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ただの幼なじみだから
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―――――――
――――――――……
『だいちくん!
どうしようどうしようーっ!』
つばさが半ベソかきながら、おれの所にかけよってきた。
『どうしたんだよ、つばさっ』
『あのね、あのね、ママの大事にしてるお花、ダメにしちゃったの!』
手を引かれて隣のつばさの家の庭まで行ってみると、いつもきれいに植え込まれた花壇の花が一部踏みつけられて倒れていた。
『なんでこんな事になったんだ?』
『あのね、あのね、つばさがお庭にいたら、でっかいハチが飛んできてね。
怖くて逃げ回ってたら、お花潰しちゃってて……っ』
つばさん家のおばさんは花とか好きで、よく庭に咲かしてんだよな。
確かに、ハチとかいたって不思議はないんだけど。
『それで?
つばさは刺されなかったか?』
『うん、大丈夫。
でもママのお花が……』
植木鉢や花壇などいろいろ咲いてる花のうち、一部の花壇の花はもう元には戻せない状態になっている。
今更どうにもできそうにないのが、おれが見てもわかった。
『よし!
おれがやった事にしよう!』
『えっ、だいちくんが?
でもやったのはわたしだよ?』
『わかってるよ!
でもおれがやった事にしたら、つばさは怒られないだろっ』
『でも……』
『いいから!
じゃあ、今から謝りに行くから』
おれはつばさん家の玄関にまわり、ピンポンを押した。
昼間だからおばさんも家にはいる事はおれも知っている。
やがて「はーい」という声と足音が聞こえてきた。
玄関のドアが開き、中からつばさん家のおばさんが出てきた。
『あら大地君、こんにちは。
どうしたの?』
『あ、あのっ
あの、おれ……っ』
庭の方へと向かう隅の方で、つばさが心配そうにこっちを覗いている。
わかってるよ!
おれが上手くやってやるから、そんな顔してんなっての!
そのでっかいハチにつばさが刺されなくて、その方がよかったんだよ。
つばさがそんな顔してたら、おれの方が心配するだろ?
めんどくせーけど、おれが何とかしてやるから!
おれが、つばさの為に―――――……
―――――
――――――――
――――――――……
「……なぁ。
あの西園寺って3年の先輩、誰かと付き合ってはないのかなぁ」
「んー?」
4時間目の授業も終わった昼休み。
俺の前の席の拓海と、焼きそばパンを食いながら教室の窓の外を見ていた。
2年のうちの教室は2階だから、この窓際の席からは向かいの校舎とその間の校庭がわりとよく見える。
その校庭には女子生徒数人の囲いと、ひときわカリスマ性のある男子生徒がひとり見えたんだ。
「あぁ、あの西園寺さんね。
金持ちにイケメンなんて、そんなにいいのかね」
「そりゃいいんだろうよ。
見てみろよ、あの女子たちの群れ。
……あ、また向こうから女子が来たぞ」
ここからでも、女子たちのキャーキャー黄色い声が飛び交っているのが聞こえてくる。
こんなにうるさければ、西園寺先輩ってのは学校中の誰もが知らないはずのない存在なんだ。
改めて西園寺先輩を見てみたら、背もスラッと高くて髪形もバシッと決めてて。確かに男の俺が見ても間違いなくイケメンの中のイケメンだった。
あれなら翼が本気になっても、わからなくはないかもな。
「だけどさ」
頬張っていた焼きそばパンの最後の一口を飲み込むと、拓海は包みの紙をクシャクシャと丸めながら続けた。
「わざと特定の彼女とか作らないから、ああやって色んな女子からもてはやされてんじゃないの?」
誰かと付き合ってたら、他の女子が寄って来なくなるから敢えて付き合わないってのか?
なんて調子のいい奴なんだ。
だけど、翼はあの西園寺先輩にデートに誘われたって言ってたよな。
今見る限りじゃ、あの集団の中には翼の姿はなさそうだけど……。
もしかして、誰にも秘密で付き合い始めたって事なのか?
それで他の誰にも知られてないから、女子生徒たちはあんなに群がってるんだろうな。
だとしても、あの翼が西園寺先輩にねぇ……。
……ま、俺には関係ないか。
「ん?
なぁ大地、あれ翼ちゃんじゃないの?」
そう言って拓海は、窓とは反対の廊下を指さした。
そこには俺たちの方を見ている翼の姿があった。
目が合った瞬間、俺に手招きするような仕草をする翼。
ガヤガヤした昼休みの教室だから何かを言っているようだけど、翼の声は俺の耳までは届かない。
「何なんだよ、翼の奴」
俺はまだ食いかけの焼きそばパンを机に置くと、翼の立つ教室の出入り口まで行ってやった。
「翼、どうしたんだよ」
「大地くん!
次の授業、現国ある?」
「いや?
もう午前中で終わったけど?」
「よかったぁ!
私次の授業なんだけど、教科書忘れちゃったの。
大地くんの貸してくれない?」
なんだ、そんな用か。
はいはいと二つ返事をすると、俺は机に戻って現国の教科書を取り、翼に渡した。
「ありがとーっ
助かったよぉ」
そう言いながら、翼は手を振って自分の教室にと戻って言った。
つーか、教科書忘れたからって、いちいち俺の所に来てんなっての。
俺は翼の忘れ物対応係じゃないんだからな。
ふ……。
と、鼻でため息をつくと、俺は窓際の自分の席に戻った。
見ると、まだ西園寺先輩のまわりには女子生徒がまとわりついている。
むしろ、また数が増えてないか?
「相変わらず翼ちゃんとは仲いいよな。
なぁ、お前らどこまで進んでんのー?」
「………はぁ?」
拓海のトンデモな質問に、思わず俺の声も裏返った。
「いいよな、幼なじみだって?
小さい頃からの仲って事は、一緒に風呂とか入ったりしたんじゃねぇの?」
なんて、冷やかすように笑いながら拓海が言うので、俺は慌てて否定した。
「あのなっ
俺と翼はそんな仲じゃねーの!」
確かに生まれた時からの幼なじみなんだけどさ。
俺と翼は付き合った事もないし、これからだってそんな事は……ない……と思う。
ただの幼なじみなだけで、それ以上も以下もないんだよ。
「えー?
よく一緒に話したり帰ったりしてんじゃん。
付き合ってないのかよ?」
「家が隣同士だから、たまたま一緒になってるだけだよ。
話すったって、今だって教科書貸してくれって話しただけだからな」
昨日の帰りにはデートしてくれって言われてちょっとビビったけど、あくまでも練習としてのデートをさせられるだけだ。
それに、今翼が好きな人は……
あの窓の向こうにいる、金持ちでイケメンの西園寺先輩なんだ。
俺なんか保護者みたいなもんで、そういう対象には見られてないんだよ。
「………………」
……翼の奴。
今は窓の外なんか、見るなよ。
お前が付き合ってるかもしれない男は、ライバルが多そうだからな……。
――放課後
掃除当番の仕事が終わると、カバンを持って教室を出た。
「大地くん!」
昇降口に向かって廊下を歩いていると、階段に差し掛かった所で名前を呼ばれて振り返った。
すると、相変わらずパタパタと走ってきたみたいで、息を切らしながら翼が俺の所まで駆け寄った。
てゆーか、いつも翼は俺に向かって走って来てるよな。
「はぁ…はぁ……っ
よかったぁ、間に合った。
今日掃除当番だったから、大地くんと一緒に帰れないかと思っちゃったよ」
「あのな。
別に一緒に帰らなくても問題ないだろ?」
「あるもん。
まずは、現国の教科書。
ありがとー、助かったよぉ!」
翼はカバンから教科書を取り出すと、俺に手渡した。
「はいはい。
用事は済んだんだな。
じゃあな」
受け取った教科書をカバンに入れると、俺はきびすを返して階段を下り始めた。
「もぉ、大地くんったら待ってよぉ!」
そう言うと、翼は慌てて俺について階段を下りた。
「何で付いてくるんだよ」
「だって同じ通学路だもん。
いいじゃない」
そりゃま、翼の言う通りなんだけどな。
俺は決して一緒に帰ってるつもりはないんだが、同じ通学路って事で翼と並んで校門を出た。
やれやれ。
こんなだから、拓海にも誤解されたりするんだよな。
そんなわけで、何となく一緒に帰っている下校中の俺と翼。
その間も翼は、学校の事とか昨夜の事とか、とにかくひっきりなしに何かしゃべり続けている。
「でね?
クラスの中馬君も教科書忘れちゃっててね、佐伯先生にめちゃめちゃ怒られちゃってたの!
あの時大地くんに教科書借りてなかったら、私も大変な目にあってたよぉ」
勝手にしゃべっていながら、勝手に自分でウケている翼。
何がそんなに楽しいんだか。
特に俺が返事しなくても、いつも楽しそうに話をしてくるんだ。
「そうだ、明後日のデートね」
「!」
急にデートの話に変わって、思わずドキッとした。
明後日。
それは学校が休みである次の日曜日の事だ。
「西園寺先輩とはデートの場所までは決まってないんだけど、明後日はどこに行くの?」
「………あ?」
いくら頼まれての練習デートだからって、翼とデートなんて考えた事もないからどこって言われてもホントはピンと来ない。
てゆーか、俺だって女子と付き合った事なんかないから、デートだってした事がないんだよ。
何となく家で考えてはみたんだけど、そんなんで俺、デートでどんな所に行ってどんな事をするとか、うまく教える事なんて出来るのか?
「そりゃ……まぁ……アレだな。
デートって言ったら……遊園地が定番だろ」
と言ったものの、今どきの高校生のデートの定番が遊園地なのかどうかなんて知らない。
まぁ遊園地が嫌いな女子とか普通いないだろうから、そんな所が無難って言ったら無難だろうな。
……いや、女子といったら映画とかか?
カフェに行ってスイーツとか、そういうのがデートっぽいのかもしれない。
ううーむ。
「遊園地?
わぁ楽しそう!!」
意外にも、翼は遊園地に喜んだみたいだった。
いつになってもガキっぽい所があるから、遊園地ならとも思ったけど、こんなにも喜ぶとは思わなかったな。
「遊園地なんて久し振り~!
どうしようっ、スゴく楽しみ~!」
「おいおい、デートの練習で行くだけなんだろ?
ただ遊びに行くわけじゃないんだからな!」
「そんなのわかってるもん!
でも……ふふっ、ふふふっ」
すっかり笑みがこぼれるくらいのご機嫌な様子の翼に、俺も悪い気はしない。
俺だって遊園地なんて最近は全然行ってないから、そういう意味でもちょっとだけワクワクとしてきた。
翼と遊園地か。
一応楽しみだなぁ。
……いやいや、楽しみだなんて、そんなのちょっとだけだけどさ。
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