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5人の令嬢(ミロー伯爵令嬢)
しおりを挟むまだ殿下が来るには時間がかかるそうで雑談会を始めましたわ。
「サレット嬢の淑女の礼は本当に美しいですわ」
先ほど挨拶をした時のことね!
「まぁ。ありがとう存じます」
東の領地を持つミロー伯爵家のセリーヌ令嬢が言ったわ。お母様直伝の淑女の礼ですもの。幼い頃から泣きながら練習したんですもの。褒められると正直言って嬉しいわ。努力の賜物です!
「わたくしは足が震えてしまって、早く頭を上げてしまいますの」
たしかに足がプルプルしている令嬢をよく見るわ。練習が足りないのね。
高位貴族の淑女の礼は洗練されたものでなければならないもの。
「それはいけません! 目上の方に対して失礼にあたりますわよ。そうだわ、もう一度やってみてくださらない?」
「え! ここでですか?」
「えぇ。わたくしが見て差し上げますわ」
扇子で口を隠しながらにこりと微笑む。歳下にこんなことを言われて怒らないはずがないわ! これでこそ悪役令嬢!
侯爵令嬢が伯爵令嬢をいびっている図よ!
「そ、それでは」
言われた通りに淑女の礼をするミロー嬢。緊張している様子がよーく分かるわ!
なるほどね。分かったわ!
「背筋は真っ直ぐに、笑顔ですわよ」
だめなところを注意したわ。怒る? 泣く? プライドが許さないでしょう? こんな小娘にダメ出しをされるなんて!
「はい!」
素直に聞き入れるミロー嬢……につい。
「膝は軽く曲げるの! あなた筋肉が足りないわ! もっとお肉を食べた方が良いのではなくて? タンパク質は筋肉を作る上で大事な役割をするのよ! 淑女の礼に必要なもの! それはお肉を食べること!」
「はいっ!」
あら? 道が逸れたような気がするけれどまぁいいわ! お肉の話をしたらお腹が空いてきたわね。
「サレット嬢、よろしかったらお手本を見せて下さいませんか?」
ミロー嬢に上目遣いでおねだりをされたわ! 断れないじゃないの!
この娘やるわね! っとこの令嬢も私よりも歳上。
娘はないわね……社交界デビューもしていない私ですもの。悔やまれるわ。
はぁっと深呼吸を一息吐いて立ち上がる。なんでこんなことになったのか……
淑女の礼と言っても一通りではないのだけれど、私はお母様に教えられたやり方を見せる。
スカートの裾を摘んで持ち上げ、片足を斜め後ろの内側に、もう片方の足の膝を軽く曲げて、背筋を伸ばしたまま頭を下げた。そして笑顔で頭を上げる。
優雅でしょう? これが出来ないと淑女としては失格ね!
「すばらしいですわっ!」
ほぅ。っと感嘆なため息が聞こえた。
「素敵です! 憧れますわ!」
先ほどのゲラン嬢も褒めてくれたわ。憧れるって….私はまだデビュー前の殻のついたひよこ同然ですけど……
「そうですか? わたくしにとっては日常的に使っていますもの。普通ですわよオホホホ」
扇子で口を隠すのも忘れずにね!
そしてミロー嬢がもう一度淑女の礼をすると断然良くなっていたわ。さすがお母様直伝だわ。
「先ほどよりも随分良くなりましたわね。これでどこで淑女の礼をしても恥ずかしくところまで来ましたわね。良かったですわ、恥をかかずに済んで」
ホホホホホ……。
「ありがとうございますわ! これからお肉もたくさん食べます!」
ん? なんでそんなに尊敬するような眼差しで私を見るの? やめてよ!
……もしかして? ちょっと!
ガシッと手を掴まれた!
「応援しますわね! サレット嬢!!」
なんのっ!
ちょっと! マデリーンなんで笑っているのよぉ!
******
「待たせたね、悪かった」
フレデリック殿下が急いでやってきたのだ。皆、席を立ち各々淑女の礼をする。
「みんな頭を上げて。呼び出したのはこちらの方なのに遅れてしまい申し訳なかった。実は急な案件で手が離せなくなってしまった」
そう告げると可愛らしくラッピングされた袋をまずゲラン子爵令嬢に渡し声を掛けていた。それからゲラン嬢はそれを受け取り笑顔で退場した。
そのやり取りを繰り返して最後に私の順番が回ってきた。
「リリアン、こちらが呼び出したのに申し訳なかったね。そのドレスとても似合っているよ」
5人の令嬢にわざわざ声かけするのも大変よね。みんなを褒めることも忘れないのね。大変だわ……
「ありがとう存じます。殿下は大変お忙しいのですね。お体にお気をつけくださいましね、それでは失礼いたしますわ」
ラッピングの袋を受け取ろうとしたら力を入れられて受け取れない! ……何よぉ
「その髪飾りは先日の紫のバラを模したものだよね? あのバラ気に入ってくれたんだね!!」
え! これは出かける際にお母様に……って言い掛けた時に
「嬉しいよ!」
え! だから、そうではなくてですね! なんですの! その嬉しそうな顔は!
「今日のお詫びにまた招待するよ。またねリリアン」
手を取られてキスをされてしまったではないか! 油断するとこうなる! キスされた部分に殿下の唇の感覚が……
手袋が必要だったわ!
「殿下、名残惜しいのは分かりますがそろそろ……」
フレデリック殿下のお付きの人が申し訳なさそうに言った。
「……分かった。リリアンまた近いうちに」
颯爽と出て行ってしまったではないか!
「反論できなかったわ」
帰るには早い時間だけど、馬車が待っているからと歩き出した。一緒に来てくれたマリーにラッピングの袋を渡して王宮の廊下を歩いていると
「リリアン嬢!」
「まぁ! キリアン様」
バッタリ廊下の曲がり角で会ってしまった。驚いてそれ以上言葉が出ないでいると
「すごく素敵なドレスだね、リリアン嬢の為にあるようなドレスだ! いつも美しいが今日は更に美しく可憐だね」
褒め上手だわ。流石に公爵家となると口がうまいと言うか、キリアン様のような方に褒められるといくら友達とは言え、調子に乗りそうだわ。
「ありがとう存じます。褒めすぎですわよ。キリアン様こそ今日は制服とは違う姿でビシッと決まっていてとっても素敵ですわ」
黒の立ち襟ロング丈ジャケットには金の刺繍が施され、明らかに高価な仕上がり!
洗練された貴族の子息ってこんな感じなのね! やっぱり兄様に似ている? うーん。でも髪が漆黒でサラサラなところはさすが王族の血統を感じるわね。
褒められたら褒め返す! 倍返し……にしたらわざとらしいですね。
「お褒めの言葉をありがとう。まさかここでリリアン嬢に会うとは思わなかったよ。今からどこへ行くんだい?」
「帰るところですの。馬車置き場に向かうところですわ」
「送って行こう」
とても素敵な笑顔で送っていく。なんて言われると断りにくいけれども……
「いえ、キリアン様のお時間を取らせるわけには参りませんわ」
「実は父の執務の手伝いのために来ているんだが、少し時間を持て余している。腰を伸ばす為に部屋から出てきたんだよ。リリアン嬢を送る間に私の話し相手になってくれると助かる」
「それでしたら、喜んで」
お願いしますと意味を込めて挨拶をした。断れなかった!
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