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第2章 京香の愛犬、シロ
狐火の妲己ちゃん
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凉美と別れてから、家路を歩く京香は市営墓地の横を通った。辺りはすっかり暗くなり、墓地には様々な形の墓石や卒塔婆が、暗闇の中にぼんやりと浮かんでいる。植樹達が、夜風に撫でられてカサカサと泣いている。哀しそうな葉擦れ音以外には、京香の靴音以外、音らしい音がない静かな墓地だった。
「あんた霊犬じゃん。こんなところで何してんの?」
突然、京香の尻を追う我輩の中に、甲高い女の子の声が響いた。
驚いた我輩は、足を止めてキョロキョロと辺りを見渡した。暗闇に覆われた墓地の一角が、ぼんやりと明るくなっている。もちろん、その明かりが見えているのは我輩だけで、女の子の声も墓地の明かりも感じられない京香は、困惑の我輩を1頭残して、さっさと先を行ってしまった。
ワンッ、ワンッ!
我輩は京香の注意を引くために、わざと吠えた。すると······よかった、京香の靴音が鳴りやんだ。
「今度は何······?」
振り向いた京香は、ちょっと不貞腐れたような目を我輩に向けた。我輩が怒って文句を言っているように感じたのだろう。
我輩としては、女の子の声と墓地の明かりが気になるので、京香に1人でさっさと先を行かれたら困るのだ。それで、わざと吠えて京香を足留めしたのだ。
パタパタ!パタパタ······!
我輩はこれでもかと尻尾を振って京香の愛情に訴えた。京香はため息を1つつくと、戻ってきて我輩の背中を撫でた。京香を逃がすまいと我輩は尻尾を振り続ける。
我輩が見詰める先に京香も視線を向ける。が、そこには、寂れた墓地が暗闇の中に浮かんでいるだけであった。
「こんな寂しい墓地がどうしたのよ? 私、ショーツが気持ち悪いから早く帰りたいんだけどな······」
我輩は尻尾を振り乱しながら、墓地の一角で淡く灯る明かりを凝視し続けた。こちらに向かって、ゆっくりと明かりが近づいてくる。それは、黄色い炎であった。ふわりふわりと宙を漂っている。
「狐火か······?」
「そうだよ、狐火の妲己ちゃんだよ」
「妲己······殷を滅ぼしたと言うあの妲己か?」
「殷が勝手に滅んだんだよ、あたいのせいにするな!」
ふわふわ舞いながら、妲己ちゃんと名乗った狐火は、まるで街灯のように我輩と京香を照らした。面白い組み合わせでも見るように、我輩と京香を交互に眺めている。
「あんた崑崙山の犬でしょう、何でこんなところにいるのよ?」
妲己ちゃんは興味深そうに我輩の周りを舞った。そんな妲己ちゃんの姿が見えない京香は、墓地の方を向いて相も変わらず吠えている我輩に、困惑と少し面倒くさそうな目を向けている。尻尾を振り続けていなかったら、我輩は本当に見捨てられていただろう。
「······そう言う訳で、我輩は人間界に来てしまったんだ」
「何で門の外になんて関心を持ったわけ、あんた馬鹿じゃないの」
「······」
門の外になんか興味を持った愚か者を、妲己ちゃんは嘲笑った。宙を漂う炎が小刻みに震えている。
「あんたって、何も知らないのねぇ~。あの神社には、あんたが居た本殿の裏手に、奥の殿と呼ばれる社があるの。そこの祭壇に供物を供えれば、仙境の門は開くわよ」
ワオ~~~ン!!
我輩は、1際大きな声で吠えた。まるで狼の遠吠えのように、顔を天空の星ぼしに向けて喜びを表現した。
その大きな声に京香は驚いた。周辺の飼い犬が共鳴して、次々と遠吠えを始めた。近所迷惑を恐れて、京香は我輩の口を塞ごうとしたが、我輩は巧みにそれをかわして、妲己ちゃんとの会話を続けた······
「あんた霊犬じゃん。こんなところで何してんの?」
突然、京香の尻を追う我輩の中に、甲高い女の子の声が響いた。
驚いた我輩は、足を止めてキョロキョロと辺りを見渡した。暗闇に覆われた墓地の一角が、ぼんやりと明るくなっている。もちろん、その明かりが見えているのは我輩だけで、女の子の声も墓地の明かりも感じられない京香は、困惑の我輩を1頭残して、さっさと先を行ってしまった。
ワンッ、ワンッ!
我輩は京香の注意を引くために、わざと吠えた。すると······よかった、京香の靴音が鳴りやんだ。
「今度は何······?」
振り向いた京香は、ちょっと不貞腐れたような目を我輩に向けた。我輩が怒って文句を言っているように感じたのだろう。
我輩としては、女の子の声と墓地の明かりが気になるので、京香に1人でさっさと先を行かれたら困るのだ。それで、わざと吠えて京香を足留めしたのだ。
パタパタ!パタパタ······!
我輩はこれでもかと尻尾を振って京香の愛情に訴えた。京香はため息を1つつくと、戻ってきて我輩の背中を撫でた。京香を逃がすまいと我輩は尻尾を振り続ける。
我輩が見詰める先に京香も視線を向ける。が、そこには、寂れた墓地が暗闇の中に浮かんでいるだけであった。
「こんな寂しい墓地がどうしたのよ? 私、ショーツが気持ち悪いから早く帰りたいんだけどな······」
我輩は尻尾を振り乱しながら、墓地の一角で淡く灯る明かりを凝視し続けた。こちらに向かって、ゆっくりと明かりが近づいてくる。それは、黄色い炎であった。ふわりふわりと宙を漂っている。
「狐火か······?」
「そうだよ、狐火の妲己ちゃんだよ」
「妲己······殷を滅ぼしたと言うあの妲己か?」
「殷が勝手に滅んだんだよ、あたいのせいにするな!」
ふわふわ舞いながら、妲己ちゃんと名乗った狐火は、まるで街灯のように我輩と京香を照らした。面白い組み合わせでも見るように、我輩と京香を交互に眺めている。
「あんた崑崙山の犬でしょう、何でこんなところにいるのよ?」
妲己ちゃんは興味深そうに我輩の周りを舞った。そんな妲己ちゃんの姿が見えない京香は、墓地の方を向いて相も変わらず吠えている我輩に、困惑と少し面倒くさそうな目を向けている。尻尾を振り続けていなかったら、我輩は本当に見捨てられていただろう。
「······そう言う訳で、我輩は人間界に来てしまったんだ」
「何で門の外になんて関心を持ったわけ、あんた馬鹿じゃないの」
「······」
門の外になんか興味を持った愚か者を、妲己ちゃんは嘲笑った。宙を漂う炎が小刻みに震えている。
「あんたって、何も知らないのねぇ~。あの神社には、あんたが居た本殿の裏手に、奥の殿と呼ばれる社があるの。そこの祭壇に供物を供えれば、仙境の門は開くわよ」
ワオ~~~ン!!
我輩は、1際大きな声で吠えた。まるで狼の遠吠えのように、顔を天空の星ぼしに向けて喜びを表現した。
その大きな声に京香は驚いた。周辺の飼い犬が共鳴して、次々と遠吠えを始めた。近所迷惑を恐れて、京香は我輩の口を塞ごうとしたが、我輩は巧みにそれをかわして、妲己ちゃんとの会話を続けた······
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