち着いていくの──────…
柔らかいソファチェアが、わたしを優しく包み込んでくれる。
ここに身体を預けていると、ふわふわ浮いたように気持ちよく癒されるの────…
「…ひとみちゃん。今、どこにいるの?
何が見えるかな」
佐伯先生の言葉が、真っ白になっている頭の中でぼんやり聞こえる。
「…いま…わたしは…」
目の前には、桜の花びらが舞う校門が見える。
…そうだ。今は高校に入ったばかりの、春──…
「…学校……
桜が、咲いてる…」
そう、入学式。
クラスのみんながお互い桜をバックに記念写真を撮ってて、とても楽しそう。
「…学校、かぁ。
君は誰かと一緒にいるの?」
誰か?
わたしの周りには………
──『ひとみっ』
「!」
校門の外で、誰かがわたしに手を振りながら呼んでる。
あれは、誰だっけ?
…よく見たら、もう1人……………
わたしを呼ぶ2人の人物に近付こうと必死に駆け寄るんだけど、何故か距離が縮まない。
2人のうち1人は女性で、もう1人は男性のようなんだけど。でも遠くにいるから顔がぼやけて誰だか見えないのだ。
──『ひとみっ
早くこっちにおいで』
──『ひとみちゃん
一緒に行こう』
そう言って2人がわたしを呼んでいるのに、足がなかなか前に進んで行かない。
あの人たちは誰だっけ。
行くって、どこに行くの?
「……………………っ」
…わたしは、あの人たちをよく知っているハズ。
いつもわたしに良くしてくれた、とても大切な人なのに。
なのに……っ
全然、思い出せないよぉ!!
みっちり6時間あった授業も終わり、放課後。
いつもなら、お兄ちゃんと一緒に下校しているんだけど。
部活に所属していないわたしは教室を出ると、まっすぐに家には帰らず、ある個人病院にと寄った。
「次の方、どうぞ」
薄ピンク色の清潔感漂うウェアを着た看護師さんに案内され、わたしは診察室のドアをくぐって中に入った。
ここの病院は、普通の風邪をひいた時やケガをした時に来るところとはちょっと違う。
優しいグリーンを基調とした診察室には、病院らしい機材は何もない。
シンプルなデスクに、向き合って話ができるようなイスが2つ。
診察室と言うより、相談室みたいな感じかなぁ?
そしてその隣には、柔らかそうなソファチェアが一台あるだけだ。
わたしがデスクの前にあるイスに座って待っていると、わたしを案内してくれた看護師さんと入れ代わるように、先生が現れた。
「こんにちは。佐伯先生っ」
スラリと背は高く、端正でキレイな顔をしている彼は、この個人病院のお医者さん。
佐伯 恭一郎先生だ。
「こんにちは、ひとみちゃん。2週間振りかな?
元気そうだね」
そう言ってわたしに優しく笑いかけながら向かいのイスに座った佐伯先生の、一部だけ白銀色をした黒髪が揺れた。
…その髪の色は、左側の前髪辺りだけなんだけどね。
まだ若い先生だしオシャレに髪を染めてるのかなと思って訊いた事があるんだけど、でもそうじゃないみたいなんだよね。
だけど佐伯先生のキレイな顔立ちによく似合っているから、わたしはとてもステキだと思うの。
本当ならクラスの友だちに教えたいくらいなんだけど、でも病院が病院なだけに言えないんだよね。
「最近は、どう?
夜はよく眠れてるかな」
低く聞き心地のよい先生の声が、わたしの心にあたたかく響いた。
いつもここに来ると、佐伯先生はそうやってわたしの事を心配してくれるの。
「はい、大丈夫です。
ただ残りの薬が少なくなってきたんで、今日はそれをもらいにきたんですけど…」
「…そう。
じゃあ、また2週間分ほど処方しておこうね」
「はい。ありがとうございますっ」
わたしが元気よく応えると、佐伯先生はニコリ笑みを返してくれた。
「さて、今度はこっちにおいで」
「はい」
佐伯先生に促されると、わたしはデスクのイスから立ち上がり、隣に設置されているソファチェアの方にと座り替えた。
「身体、楽にしてね。
さ、目を閉じて……」
言われるままに、わたしはソファチェアの上で全身の力を抜いて目を閉じた。
するとだんだん、気持ちが落ち着いていくの──────…
柔らかいソファチェアが、わたしを優しく包み込んでくれる。
ここに身体を預けていると、ふわふわ浮いたように気持ちよく癒されるの────…
「…ひとみちゃん。今、どこにいるの?
何が見えるかな」
佐伯先生の言葉が、真っ白になっている頭の中でぼんやり聞こえる。
「…いま…わたしは…」
目の前には、桜の花びらが舞う校門が見える。
…そうだ。今は高校に入ったばかりの、春──…
「…学校……
桜が、咲いてる…」
そう、入学式。
クラスのみんながお互い桜をバックに記念写真を撮ってて、とても楽しそう。
「…学校、かぁ。
君は誰かと一緒にいるの?」
誰か?
わたしの周りには………
──『ひとみっ』
「!」
校門の外で、誰かがわたしに手を振りながら呼んでる。
あれは、誰だっけ?
…よく見たら、もう1人……………
わたしを呼ぶ2人の人物に近付こうと必死に駆け寄るんだけど、何故か距離が縮まない。
2人のうち1人は女性で、もう1人は男性のようなんだけど。でも遠くにいるから顔がぼやけて誰だか見えないのだ。
──『ひとみっ
早くこっちにおいで』
──『ひとみちゃん
一緒に行こう』
そう言って2人がわたしを呼んでいるのに、足がなかなか前に進んで行かない。
あの人たちは誰だっけ。
行くって、どこに行くの?
「……………………っ」
…わたしは、あの人たちをよく知っているハズ。
いつもわたしに良くしてくれた、とても大切な人なのに。
なのに……っ
全然、思い出せないよぉ!!
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