呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第四章:謝罪編

045:王決

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「……ほ、報告は以上にございます」


 玉座の前で跪き、ガゼフは顔中にびっしりと冷や汗を噴き出させながら首を垂れる。

 国にとって最重要人物である〈呪法師〉ラグナとの再接触に成功し、再び所属できないかの交渉を行ったものの、即座に拒否されそれに素直に頷かざるを得なかった。
 そんな情けない報告を王に提示しなければならないという重圧で、ガゼフの胃はきりきりと痛みを訴えていた。


「……あの男は、今後どこへ」
「は、後に部屋の外で会話の様子を伺ったところ、隣国へ渡る準備を行うと……彼の性格からして、もうすでに出立しているかと」


 王は顔を手で覆い、唸り声のような溜息をこぼす。彼の胃もまた凄まじい痛みを訴え、この状況を何とか脱却できないものかと叫んでいる。
 しばらくの間沈黙し、項垂れていた王は徐に手を下ろすと、自身を不安げに見上げてきている禿頭の巨漢を睨みつける。


「やってくれたな……まさか最悪と思っていた事態のさらに下が存在しているとは。私の赦しを受けて尚、このような事態を引き起こした事に対する言い訳はあるか、ガゼフ・ロギンス」
「……返す言葉もございません」
「殺しておけばよかったのだ、女一人……そうしていればまだ穏便に解決していたやもしれんのに、ここまで話を拗らせおって。辞任だけでは済まんぞ、ガゼフ・ロギンス」


 部下の暴走を目の当たりにし、感情のままに殴り飛ばして追い出した。それでもう二度と関わる事はないと、それ以上の最悪の事態を想像する事なく都合のいい未来だけを期待した。
 その結果がこの状況だと、ガゼフは血が滲むほどに歯を食い縛り、拳を握り締める。

 不意に、ぶつぶつと呟く王に目をやったガゼフは、重い口を何とか開いて恐る恐る声を掛ける。


「王よ、恐れながら申し上げます。最早ラグナに接触する事は避けるべきかと……すでに組合を含めた多くの組織に不信感を抱いている以上、無理に引き止めようものなら今度は本気で怒り狂ってもおかしくはないかと……」
「では、このままあの〝力〟が他国へ渡るのを指を咥えて見ていろと……!?」
「そうしなければならないほど、亀裂は深いものと思われます。私にはもう何を言う資格もありませんが……これ以上のラグナへの刺激は、逆効果になるかと」


 自身に向けられたラグナの拒絶の態度、心底どうでもよくて興味の欠片もないといった冷たい眼差しを思い出し、せめてもの王への注意を促す。
 ここまで失敗した自身の言葉を聞き入れて貰えるだろうかと戦々恐々としながら、じろりと鋭い目を向けてくる王の反応を待つ。

 王はしばらくの間また黙り込み、やがて深く思い溜息を吐いて、玉座の背凭れに凭れかかって告げた。


「……わかった、下がれ」


 気怠げに手を振り、視線を逸らした王はそれ以上何も言わなくなり、天を仰いで動かなくなる。
 ガゼフは内心怯えながら、どこか老け込んだように見える王に再度深く頭を下げてその場から立ち去る。何度も後ろを気にし、立ち止まって振り向きながら、自身に興味をなくした王の前から姿を消した。


 自分以外に誰もいなくなった玉座の間で、ガゼフは一人瞠目する。
 そして、かっと目を開くと自身の傍に向けて声を発した。


「……影よ、ここへ」
「は」


 王のすぐ後ろに、黒い影が降り立った。
 全身を漆黒の装いで覆い、顔も分厚い布で隠した男かも女かもわからない細身の人間。

 その者は王を守護し、任務をこなす秘密の存在。
 諜報活動に護衛に伝令に影武者に暗殺まで、命じられれば必ず何でもやり遂げる役目を担った、〝影〟と呼ばれる臣下である。


「確かにあの男の〝力〟は人の手に余る物……本人の気紛れで、味方にするつもりで甚大な被害を齎しかねん、災害のような〝力〟だ」
「は、仰る通りで」
「手元に置いていても、またいつか現れるやもしれん愚か者の所為で食い殺されかねん……だが、他所にいても同じとは限らん。異なる環境を気に入るやもしれんからな」


 静かに頷く影に向け、王は険しい表情で虚空を睨み、ぶつぶつと考え込むような態度と共に呟く。
 その目に宿る、爛々としたどこか危険な雰囲気を醸し出す光を見せつけて、王はある決定を下す事にする。




「首輪を付ける事が叶わぬのなら……始末してしまった方が後顧の憂いも絶てようーーー何をしてでもいい……〈呪法師〉ラグナを殺せ」




 その命令を聞き届けた影は、こくりと小さく頷くと、現れた時と同じように音もなく闇の中へと消えていった。
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