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エピローグ 聖霊界再び
風の便りにて······おしまい
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娘娘様たちの複雑な表情を目にしていたら、我輩に向けて外の方から風が流れてきた。その風はひげをそよがせながら、我輩に語りかけてきた。
「······お~い、エロ。便りを持ってきたよ」
風乙女のワルキューレだった。どうやら、我輩に風の便りを運んできたらしい。便りを受けに風が吹いている外へ出るとしよう。我輩は夢幻仙様が娘娘様と戯れているのを横目に御殿を後にした。
禍々しい淫らな気と、熟れて弾けた桃の甘い香気が絡み合っている御殿を出ると、外はそんな淀んだ情念を吹き払うような神々しい光が仙境を射し、桃の香気溢れる清涼なそよ風が吹いていた。
くすぐったい風に草原の花ばなが、頭を揺すりながら笑っている。花蜂がそんな笑う花たちとじゃれ合っている。その中で明らかに我輩を志向する風が流れてきた。
我輩を見つけたその風は、透明な流れる風の美少女に姿を変えた。便りを入れた鞄を肩から提げて、我輩の周囲を滑るように旋回する。
「やあ、ご苦労様、ワルキューレ」
「エロ、あなたに便りが届いているよ」
ワルキューレが鞄を開けると、そこからタンポポの種のようなものが、ふわふわと舞い降りてきた。地面に着くと、そこから芽を出し茎を伸ばして先端にタンポポのような蕾が現れた。
「その便りは、あなたのお父さんからだよ。確かに届けたからね」
そう言うと、美少女は再び風に溶けて、紺碧の空へ消えていった。
我輩はタンポポのような便りの傍らに蹲ってその蕾を開いた。すると、我輩の中に、あの破魔矢の声が流れてきた。
「······私のことは、破魔矢を通してすでに知っていることと思う。南斗六星、私はお前の父親の天狼星だ。破魔矢から夢幻の行状を聞き及んだ私は、西王母様のご指示で、現在は地獄王と泰山にてその処遇を話し合っているところだ。娘娘様が自ら監視するようなので、夢幻の処置は娘娘様に一任する事となるだろう。南斗六星の所にも、聞き取りの調査が訪ねるはずなのでよろしく頼む」
我輩は目を閉じて、声に続いて流れてくる映像を追っていった。
「······お前が人間界でお世話になった母娘と少年には、金霊が幸運の金丹を贈った。いなくなって悲しんでいたが、お前のことは諦めたようだ」
······ここはどこの映像だろう? 我輩の瞼に懐かしい京香の笑顔が映った。同じくらいの年齢と思われる、たくさんの少年少女が、"合格者発表"と書かれた掲示板を取り巻いて一喜一憂していた。
満面の笑顔から失望の涙まで、およそ人間が作りうる、あらゆる表情がそこにはあった。諸手を挙げて、瞳を輝かせている京香の表情は、希望に満ちていた。その横には、これまた希望に目を輝かせている、我輩の代わりに枝のお供え物を取ってくれた、あの少年の姿があった。2人とも喜びを爆発させて抱き合っている。
「やったーー!! 私も直君も合格だ!」
「やったな、京香! 俺たち、◯◯大学医学部に合格したんだ!」
気の早い2人は、早くも期待に満ちた大学生活について語り合っている。親に安堵の報告をいれると、2人は身を寄せ合って新たなレールを歩き始めていった。
「京香、今日は帰さないぞ」
「私、もう我慢しないからね❤️」
2人は幾度となく唇を交わし合い、そして、駅裏のホテルへ姿を消したところで、風の便りは終わった。
暖かい黄金の陽射しが降り注ぐ。霊草がその香気を風に乗せ、香木の林が陽射しに馥郁で挨拶をする。宇宙のように透き通った泉からは、霊気が立ち昇っていく。
我輩はその無限に近い寿命を刻みつつ、3年の欠伸、70年の微睡み、そして、800年の昼寝を楽しみながら、風の便りを読み終えた······
ー完ー
「······お~い、エロ。便りを持ってきたよ」
風乙女のワルキューレだった。どうやら、我輩に風の便りを運んできたらしい。便りを受けに風が吹いている外へ出るとしよう。我輩は夢幻仙様が娘娘様と戯れているのを横目に御殿を後にした。
禍々しい淫らな気と、熟れて弾けた桃の甘い香気が絡み合っている御殿を出ると、外はそんな淀んだ情念を吹き払うような神々しい光が仙境を射し、桃の香気溢れる清涼なそよ風が吹いていた。
くすぐったい風に草原の花ばなが、頭を揺すりながら笑っている。花蜂がそんな笑う花たちとじゃれ合っている。その中で明らかに我輩を志向する風が流れてきた。
我輩を見つけたその風は、透明な流れる風の美少女に姿を変えた。便りを入れた鞄を肩から提げて、我輩の周囲を滑るように旋回する。
「やあ、ご苦労様、ワルキューレ」
「エロ、あなたに便りが届いているよ」
ワルキューレが鞄を開けると、そこからタンポポの種のようなものが、ふわふわと舞い降りてきた。地面に着くと、そこから芽を出し茎を伸ばして先端にタンポポのような蕾が現れた。
「その便りは、あなたのお父さんからだよ。確かに届けたからね」
そう言うと、美少女は再び風に溶けて、紺碧の空へ消えていった。
我輩はタンポポのような便りの傍らに蹲ってその蕾を開いた。すると、我輩の中に、あの破魔矢の声が流れてきた。
「······私のことは、破魔矢を通してすでに知っていることと思う。南斗六星、私はお前の父親の天狼星だ。破魔矢から夢幻の行状を聞き及んだ私は、西王母様のご指示で、現在は地獄王と泰山にてその処遇を話し合っているところだ。娘娘様が自ら監視するようなので、夢幻の処置は娘娘様に一任する事となるだろう。南斗六星の所にも、聞き取りの調査が訪ねるはずなのでよろしく頼む」
我輩は目を閉じて、声に続いて流れてくる映像を追っていった。
「······お前が人間界でお世話になった母娘と少年には、金霊が幸運の金丹を贈った。いなくなって悲しんでいたが、お前のことは諦めたようだ」
······ここはどこの映像だろう? 我輩の瞼に懐かしい京香の笑顔が映った。同じくらいの年齢と思われる、たくさんの少年少女が、"合格者発表"と書かれた掲示板を取り巻いて一喜一憂していた。
満面の笑顔から失望の涙まで、およそ人間が作りうる、あらゆる表情がそこにはあった。諸手を挙げて、瞳を輝かせている京香の表情は、希望に満ちていた。その横には、これまた希望に目を輝かせている、我輩の代わりに枝のお供え物を取ってくれた、あの少年の姿があった。2人とも喜びを爆発させて抱き合っている。
「やったーー!! 私も直君も合格だ!」
「やったな、京香! 俺たち、◯◯大学医学部に合格したんだ!」
気の早い2人は、早くも期待に満ちた大学生活について語り合っている。親に安堵の報告をいれると、2人は身を寄せ合って新たなレールを歩き始めていった。
「京香、今日は帰さないぞ」
「私、もう我慢しないからね❤️」
2人は幾度となく唇を交わし合い、そして、駅裏のホテルへ姿を消したところで、風の便りは終わった。
暖かい黄金の陽射しが降り注ぐ。霊草がその香気を風に乗せ、香木の林が陽射しに馥郁で挨拶をする。宇宙のように透き通った泉からは、霊気が立ち昇っていく。
我輩はその無限に近い寿命を刻みつつ、3年の欠伸、70年の微睡み、そして、800年の昼寝を楽しみながら、風の便りを読み終えた······
ー完ー
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