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先輩、不意打ちな告白は反則です
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「佐藤さん、さ」
先輩がコートの向こうを見つめていた視線を私に移した。
「はい」
なんとなく私は背筋を伸ばす。
だって、先輩の頬が固くなってる。目も真剣で、ちゃんと聞かなくちゃいけない雰囲気だったんだ。
「藤河とは付き合ってないんだよね」
「前にも言ったじゃないですか! そんなんじゃないって!」
「じゃあさ、その」
先輩は一度目を伏せて手に持っていたペットボトルをいじくり、また目を上げる。それから意を決したように言った。
「俺と、付き合ってくれないかな」
少しの間、私は思考が停止してしまった。
「……え?」
今、何を言われたの?
付き合って? 先輩が私に付き合って? え? それって、え?
ええええええっ!?
遅れてかああっと頬が熱くなった。
待って。待って!
「あの、その、先輩、私」
何か、何か返事をって思うのに、私の口からは意味不明な片言が飛び出すばかり。
なんなの。なんなの私。
先輩が真剣なのに、返事が出てこない。
私、私は。
先輩のこと、どう思ってるの?
必死に探すけど、心の中は整理されてないおもちゃ箱みたいにぐちゃぐちゃで、答えは見つからない。
「あっ、ごめん。急だったな。ええと、その急に答えを出さなくていいんだ。だから考えてくれないかな」
混乱して目を白黒させている私に、先輩は慌てたように手を振った。
「ずっと佐藤のこと、かわいいなって思ってた。気になってアドバイスしてたんだけど、すごく真面目に聞いてくれてメキメキ上手くなっていった。それもいいな、って思ったんだ」
「か、かわいい」
私は呆然とかわいいの単語を繰り返した。
だって、そんな言葉は家族とかからしか言われたことない。まさか先輩から、男の人から言われるなんて思ってもみなかった。
「止めは、さっきの言葉」
少し恥ずかしそうなはにかんだ笑顔は素敵だった。
私は先輩のことを素敵だと思ってる。これって恋、なのかな。
恋ってどういうもの?
どきどきするの?
なぜか、君の顔が浮かんだ。
やだ、どうして。
だって君といてもどきどきしない。
君といると楽しい。安心する。
それって恋じゃないよね。じゃあどうして君の顔が浮かぶんだろう。
「千尋ー!」
「わあっ」
その時、後ろから聞きなれた声が私の名が呼んだ。今まさに考えていた君の声に、私はびっくりして飛び上がった。
「わっ、わっ、わわわ」
手に持っていたペットボトルを取り落としそうになる。横から先輩がペットボトルをキャッチ。私に渡してくれる。
「大丈夫? 佐藤さん」
「大丈夫です。ありがとうございます」
私は身を縮こまらせて先輩に何度も頭を下げ、ペットボトルを受け取る。
「何やってんだよ、お前」
少し尖った声の方向を振り返る。ベンチの後ろにあるフェンス越しに、君が立って呆れたように私を見ていた。乗っていた自転車を降りる。
「うるさいなあ。徹こそ何やってんのよ」
「何って、ノート買いに行った帰りだよ」
自転車を傍らに止めた君は、かごの中にあるノートが入っているらしい紙袋を掲げた。
「で、二人きりで何やってるんですか」
君が今度は私に聞かないで先輩へと目を向けた。
ちょっと、なんで目が三角になってんの。前に君、先輩にはちゃんとした口をきくって言ってたよね?
確かに言葉遣いは敬語だけど、態度がつんけんしてるよ。
私はひやひやして君と先輩を見ていた。
「見ての通りテニスの練習だよ。今は休憩中の雑談。佐藤さん、大分休んだから練習再開しようか」
先輩はため息を一つ吐いて立ち上がり、私をうながした。
「あ、はい。それじゃ徹、そういうことだから」
私は君に手を振り、ラケットを持ってコートに戻ろうとする。
「じゃあ、俺も練習に混ぜてもらってもいいですか」
「えっ、でも徹、ラケット持ってないじゃない」
それでどうやって練習をする気なのかと私が首を傾げるけど、君の目は相変わらず先輩に固定したままだ。
「すぐに戻ってこれるから取ってくる。いいですよね、先輩」
「駄目だって言えないだろ」
先輩がしょうがないな、という様子で肩を竦めるけれど。
あれ、先輩の目がいつもより鋭い。怒ってるのかな。
なぜか二人の間の空気が張りつめているような気がして、私は恋がどうのとは違う意味でどきどきした。
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げた君は、顔を上げて直ぐに自転車にまたがった。
「じゃ、すぐ戻る」
やっと私を見て短い言葉をかけると、くるりと自転車を回転させてペダルに足をかけたと思ったらすごい勢いでこぎだした。そのまま猛スピードで走り去ってしまう。
「参ったな」
嵐みたいだった君を見送った先輩が小さく呟いた。
「え? 何がですか?」
「いや、なんでもない」
聞き返したけど、先輩は首を振って苦笑するだけだった。
それから君は本当にすぐ戻ってきた。
ちょ、早くない? と私が目を丸くするほど。
それから三人で乱打を一時間ほどやって解散した。
次の練習の時からは、井上先輩のペアの萩野先輩、私、そこへ君も一緒に参加するようになったのだった。
「返事、ゆっくりでいいからいつか聞かせて」
帰り際、荷物を片付ける私は先輩に耳打ちされ、ぎくしゃくと頷いた。この日の君との帰り道は無言で、どうしてかそわそわと落ち着かなかった。
先輩がコートの向こうを見つめていた視線を私に移した。
「はい」
なんとなく私は背筋を伸ばす。
だって、先輩の頬が固くなってる。目も真剣で、ちゃんと聞かなくちゃいけない雰囲気だったんだ。
「藤河とは付き合ってないんだよね」
「前にも言ったじゃないですか! そんなんじゃないって!」
「じゃあさ、その」
先輩は一度目を伏せて手に持っていたペットボトルをいじくり、また目を上げる。それから意を決したように言った。
「俺と、付き合ってくれないかな」
少しの間、私は思考が停止してしまった。
「……え?」
今、何を言われたの?
付き合って? 先輩が私に付き合って? え? それって、え?
ええええええっ!?
遅れてかああっと頬が熱くなった。
待って。待って!
「あの、その、先輩、私」
何か、何か返事をって思うのに、私の口からは意味不明な片言が飛び出すばかり。
なんなの。なんなの私。
先輩が真剣なのに、返事が出てこない。
私、私は。
先輩のこと、どう思ってるの?
必死に探すけど、心の中は整理されてないおもちゃ箱みたいにぐちゃぐちゃで、答えは見つからない。
「あっ、ごめん。急だったな。ええと、その急に答えを出さなくていいんだ。だから考えてくれないかな」
混乱して目を白黒させている私に、先輩は慌てたように手を振った。
「ずっと佐藤のこと、かわいいなって思ってた。気になってアドバイスしてたんだけど、すごく真面目に聞いてくれてメキメキ上手くなっていった。それもいいな、って思ったんだ」
「か、かわいい」
私は呆然とかわいいの単語を繰り返した。
だって、そんな言葉は家族とかからしか言われたことない。まさか先輩から、男の人から言われるなんて思ってもみなかった。
「止めは、さっきの言葉」
少し恥ずかしそうなはにかんだ笑顔は素敵だった。
私は先輩のことを素敵だと思ってる。これって恋、なのかな。
恋ってどういうもの?
どきどきするの?
なぜか、君の顔が浮かんだ。
やだ、どうして。
だって君といてもどきどきしない。
君といると楽しい。安心する。
それって恋じゃないよね。じゃあどうして君の顔が浮かぶんだろう。
「千尋ー!」
「わあっ」
その時、後ろから聞きなれた声が私の名が呼んだ。今まさに考えていた君の声に、私はびっくりして飛び上がった。
「わっ、わっ、わわわ」
手に持っていたペットボトルを取り落としそうになる。横から先輩がペットボトルをキャッチ。私に渡してくれる。
「大丈夫? 佐藤さん」
「大丈夫です。ありがとうございます」
私は身を縮こまらせて先輩に何度も頭を下げ、ペットボトルを受け取る。
「何やってんだよ、お前」
少し尖った声の方向を振り返る。ベンチの後ろにあるフェンス越しに、君が立って呆れたように私を見ていた。乗っていた自転車を降りる。
「うるさいなあ。徹こそ何やってんのよ」
「何って、ノート買いに行った帰りだよ」
自転車を傍らに止めた君は、かごの中にあるノートが入っているらしい紙袋を掲げた。
「で、二人きりで何やってるんですか」
君が今度は私に聞かないで先輩へと目を向けた。
ちょっと、なんで目が三角になってんの。前に君、先輩にはちゃんとした口をきくって言ってたよね?
確かに言葉遣いは敬語だけど、態度がつんけんしてるよ。
私はひやひやして君と先輩を見ていた。
「見ての通りテニスの練習だよ。今は休憩中の雑談。佐藤さん、大分休んだから練習再開しようか」
先輩はため息を一つ吐いて立ち上がり、私をうながした。
「あ、はい。それじゃ徹、そういうことだから」
私は君に手を振り、ラケットを持ってコートに戻ろうとする。
「じゃあ、俺も練習に混ぜてもらってもいいですか」
「えっ、でも徹、ラケット持ってないじゃない」
それでどうやって練習をする気なのかと私が首を傾げるけど、君の目は相変わらず先輩に固定したままだ。
「すぐに戻ってこれるから取ってくる。いいですよね、先輩」
「駄目だって言えないだろ」
先輩がしょうがないな、という様子で肩を竦めるけれど。
あれ、先輩の目がいつもより鋭い。怒ってるのかな。
なぜか二人の間の空気が張りつめているような気がして、私は恋がどうのとは違う意味でどきどきした。
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げた君は、顔を上げて直ぐに自転車にまたがった。
「じゃ、すぐ戻る」
やっと私を見て短い言葉をかけると、くるりと自転車を回転させてペダルに足をかけたと思ったらすごい勢いでこぎだした。そのまま猛スピードで走り去ってしまう。
「参ったな」
嵐みたいだった君を見送った先輩が小さく呟いた。
「え? 何がですか?」
「いや、なんでもない」
聞き返したけど、先輩は首を振って苦笑するだけだった。
それから君は本当にすぐ戻ってきた。
ちょ、早くない? と私が目を丸くするほど。
それから三人で乱打を一時間ほどやって解散した。
次の練習の時からは、井上先輩のペアの萩野先輩、私、そこへ君も一緒に参加するようになったのだった。
「返事、ゆっくりでいいからいつか聞かせて」
帰り際、荷物を片付ける私は先輩に耳打ちされ、ぎくしゃくと頷いた。この日の君との帰り道は無言で、どうしてかそわそわと落ち着かなかった。
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