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お兄ちゃんと一緒に佐伯先生の車で向かったのは、今日わたしが廊下で家族写真を落としてしまった総合病院。
3人で4階のフロアまでエレベーターで行くと、一番奥の個室の前で止まった。
418号室 高村 まな 様
間違いない。この部屋だ。
この部屋に、わたしのお姉ちゃんが…っ
「大丈夫。オレが一緒だから」
思わず踏みとどまってしまっているわたしに、お兄ちゃんがギュッと手を握ってくれた。
緊張して、胸がドキドキする。
また昨夜のように、苦しくなったりしないかな。
そんな不安もあるんだけど、でもお兄ちゃんと佐伯先生が、いつもわたしを支えてくれるもんね。
「…うん。
おじゃまします…っ」
わたしはゴクリと喉を鳴らすと、お姉ちゃんのいる病室へと入った。
「────────…」
病室のドアをスライドして入ると、ベッドの周りを囲うカーテンを開ける。
するとそこには、まるで眠り姫のように目を閉じて静かにベッドに横たわっている女の人がいた。
だけど眠り姫と違うのは、側に立てられている点滴のチューブが胸元に置かれた手に繋がっていて。
喉元には、人工呼吸器が取り付けられている。
そしてパジャマの襟からは細い電子コードが覗いていて、すぐ側の何かの機械が反応し、数字やグラフを描いていた。
「…まな。
ひとみちゃんが来てくれたよ」
そう優しく話しかけるのは、佐伯先生。
だけど当のお姉ちゃんは微動だにしないまま、ただひたすらに眠り続けていた。
これが…わたしのお姉ちゃん……
──『ひとみっ』
夢の中でわたしの名前を呼びながら手を振っていたお姉ちゃんの姿が、頭の中で蘇った。
あの時は顔がぼやけていたんだけど、今こうしてお姉ちゃんの寝顔を見ていると、やっぱりあれはお姉ちゃんだったんだって思った。
「お姉…ちゃん……」
佐伯先生が言ってたように、わたしの顔によく似てる。
きっとお姉ちゃんが17だった時は、今のわたしにそっくりだったんだろうな。
わたしが記憶が失った日から、お姉ちゃんは意識を失ったまま。
だからきっと、お姉ちゃんはお父さんとお母さんが亡くなった事をまだ知らないんだ。
「お姉ちゃん、これからわたしも毎日会いに来るよ。
早く目を覚まして。佐伯先生も、ずっと待ってるんだからね」
バラバラになっちゃったわたしたち家族だけど、でも支えてくれる人がいるから。
だから、わたしも頑張れるんだよ。
だって未来の新しい1ページは、みんなと一緒に綴っていくものなんだから。
佐伯先生の車で送ってもらい、お兄ちゃんと家に帰った時には、キレイな夕焼けが空の向こうに吸い込まれそうになっていた。
「ただいま」
って言って玄関に入ると、奥からお母さんが心配そうな顔をしてやって来た。
「ひとみっ
遅かったけど、何かあったの?
あ、ヒロキ…っ」
「…お母さん……」
薬をもらいに行っただけのハズなのに、もう夕暮れだもんね。
連絡もしないで、心配ばっかりかけちゃった。ごめんなさい。
「…もしかして、また具合悪くなって…」
「違うよ、母さん」
「え?」
不安そうな表情でわたしを見ていたお母さんだけど、お兄ちゃんはその誤解を代わりに解いてくれた。
「まな姉ちゃんのとこに行って来たんだ。先生とひとみと、3人で」
「え……、えぇっ?
それって…ひとみの記憶が戻って……?」
それを聞いて、お母さんは目を丸くして驚いたようだ。
そうだよね。
わたしにあったツラい過去を思い出させないように、だから尚更本当の家族のようにわたしと接してくれたんだもん。
「記憶は…まだハッキリ戻ってないの。でも少しずつ、思い出していけそうな気がするからっ」
不思議な親しみ深さを感じた隣の空き家は、わたしの家だったからだった。
今は弟夫婦であるお父さんたちが、管理してくれてるんだね。
時折感じていた強い不安感や頭痛は、みんなが気遣ってわたしを過去に触れさせないようにしていたから。
ツラく悲しい過去だったけど、でも今のわたしにはみんながいるもん。
だから、大丈夫。
ゆっくりだけど、ちゃんと受け入れられるから。
だから──────…
「…だからこれからも、ずっとわたしを見守っていてね」
だってみんな大切な、わたしの家族だよ。
3人で4階のフロアまでエレベーターで行くと、一番奥の個室の前で止まった。
418号室 高村 まな 様
間違いない。この部屋だ。
この部屋に、わたしのお姉ちゃんが…っ
「大丈夫。オレが一緒だから」
思わず踏みとどまってしまっているわたしに、お兄ちゃんがギュッと手を握ってくれた。
緊張して、胸がドキドキする。
また昨夜のように、苦しくなったりしないかな。
そんな不安もあるんだけど、でもお兄ちゃんと佐伯先生が、いつもわたしを支えてくれるもんね。
「…うん。
おじゃまします…っ」
わたしはゴクリと喉を鳴らすと、お姉ちゃんのいる病室へと入った。
「────────…」
病室のドアをスライドして入ると、ベッドの周りを囲うカーテンを開ける。
するとそこには、まるで眠り姫のように目を閉じて静かにベッドに横たわっている女の人がいた。
だけど眠り姫と違うのは、側に立てられている点滴のチューブが胸元に置かれた手に繋がっていて。
喉元には、人工呼吸器が取り付けられている。
そしてパジャマの襟からは細い電子コードが覗いていて、すぐ側の何かの機械が反応し、数字やグラフを描いていた。
「…まな。
ひとみちゃんが来てくれたよ」
そう優しく話しかけるのは、佐伯先生。
だけど当のお姉ちゃんは微動だにしないまま、ただひたすらに眠り続けていた。
これが…わたしのお姉ちゃん……
──『ひとみっ』
夢の中でわたしの名前を呼びながら手を振っていたお姉ちゃんの姿が、頭の中で蘇った。
あの時は顔がぼやけていたんだけど、今こうしてお姉ちゃんの寝顔を見ていると、やっぱりあれはお姉ちゃんだったんだって思った。
「お姉…ちゃん……」
佐伯先生が言ってたように、わたしの顔によく似てる。
きっとお姉ちゃんが17だった時は、今のわたしにそっくりだったんだろうな。
わたしが記憶が失った日から、お姉ちゃんは意識を失ったまま。
だからきっと、お姉ちゃんはお父さんとお母さんが亡くなった事をまだ知らないんだ。
「お姉ちゃん、これからわたしも毎日会いに来るよ。
早く目を覚まして。佐伯先生も、ずっと待ってるんだからね」
バラバラになっちゃったわたしたち家族だけど、でも支えてくれる人がいるから。
だから、わたしも頑張れるんだよ。
だって未来の新しい1ページは、みんなと一緒に綴っていくものなんだから。
佐伯先生の車で送ってもらい、お兄ちゃんと家に帰った時には、キレイな夕焼けが空の向こうに吸い込まれそうになっていた。
「ただいま」
って言って玄関に入ると、奥からお母さんが心配そうな顔をしてやって来た。
「ひとみっ
遅かったけど、何かあったの?
あ、ヒロキ…っ」
「…お母さん……」
薬をもらいに行っただけのハズなのに、もう夕暮れだもんね。
連絡もしないで、心配ばっかりかけちゃった。ごめんなさい。
「…もしかして、また具合悪くなって…」
「違うよ、母さん」
「え?」
不安そうな表情でわたしを見ていたお母さんだけど、お兄ちゃんはその誤解を代わりに解いてくれた。
「まな姉ちゃんのとこに行って来たんだ。先生とひとみと、3人で」
「え……、えぇっ?
それって…ひとみの記憶が戻って……?」
それを聞いて、お母さんは目を丸くして驚いたようだ。
そうだよね。
わたしにあったツラい過去を思い出させないように、だから尚更本当の家族のようにわたしと接してくれたんだもん。
「記憶は…まだハッキリ戻ってないの。でも少しずつ、思い出していけそうな気がするからっ」
不思議な親しみ深さを感じた隣の空き家は、わたしの家だったからだった。
今は弟夫婦であるお父さんたちが、管理してくれてるんだね。
時折感じていた強い不安感や頭痛は、みんなが気遣ってわたしを過去に触れさせないようにしていたから。
ツラく悲しい過去だったけど、でも今のわたしにはみんながいるもん。
だから、大丈夫。
ゆっくりだけど、ちゃんと受け入れられるから。
だから──────…
「…だからこれからも、ずっとわたしを見守っていてね」
だってみんな大切な、わたしの家族だよ。
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