45 / 56
第4章 夢幻との決戦
立ちはだかる風
しおりを挟む
満月が煌々と夜の街並みを照らしている。上空は風が強いのか、月明かりを浴びる雲が、西から東へと滑るように流れていく。時折、その中の大きな塊が、部分的に、あるいは、完全に月を隠しては流れ去っていく。
京香が夢幻仙様の生け贄になるのを防ぐため、我輩は1路、街村宅へと全力疾走していた。ハアハアと荒く息をついては舌が垂れ下がる。
そんな我輩の前を、美少女に変身した狐火の妲己ちゃんが、風に乗ってフワフワと浮かんでいる。ゆったりとした漢服を着て宙に舞う妲己ちゃんは、まるで仙女のようだった。
「エロ、しっかりしな。もうすぐだよ!」
バテ気味の我輩を見て、妲己ちゃんが叱咤する。街村宅はもうすぐそこだった。道の向こうで、無限仙様のものと思われる、月光をも霞ませる銀白色の霊気が、街村宅を渦巻いて取り囲んでいるのが見えた。
渦巻く霊気の旋風が、門を、いや、門だけでなく家全体に渡って、霊的存在の侵入を遮断していた。この風の壁を何とかしないと、家の中へ入ることができない。
「妲己ちゃん、どうやって中に入ろう?」
「······簡単だよ。無理やり突っ込めばいいのさ」
妲己ちゃんはなに食わぬ顔で、風の壁に向かって行く。ポニーテールの長い髪が、ゆったりとした漢服が、風に煽られて後方へはためく。
しかし、妲己ちゃんは強い向かい風など苦にもせず、簡単に風の壁を通り抜けてしまった。壁の向こうは無風らしく、髪も着衣も全く揺らめいていなかった。
「ほらね、簡単だろ。エロ、あんたも早く来なさいよ!」
風壁の向こうから、妲己ちゃんがニコニコしながら手招きする。風に弾かれるか吹き飛ばされるかすると思っていた我輩は、この呆気なさに驚いた。唸りをあげて風が巻き上がっているのはなんなのか?
「こ、こけ脅しか······?」
我輩は恐る恐る風の壁に向かっていった。近づくにつれて、猛烈な風圧が我輩を襲った。眼を開けていられないほどだった。
「ほら、早く。ビビってんじゃないわよ!」
「キャイ~~ン!!」
妲己ちゃんの叱咤も空しく、我輩は風圧に負けて吹き飛ばされてしまった。後方へ勢いよく転がっていく。
「もう、エロ。あんた、何やってんのよ。しっかりしなさいよ!」
「だ、妲己ちゃん、一体どうやって中に入ったんだ?」
「え~~、どうって、通り抜ければいいじゃないの······って、な、何?······きゃあ~!」
両手を腰に当て、呆れ顔な妲己ちゃんの背後で、突然、玄関扉が開いた。まるで、家の中が真空であるかのように、妲己ちゃんを強烈に吸い込んでいく。
「ち、ちょっと、何よこれ?······いやぁ~、エロ、助けて~!」
抵抗も空しく、妲己ちゃんは家の中へ吸い込まれてしまった。妲己ちゃんを家の中へ引きずり込むと、玄関扉は勢いよく閉まった。そして、何事もなかったかのように、相変わらず我輩を敷地内にいれまいと、風が立ちはだかる。
「だ、妲己ちゃん~~! い、いかん、中には無限仙様がいる。ただでさえ、無限仙様は妲己ちゃんを愛人にしたがっていたのに、美少女の妲己ちゃんでは、間違いなく無限仙様の手にかけられる······あるいは、もう······」
我輩は呆然として、家の中の妲己ちゃんを想像した······
京香が夢幻仙様の生け贄になるのを防ぐため、我輩は1路、街村宅へと全力疾走していた。ハアハアと荒く息をついては舌が垂れ下がる。
そんな我輩の前を、美少女に変身した狐火の妲己ちゃんが、風に乗ってフワフワと浮かんでいる。ゆったりとした漢服を着て宙に舞う妲己ちゃんは、まるで仙女のようだった。
「エロ、しっかりしな。もうすぐだよ!」
バテ気味の我輩を見て、妲己ちゃんが叱咤する。街村宅はもうすぐそこだった。道の向こうで、無限仙様のものと思われる、月光をも霞ませる銀白色の霊気が、街村宅を渦巻いて取り囲んでいるのが見えた。
渦巻く霊気の旋風が、門を、いや、門だけでなく家全体に渡って、霊的存在の侵入を遮断していた。この風の壁を何とかしないと、家の中へ入ることができない。
「妲己ちゃん、どうやって中に入ろう?」
「······簡単だよ。無理やり突っ込めばいいのさ」
妲己ちゃんはなに食わぬ顔で、風の壁に向かって行く。ポニーテールの長い髪が、ゆったりとした漢服が、風に煽られて後方へはためく。
しかし、妲己ちゃんは強い向かい風など苦にもせず、簡単に風の壁を通り抜けてしまった。壁の向こうは無風らしく、髪も着衣も全く揺らめいていなかった。
「ほらね、簡単だろ。エロ、あんたも早く来なさいよ!」
風壁の向こうから、妲己ちゃんがニコニコしながら手招きする。風に弾かれるか吹き飛ばされるかすると思っていた我輩は、この呆気なさに驚いた。唸りをあげて風が巻き上がっているのはなんなのか?
「こ、こけ脅しか······?」
我輩は恐る恐る風の壁に向かっていった。近づくにつれて、猛烈な風圧が我輩を襲った。眼を開けていられないほどだった。
「ほら、早く。ビビってんじゃないわよ!」
「キャイ~~ン!!」
妲己ちゃんの叱咤も空しく、我輩は風圧に負けて吹き飛ばされてしまった。後方へ勢いよく転がっていく。
「もう、エロ。あんた、何やってんのよ。しっかりしなさいよ!」
「だ、妲己ちゃん、一体どうやって中に入ったんだ?」
「え~~、どうって、通り抜ければいいじゃないの······って、な、何?······きゃあ~!」
両手を腰に当て、呆れ顔な妲己ちゃんの背後で、突然、玄関扉が開いた。まるで、家の中が真空であるかのように、妲己ちゃんを強烈に吸い込んでいく。
「ち、ちょっと、何よこれ?······いやぁ~、エロ、助けて~!」
抵抗も空しく、妲己ちゃんは家の中へ吸い込まれてしまった。妲己ちゃんを家の中へ引きずり込むと、玄関扉は勢いよく閉まった。そして、何事もなかったかのように、相変わらず我輩を敷地内にいれまいと、風が立ちはだかる。
「だ、妲己ちゃん~~! い、いかん、中には無限仙様がいる。ただでさえ、無限仙様は妲己ちゃんを愛人にしたがっていたのに、美少女の妲己ちゃんでは、間違いなく無限仙様の手にかけられる······あるいは、もう······」
我輩は呆然として、家の中の妲己ちゃんを想像した······
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる