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すっかり朝晩涼しくなった秋の気候。


家に帰り着く頃には、もう肌寒いくらいだった。




「ただいまー」



そう言って先に玄関のドアを開けて入ったお兄ちゃんに、わたしも少し遅れて続く。



…と、その前に────



住宅街にあるうちの家のすぐ隣の空き家に、わたしはふと視線が移った。



「…………………」



この辺りの住宅街は、わたしが生まれる前からあるものなのは知っている。

だから気が付いた時には、わたしはこの家に住んでいたわけなんだけど。



「……この家…」



高校以前の記憶はなくても、この辺りの事は普通に覚えてる。だけど……


…うちの隣の、この空き家。

変な話だけど、何だか自分の家よりもずっと親しみ深く感じてしまうの。

何でかは、自分でもわからないんだけどね。



「…ひとみ?」



「ぁ……」



いつまでも家に入って来ないわたしに気付いたお兄ちゃんが、ヒョイと顔を覗かせた。



「何してんだよ。ドア閉めるぞ」



「お兄ちゃん、あのね……
……ううん。ごめん、何でもない」



それでなくても、心配性のお兄ちゃんなんだもんね。

余計な事を言って、不安にさせたくない。


それに、隣の空き家を親しみ深く思うってだけで、それ以外は何もないんだもん。



「あ、シチューの美味しそうな匂いがする。
お腹すいちゃったね」



わたしはニパッと笑みを見せながら、お兄ちゃんより先に家の中にと入った。



「おいおい。現金な奴だな、ひとみは」



「えへへっ」



過去の記憶なんてなくても、今が楽しくて幸せなら平気。


そう、思う事にしてるの。





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