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「…仲の良い、妹思いなお兄さんなんだね」



そんなわたしとお兄ちゃんのやり取りを見ていた佐伯先生は、クスリと笑いながら言った。



佐伯先生とお兄ちゃんが対面するのは、今が初めてってわけではない。通い始めた頃は、一緒に来てくれてたからね。

さすがに1年以上も経つし、精神病院なんて入るとこをお兄ちゃんの知り合いに見せたくないから、今はわたし1人で来るようにしてるの。



そんな佐伯先生も、ここまでわたしの為に駆けって来たお兄ちゃんを見れば、自然とそんな言葉が出ちゃうんだろうなぁ。



…お兄ちゃんは妹思いな兄なんだけど、わたしも本当は兄想いな妹。



誰にも言えない気持ちだけど、でも兄妹だって構わない。

こうやって、ずっと一緒にいられるから…。





「じゃあひとみ、早く帰ろう。
あの、ひとみがお世話になりましたっ」



「わゎっ
お兄ちゃんったら」



ペコリ 佐伯先生に頭を下げたお兄ちゃんは、そう言ってわたしの手を引いた。



「あ、あのっ
ありがとうございました、佐伯先生!」



「うん。お大事に、ひとみちゃん」



グイグイっと手を引いて家へと歩くお兄ちゃんと反対の方を向き、わたしは佐伯先生にもう一度お礼を言って別れた。



あれ?
そう言えばいつの間にか、もう頭痛はおさまってる。

佐伯先生の薬、飲まなくても大丈夫そうかも。



そう思いながら、若干早歩きでわたしの手を引くお兄ちゃんに付いて歩く。

すると突然、お兄ちゃんはいきなり機嫌悪そうにポツリと一言吐いた。



「…あの医者と、随分親密そうだったな」



「え?」


何だか意外な言葉を聞き、わたしはすぐに返答ができなかった。



わたしが佐伯先生と、親密そうだったって……?



「…え、お兄ちゃん。それって…?」



「いや、何でもねぇよっ
ほら、あんま遅いと母さんまで心配するだろ?
早く帰るぞ」



「わっ」



それだけ言うとお兄ちゃんは顔を進行方向に向けたまま、更に強くわたしの手を引いて歩いた。



「お兄ちゃん。佐伯先生は、わたしの事を一患者として診てくれてるだけだよ」



「……………………」



それ以降、お兄ちゃんは家に帰るまでずっと黙ったままだった。


そんなに機嫌を悪くするなんて事は、普段ないんだけどなぁ。
何が気に入らなかったんだろう。




…まさか、佐伯先生に対してのジェラシー?







そんなわけないか。


わたしと佐伯先生は、ただの患者と医者の関係なだけだもんね。

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