デートをしよう!

むらさ樹

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待ち合わせは自宅前で

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『だいちくん!』

いつもいつも、つばさはおれの後を追いかけるようにパタパタと走って来る。


『もぉ待ってよ!
つばさもいっしょに連れて行ってくれないと、わかんないよぉ』

『何だよ、つばさ。
まだ通学路おぼえてないのか?』

『うっ
……ちがうもん。
つばさはぁ……っ』


小学校の黄色い通学ぼうしをわざと深くかぶりながら、つばさは照れ隠しをした。
図星だったに違いないだろ。


『つばさはぁっ
……だいちくんといっしょに行きたいだけだもんっ』


なんて半べそかいて言ってるけど、どうせウソに決まってら。


『わかったよ!
そういう事にしてやるよ!
ほら、早くついて来いよ』


おれがそう言うと、つばさはニパッと明るい顔になって、おれの手をにぎりしめた。


『ばか!
何くっついてんだよ!』

『えへへ。
だってついて来いって言ったのだいちくんだもん』

『そのついてじゃないっての!』

『えへへっ』


だけど手を握ってたら安心するのか、以来つばさはニコニコしながら毎日おれと学校行ってたんだよなぁ。

なぁ、つばさ……?





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 ――――――

  ――――――――…




朝陽がカーテン越しに伝って、部屋の中に染み込んでいる。
多分、もうすぐ時計のアラームが鳴る。

3……

2……

1……

ピピピピ…
ピ…


先に目が覚めていた俺は、鳴り始めた瞬間に時計のアラームを止めた。


「…………………」

せっかく学校もない日曜日に、寝坊もしないでこんな早起きしたのは小学校以来か?

昨夜はなかなか寝付けなくてむしろちょっと寝不足な筈なんだけど、何の緊張でもしてんだか、まるで遠足にでも行く小学生みたいな感じだ。


……今日は、翼とデートの練習に付き合う日だ。


ベッドからおりると、窓のカーテンをシャッと開けた。
すると、向かいにある翼の家の窓が見えるんだ。

翼の家の窓は白いレースのカーテンが閉まっていて、朝陽が反射している。

……別に初めから覗くつもりもなかったけど、その反射で部屋の中は見えなかったわけだ。



「翼の奴、もう起きてるよな」


時計の針は7時を示している。


デートの待ち合わせは遊園地までの移動時間も踏まえて、9時にした。

待ち合わせったって家が隣同士なんだから、玄関を出ればその辺りが待ち合わせ場所だ。
その約束の時間まで、あと2時間。

俺はあくびひとつすると、部屋を出て顔を洗いに洗面所へと向かった。




「あら大地、おはよう。
今朝は日曜日なのに早いのね」


ダイニングに行くと、母親が俺を見て驚いていた。

そりゃあな。
日曜日はいつも10時11時に起きてたからなぁ。



「今日は何かあるの?」

「んー……ちょっと遊びに、遠出するんだよ」

「まぁ珍しい。もしかしてデート?」


母親は手際よくトーストしながら、俺に牛乳をついでくれた。

デートって言えばデートなんだけど、デートじゃないって言えばデートじゃないんだよな。

てことは、これはデートじゃなくて、指導……いや、訓練……いや、遊び……
まぁ何でもいいや。


「翼とちょっと行くだけだよ」

「あら、やっぱり翼ちゃんと?
それは良かったわね。
はい、パン焼けたわよ。今、卵も焼いてるから、しっかり食べなさいね」


やっぱりって何だよ。
デート=翼とって、だから翼は俺の彼女じゃないんだからな。
翼は、あの金持ちイケメン先輩しか目に映ってないんだよ。



トーストと目玉焼きをさっさと平らげると、グイっと牛乳を飲んで俺は部屋に戻った。

さて、何を着て行ったらいいものか。
デート自体は俺も未経験だし、そもそも男のおしゃれとかサッパリわかんねぇ。

これはもしかしなくても、俺の方がデートの練習をしてもらった方がいいのかも。



「…………………」


……ま、別に気取る必要もねぇよな。
デートったって、ただの練習だし。
考えたって、今持ってる服以外は着れないわけだしな。

俺はクローゼットから適当にシャツとGパンを選び、ジャケットを羽織った。
遊園地行って遊ぶだけなら、別にこれで十分じゃないか。




そんなこんなで、時計の針は8時になっていた。

待ち合わせまでの後1時間。
さてどうやって時間をつぶそうかと思っていたが、やっぱりこっちの色のシャツが……などと、また服のコーディネートをしていたら、あっと言う間に時間は過ぎていったんだ。




8時45分になった。

別に遠い場所で待ち合わせてるわけじゃないから、時間ギリギリに出たって十分。

……なんだけども。



「……………」


後15分だけ時間をつぶすってのもアレなんで、ちょっと早いけど先に玄関先に出て待つ事にした。



「大地、行ってらっしゃーい。
翼ちゃんによろしくね~」


声もかけなかったのに、母親が玄関のドアまで見送りに出て来た。
よろしくなんて言われても、別にどうもこうもないんだけど?


「はいはい、行ってくるよ」

「デート楽しんでね~」

「だからそんなんじゃないってば」


ため息混じりに返事をすると、俺は玄関のドアを開けて外に出た。
なんでみんな勘違いすんのかなぁ。



「わ…………」


朝の空気ってのはやっぱり清々しい。
快晴にも恵まれ、陽の光が俺の目を刺激する。

風も柔らかく、絶好のデート日和だ。



「おはよう、大地くん」

「えっ」

眩しさに半分潰れたまぶたを開けながら、俺は声のした方を見た。

太陽の光を背に立つ声の主に姿が一瞬見えなかったが、それが翼なのはわかっていた。


「ご、ごめんっ。
待たせたか?」


俺の方が先に出てると思ってたのに、案外翼の方が先に待ってたみたいだった。

俺だって15分前に出たってのに、翼は一体いつからここにいたんだ?


「あはっ
やっぱりデートの待ち合わせには、『待った?』みたいな事って言うのね。
ううん、私も今来たトコだよー。
……なぁんてねっ」


どこの定番セリフを真似てんだってツッコみそうになったが、翼がニコニコ上機嫌だったのでやめといた。

でもホントに今来たんなら、別にいいんだけどな。



特に中学生になってからは、ほとんど制服姿ばかりだ。
だから翼の私服姿なんて、案外見る事がない。



「…………………っ」


今日の翼は、制服のような重く黒い色と違って、白くふわふわとしたワンピース。
柔らかいボブヘアには、小さな花の飾りがついたピン。
化粧でもしてんのかな。
唇は、いつもよりほんのりピンク色をしている。

そんな、まるで天使のような翼の姿に、ついつい目が離せなくなってしまった。

こんな一面があったんだな……。



「どうしたの?」

「あ、いや……っ」


別に見とれてたとかじゃないし。
ちょっと珍しいと思っただけだから。


「……馬子にも衣装だな」

「え~っ
どういう意味よぉっ」


ぷぅっ頬を膨らせた翼に、俺はふっと笑った。
さっきまでニコニコしてたクセに、次はもう怒ってんだな。


「冗談だよ」


いちいち真に受けるあたり、昔から変わんないな。
ま、それが翼の良いとこなんだけどさ。


「さてと、行こうか。
デートの練習開始だな」

「うんっ
よろしくね、大地くん!」


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