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公爵令嬢は盗み聞きする
しおりを挟む「あーもう、あいつ、本当にうざい…」
その言葉を聞いてとっさに言葉を紡ぐのをやめた。誰に言っているのかは明確ではないが、なぜかこのお話を遮ってはだめだと思ったのだ。殿下は椅子に体重をかけてだるそうに言った。あんなところ、わたし、見たことない。
息を飲む私に気づいていない殿下は次々に言葉を紡いでいく。冷や汗が止まらない。
「俺は彼女が好きだから邪魔してくるあいつが超嫌いなんだよ。二人っきりになりたいのに邪魔しやがって…本当にいい迷惑なんだよ!」
「おい、おい……お前仮にも婚約……」
私は逃げ出した。
最後まで聞けるはずがなかった。とにかくこの場から逃げ出したかった。生徒会の仕事も、令嬢としての常識も、今は忘れていたかった。
殿下は私のことを邪魔って思っていたんだ。アレス様は婚約者って言った。それはあまりにも明確すぎた。話からしてあれは『殿下の婚約者』についてのお話ーーつまり私のことだった。
殿下にとって、私は邪魔者、うざい奴。嫌われてる、好感をもたれていないということがわかった。
仲良くやれてると……思ったんだけどなぁ。
それは私からしてだったらしい。殿下は私のことをゲームと同じく嫌っているから。
涙が溢れて溢れて、止まらなくて、全力で走って走って……それからの記憶はない。
気づいたら自室に着いていて、喪失感があった。涙は止まって鏡に映る自分はお世辞にも綺麗だと言えなかった。泣きあとが酷くて赤くなってた。
扉がノックされる。規則性がないノックで訪問したのが誰かわかった。
「…お姉さま…どうかなさったのですか?」
ひょっこりと扉から顔を覗かせるのは私の妹のガーベラだった。私の黒髪とは違い白金色のふわふわした髪をしていて、私のような切れ長な目ではなく水色の宝石みたいなまんまるな瞳が私を見つめていた。天使のような女の子。無邪気で可愛い私の妹。
可愛いなぁ。私と違って…
どんどん卑屈になっていくのが自分でもわかった。
「お姉さ…「触らないでっ!!」
「え…?」
ごめん、ごめんね。ガーベラ。パシンと私の顔を触ろうとしたガーベラの手を振り払う。
手を振り払われて戸惑っている、傷ついてるガーベラを見ると心が痛む。だけどまだ私は心の整理が出来ていなかった。
「……出ていって……お願いだから……」
掠れた声で言った私の言葉をガーベラは聞き入れて部屋を出ていった。
次の日には話す決心ができていて、放課後に時間を作ってもらった。さすがに好きな人に対して命まではかけられない。殿下は優しく話していて、昨日と同じ人ではなかった。
笑顔で私が数年間見ていた偽りの笑顔で私に対応した。
本音を隠しながら話すのはさぞ今まで疲れていたことだろう。それも今日で終わりだから安心してくださいね、と心の中でつぶやいた。
部屋にメイドも従者も誰一人いれずに本当の二人っきりになったのは初めてかも知れない。私、本当はそこまで殿下と仲良くなかったかも…。
笑っている殿下は嘘の笑顔に見えなくて少し心が痛む。そんな完璧な笑顔で笑われてもわかんないよ。どうせなら嘘だとわかる笑い方をしてくれれば……表情をしてくれれば私の胸はこんなにも傷まなかったのに。油断すれば涙が出てきそう。決心がついたはずなんだけどなぁ。
大好きでした。愛してました。
「殿下、私と婚約破棄してください」
婚約破棄は私から。
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