侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの

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キリアン様にお会いしました!

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「今日はどうして王宮に?」

 こうやって横並びでキリアン様と歩くのは初めてだった。お父様や兄様に二人きりはだめだと言われたけれどマリーや他メイドもいるから大丈夫よね! キリアン様の侍従もついている。


「フレデリック殿下とその他婚約者候補の令嬢とお茶会の予定でしたが、急な会議があったようで中止になったのですわ」

「そうか。リリアン嬢はフレデリックと婚約したいの?」

 したくない! ってハッキリ言えたら楽になりそうだけれど、ここは王宮! 敵地なの。


「あまり興味がなくて、でもこのことは内緒ですよ! 他の婚約者候補の令嬢に譲りたいなぁって思ったりしてて……あっ! わたくしには勿体なすぎる話というか」

 しどろもどろで説明した。


「言わないさ。約束する」

 建物から出て馬車乗り場まではもうすぐだ!


「そこ滑るから気をつけて」


「はい、きゃぁぁっっっ」

 つるんと足が滑った! ヒールが高すぎたのかも、足に力が入らないわ!

「お嬢様っ!」

 ま、マリー!! 目を瞑った。後は地面と仲良くなるだけ……



 あれ?




「言ったばかりで……なぜ、こうなる?」


 ふぅっ。というため息と共にキリアン様に抱き止められた。近いわ! 距離が! 体を離そうと思って、足に力を入れたらズキンと足首が傷んだ。その瞬間顔を顰めてしまった。

「いたっ」

 小さな声だったのにキリアン様は声を拾ってしまわれたのだ。


「どこか痛むのか?!」

「大丈夫ですわ。マリー手を貸してちょうだい」

 侍女のマリーに声を掛けた。

「お嬢様! 大丈夫ですか!」

 心配そうに屈んで足首を見た。



「お嬢様、腫れていますわ。これでは歩きにくいでしょうから人を呼んできます、少しお待ちください」

 マリーが慌てて馬車乗り場へ向かおうとすると


「待って! 馬車まで送ると言っただろう? 失礼するよ」


 キリアン様が言った瞬間身体が宙に浮いた。

「きゃっ!」



「大人しく運ばれてくれる? 暴れると落としかねないよ!」

「キリアン様、おろして、」

「公子様、申し訳ございません。あちらがサレット家の馬車でございます」


 マリーったら! 運んでもらう気満々じゃないの!

「うん、行こう」

 歩き出すキリアン様に

「ご迷惑をおかけします。重いでしょう……」

 と言った。こんな事なら朝からお腹いっぱいスープを飲むんじゃなかった! だってシェフの作るクラムチャウダーは最高なんだもの……

「いや、とても軽いよ。もしかして羽根が生えているのか? 重さが全く感じないよ」


 口が達者だわ……







「おい! 何をしているんだ? キリアンにリリー!」

 どこかに出かける様子のフレデリック殿下がやってきた。


「やぁ。フレデリック、今から視察か?」

「あ、殿下……」


「リリー! 質問の問に答えろ!」

 なんで怒っているのかしら? フレデリック殿下に迷惑をかけたわけでもないのに。


「足を捻ってしまって、キリアン様に助けてもらったんです。足に力が入らなくて、」


「大丈夫なのか? 見せてみろ。王宮に戻って医師に見せるか?」

 見せてみろって、足なんてこの場で見せられるわけないでしょうが! 嫁入り前なのに! ますます婚期が遅れるわっ!


 足を見ようと近づくフレデリック殿下に対してぐるりと向きを変え背中を見せるキリアン様。


「邪魔するな、キリアン!」


「こんな場所で令嬢に足を見せろと言う変態がどこにいる!」


「あ……そうだな、すまない。リリーこっちにこい」

 こっちに来いって……どうやってよ! 私投げられちゃうの? キリアン様と殿下を交互に見た。



「すぐそこに侯爵家の馬車がある。冷やすものを持って来させたから早く家に帰らせた方が良い」

 そう言って馬車に向かって歩き出すキリアン様。

「早く家に帰って診てもらえ、大したことがないといいけれど」


 馬車の座席に座らせてくれた。キリアン様の侍従がマリーに足を冷やすための氷やタオルを渡している。


「キリアン様にはご迷惑をおかけしました。殿下にもご心配をおかけしました」


 恥ずかしい! そして早く帰りたい……


「気をつけて。また学園で」

「連絡するよ。リリー」

 頭を下げたら扉が閉められ馬車が動き出した。


 
 屋敷に着き、かかりつけの医師に見てもらうと、ただ捻っただけだった。
 ヒールが高かったから力が入らなかったのね……筋肉をつけなきゃ。

 って、人のこと言えないわね!


 帰ってきた家族にこのことを話すと、お父様はキリアン様の屋敷にすぐに遣いを出した。私もお礼の手紙を書いて渡してもらった。


 足の腫れがひくまでは、安静ということで部屋に軟禁されてしまった。


 翌日にはキリアン様からお見舞いのブーケが届いた。お大事に。と一言だけ書かれたメッセージ付き。

 そして更に次の日にはフレデリック殿下がお忍びでお見舞いに来た。



「私の茶会で怪我をしたのだから此度のことは私に責任がある。キリアンの家にもそう伝えてある」

「いえ、わたくしの不注意なので、殿下には関係ありませんわ! キリアン様にも申し訳なく、」

「ところで、キリアンとはどういう関係だ? リリーは私の婚約者候補なのに他の男と仲良くするとはどういう了見だ? 侯爵は知っているのかな?」


 どうして責められているのだろうか? 浮気が発覚したかの様な勢いじゃないのよ! その笑顔がおそろしい……


「キリアン様は学園の先輩で、お友達です。お父様も知っています」


 公爵家の子息に友達と言われて断れないと言ったのはお父様だし、やましい事も無いもの!



「くそ、キリアンめ……」
 ぶつぶつと何かを言うフレデリック殿下


「この花は? 新しい様だが?」

 キリアン様から戴いた花を窓辺に飾ってあった。リボンもそのまま。


「昨日、キリアン様からお見舞いに戴いたものです。お父様がお礼の品を公爵家に届けて下さったので、その際にお礼のお手紙を書いたらお見舞いとして届けられました」


「……そうか、リリーは私の婚約者候補なんだから友達とは言えキリアンとは節度のある付き合いを心がけて欲しい。変な噂が立つと困るだろう?」


「噂……」

 
 そっか、お父様も言っていたわね。噂が立つと殿下が困るものね。変な令嬢を婚約者候補にしてしまったって! そうなると家にもキリアン様にも迷惑になるわ!


「そうだよ、これから行動には十分気をつけて欲しい。頼んだよ」


 はい。って返事をしようと思ったけれど、

「変な噂が立つ前にわたくしを婚約者候補から外せば、」

「それじゃリリー、私はそろそろ行くよ。また会いにくるから安静に。私のせいで怪我をしてしまったんだから」


 なんでフレデリック殿下のせいになってしまったのかしら……



 それから一週間学園を休んだ。フレデリック殿下は1日おきに見舞いに来るし、キリアン様からは申し訳ない。とブーケとお菓子が届くし、迷惑ばかり掛けている。


 こんな友達ならキリアン様にとっても迷惑なだけだと思う。一度話をしたいと思った。
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