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光る指輪

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「何か他に手がかりはないのかっ!」

 貴族街の一店舗でフレデリックが聞くと、捜索隊の1人が走りながら店へと入ってきた。


「貴族街の外れに荷馬車が乗り捨てられていました! 守衛から聞いた馬車の特徴を見る限り、守衛が通したもので間違いないと思います」

 報告をして来た男に注目が集まる。


「乗っていた男2人の行方はどうなっている?」


「それが……川に死体が浮いていると通報があり他の者が調べている途中です」


「偶然とは思えない……リリ無事でいてくれ」

 手がかりがないまま時間ばかりが過ぎていく……

「リリ……」


 リリアンに渡したお揃いの指輪を握りしめると、まるで応えるように指輪が光り出した。


「殿下! 外に不思議な光が!」

 南の方角の屋敷から天に登るような光が! そしてフレデリックの指輪からも同じ光が出て屋敷の方向を指していた!


「シルヴァン殿! リリはあの屋敷にいる! 指輪がリリの場所を示してくれます! 急ぎましょう!」

「殿下、その指輪は……」

「説明は後にしてください!」

 店の前に繋いであった愛馬に乗り走るフレデリック。


「殿下! お待ちください」

 騎士が止めようとしたが耳に入っていないようだった。

「リリ、無事でいてくれよ、すぐいくから!」


 この光が収まるまでに屋敷に行かないと! リリが指輪を嵌めると、この光は消えてしまう!

 追いついた騎士の一人がフレデリックと並行して走っている。

「殿下! この屋敷です」


 この屋敷は、確か……

「行くぞっ!」

 門を開け、屋敷の入り口まで来て扉をノックする。強行突破だ。





「何事ですか! このお屋敷はマテス伯爵家です。急に訪れるなど礼儀がなっていません。礼儀知らずを屋敷に入れるわけには行けません! 今すぐここを立ち去りなさい!」


 老執事と言ったところか? 私はフードを被っていて顔が隠れている。


「この屋敷に客が来ていると思うのだが、ご存知か? 急用だ」


「なんのことでしょうか?」

 ようやく合流したシルヴァンと目を合わせる。


「この屋敷の一室から天に向かって赤く光っている。そして私のこの指輪がさす方向に、私達の探している人がいる。退け!」


 執事はその光が先ほどがから気になっていたが、聞くことはできなかった。その先には……


 フレデリックはフードを取って顔を見せると老執事の動きはピタリと止まった。



「ここは私が……」

 シルヴァンがそう言うと、フレデリックは頷き屋敷内に侵入する。光の射す方へ


「きゃぁ!!」


 屋敷内にいたメイドらしき者が侵入者を見て、悲鳴をあげるが、無視して光の射す扉の前へと着いた。

 ノックするが返事はない。仕方がないとドアノブに手を掛けるが内側から鍵が掛かっているようだ。重厚な扉でびくともしない。


「リリ! いるのか!」


******


 ガチャガチャ……扉を開けようとしている音が聞こえてリリアンはホッとする。

 もしかしてあの指輪が?


『リリいるのか?』


「でん、」

 殿下の声が聞こえて、ほっとして……【殿下】と言葉を返そうとした。


「この指輪か! くそっどんな仕掛けになっているんだ」

 指輪を思いっきり踏みつける男


「やめてください!」


 リリアンは指輪を取り返そうとして指輪の落ちている床に膝をついた。

 すると男は豹変し、リリアンの髪の毛を思いっきり引っ張ったのだ。


「痛、いっ……!」

 痛みに耐えられず涙が出てきた。

「人形が痛がるなんておかしいだろう」

 痛い……痛いよぉ……



 痛みを堪えながら男の顔を見た。楽しそうにこちらを見る顔が狂気に満ちていた。


「痛みを堪える顔も可愛いじゃないか」

 途端に男は掴んでいた髪の毛を離しリリアンは地面に叩きつけられた。


「きゃぁぁっ」

 地面に横たわるリリアンを見て男はニヤリと笑い、あろうことかお腹を踏みつけた。


「ゴホッ、ゴホッ……やめ、」

 苦しくて咳が出るリリアン


「この扉は重厚だから中々開ける事は出来ないだろう。さぁどうしようかな……リリアンの可愛い顔に傷をつけたらどうなるかな……無論私はそんな傷くらいで、リリアンの事を嫌いにはならない」

 懐からナイフを取り出してきて、ピタピタと頬に当てる。

 ナイフの冷たさが妙に生々しくて、緊張が走る。


「助けて……やだぁ」

 ポロポロと涙がとめどなく溢れてきた。

 ドンドンと扉に体当たりするような音はいつの間にか止んでいた。


「痛い……止めて」

 ゴホッ、ゴホッ……お腹の痛みも限界


「泣き顔も可愛いね、リリアン。でも私は君の美しく微笑む顔が一番好きなんだ。ずっと私に微笑みかけていてほしい」


「た、すけ、て、リック……」

 痛みと恐ろしさに耐えられずボォーっとしてきた。


 ……また意識が

 ……力が、出ない

 ……たすけて

 ……いたい

 





「ーーリリ! 窓際にいるならすぐに離れろ! 怪我するぞ!」


 拡張機のような物で叫ぶ声が聞こえた。

 まどぎわ……?


「リッ、ク……」

「な! 何をする気、」

 男の声はかき消され




 ガチャーーーーン!! っと音を立てて、フレデリックが窓を勢いよく蹴り破り部屋に入ってきた。フレデリックの執事も後についてきた。



「リリ!!!!」



 男が怯んでフレデリックを見た。



「ーー殿下! 鍵!」

 聞き慣れた声

 ……兄様だ。

 助かったわ……


 フレデリックの執事が内鍵をガチャリと開けた。

 フレデリックはリリアンから男を引き離した。

「リリ! 大丈夫か」


「おなか、いたい、髪の毛も引っ張られて」

 床を見るとリリアンの長い髪の毛がたくさん抜け落ちていた。

 ひっくひっく、ぐすん。


 リリアンはフレデリックに抱きついた

「……怖かった」


 フレデリックは優しくリリアンを抱きしめ返す。

「遅くなって悪かった。怖い思いをさせてしまったね。もう大丈夫だよ」

 優しく返事を返すが、ぐずぐずと泣くリリアンを見て怒りが止まらない。


 リリアンに暴行を加えた男はフレデリックの執事とシルヴァンに取り押さえられている。無様な姿だった。


「リリー! 大丈夫か!」

「にいざまっ……」


 シルヴァンはリリアンの無事を確認し、ほっとして、男を抑える手に更に力が入った!



「リリ。とりあえず安全な場所に移ろうか」

 フレデリックがリリアンから離れようとすると


「やだ、行かないで……リック」

 泣きながら、昔の愛称で呼ばれフレデリックは時が止まったような感じがした。


「私はどこにも行かないよ」


 よしよしと頭を撫でて、上着を脱ぎリリアンの肩に掛けた。

「立てる?」

 ううん。と首を振るリリアン。腰が抜けて力が出ないようで起き上がる事ができない。


「私がリリを運ぶよ。ちゃんと首に手を回して、落ちないようにしてくれる?」


 うん。と頷くリリアン

 フレデリックがリリアンを抱いて歩き出した時に男がリリアンを見て言った。


「くそ! もう少しだったのに……リリアンは俺の物だぁっ!」


 リリアンは男の言葉が気持ち悪くて、怖くてフレデリックの首に顔を埋めた。

 フレデリックは男を睨みつけ

「この件についてはタダでは済ませない。お前を唆したについても不問にはしないからな。覚悟しておけ」


 リリアンが震えているのでそれくらいにしておこう。とすぐさま現場を立ち去った。


















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