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第一章 フォージ・ヒーレンス
4、フォルゼーリ・ヒーレンスという名の女の子
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後世のために王族の血の濃さを保ったまま継承しなければならない。宰相サマが陛下とあたしの結婚を反対していたのはこれが理由だ。いろいろあって、今はしぶしぶ認めてるけど。いや、認めてほしいわけじゃない。宰相サマが(あたしにとっての)最後の砦なのに、丸め込まれたりしないでよ(泣)
すぐ話がそれちゃうな。ともかく、王族の一人でもある宰相サマがその役目を果たさないわけがなかったのよね。そういうこと、全然考えもしなかったな。よっぽど宰相サマに興味ないのね、あたしって。
お城から駆けつけたテルミットさんが、衣装箱からあたしの服を出しながら話してくれた。
「モリブデン様は二十歳に幼なじみの女性と結婚なさいました。結婚九年目にお子を授かり、翌年生まれた方がフォージ様です。愛称がフォージ様で、正式なお名はフォルゼーリ様とおっしゃいます」
「ってことは、そのフォージ様は今十歳ってこと?」
「はい、そうです」
十歳か……その割に小柄だったな。お父さんの宰相サマは大きいほうだから、お母さんに似たのかな。
そういえば、娘の部屋に侵入者が現れて大騒ぎになったのに、集まった大勢の中にお母さんらしき人はいなかったな。なんでだろう。
そんなことを考えながら、あたしは差し出されたアンダードレスを下着の上に着込んだ。
そう、ベッドから直接こっちに来ちゃったから、寝間着のまんまだったのよね。あはは。はは……(うなだれ)。
今いるのは、宰相サマの屋敷の客室。宰相サマの家にお邪魔する日が来るとは思わなかったわ。
陛下は別の客室に連行されて、ロットさんが持ってきた服に着替えてる。きっと宰相サマにちくちくお小言を言われてるだろう。あたしから陛下を引きはがすとき、目くじら立ててたから。あ、宰相サマはしょっちゅう目くじら立ててるか。
着替え終わって客室を出ると、廊下でメイドさんが待っていた。
「我が主人が、朝食をご一緒にと申しております。案内いたします」
さすが宰相サマん家のメイドさん。折り目正しくていらっしゃる。断る理由も方法もないので、あたしはテルミットさんと一緒に、メイドさんについていった。
通された部屋は、大きなガラス窓のある部屋だった。青と白を基調とした部屋で、よけいな装飾はいっさいない。ごてごてに飾られたお城とは全然違う。やっぱり、あたしはこういうシンプルな部屋のが好きだわ。あくまでお城の客人であるあたしが、そういう注文をつけられるわけじゃないけどさ。
そこには陛下と宰相サマ、ロットさんが揃っていた。席は三つ。
「ええっと、ロットさんとテルミットさんは?」
「僕たちはもう朝食をすませていますから」
ロットさんは陛下の、テルミットさんはあたしのお世話をしてくれるから、そのために早起きしてご飯を食べてる。そのことは知ってるけど、知ってる人の前で自分たちだけご飯を食べるって状況には慣れないわ。
でも三つ?
「宰相サマの娘さんは?」
奥さんのことも口に出かかったけど、黙っておくことにした。食事の席にも現れないということは、何か事情があるのかもしれない。必要に応じてテルミットさんにこっそり聞こう。
宰相サマはいつものように素っ気なく答えた。
「フォージは自分の部屋で食べます」
「娘さんは一人きりでごはんを? いつもそうなの?」
「いえ、いつもはわたしと一緒です」
「だったら仲間外れはかわいそうですよ」
「娘は人見知りですので」
にべもない。
あたしは座りかけた席から立ち上がった。
「じゃあ、あたしが娘さんの部屋に行って一緒に食べてあげます。ここ数日あたしを見に来てたから、あたしには慣れてると思うんです」
斜め前の席に座った宰相サマが、眉間のしわを深くして訊ねてきた。
「先ほど陛下から聞きましたが、フォージがあなたのところへ意識を飛ばしていたとは本当ですか?」
「うん……多分」
自信なくあたしが答えると、宰相サマはこれ見よがしなため息をついた。
「多分などと曖昧なことを」
「しょうがないじゃないですか。あたしはこの世界に来るまで、【救世の力】どころか不思議な力全般とまったく無縁だったんです。感覚的なことを『間違いないか?』って訊ねられても、確信持って『はい』なんて答えられません」
宰相サマは眉間のしわをいっそう深くして小さくうなったあと、使用人に声をかけた。
「フォージをここへ。食事も運んでくるように」
やってきた小さな女の子──フォージは、おどおどしてドアのすぐ側で立ち止まった。メイドさんに促されるけど、こっちに来ない。怯えてるのに気付いて、あたしはフォージに近寄った。
「改めておはよう。さっきは突然お部屋にお邪魔してごめんなさい。あなたのお父さんが陛下によーく言って聞かせたと思うから、もうあんなことはしないと思うわ」
「……」
フォージは無言のまま警戒の目をあたしに向ける。笑いを取ろうと思ったんだけど、ダメだったか。
あたしはフォージの前にしゃがんで、少し見上げるようにして話しかけた。
「お話する前に自己紹介しなくちゃね。あたしは成宮舞花。姓が成宮で、名前が舞花ね。舞花って呼んでね。あなたのお名前は?」
「……フォルゼーリ・ヒーレンス、です……」
か細いにしっかり耳を傾けてから、あたしは訊ねる。
「名字がヒーレンスで名前がフォルゼーリっていうのね? みんながあなたのことをフォージって呼んでるけど、あたしもそう呼んでいいかな?」
フォージがびくびくしながらうなずく。
それを確認してから、あたしはまた話しかけた。
「いつもはお父さんとごはんを食べてるんだってね。あたしたちのせいでフォージが部屋で一人でごはんするのは申し訳なくて、お父さんに呼んでもらったの。一緒にごはん食べてくれるかな?」
すると、フォージの顔がほっとしたようにゆるみ、さっきよりしっかりとうなずいた。メイドさんはただ呼んできただけで、なんの説明もしなかったのかもしれない。叱られるんじゃないかって怯えても仕方ないな。宰相サマにあとで言ってやらなくちゃ。メイドさんにもっと柔軟な態度を取るように言うか、子ども好きなメイドさんについてもらうようにするかしてあげてって。
あたしは立ち上がり、フォージに手を差し出した。
「さ、行こう」
するとフォージは、何故か悲しそうな目をしておずおずと手を上げる。どうしたんだろうと思いながら、あたしはその手を取った。
そうして一緒に歩き始めると、宰相サマが驚いてこっちを見ていた。あたしには子どもと付き合えないと思ってたんだろうか。失礼な。
「さ、席替え席替え。宰相サマは陛下の隣に移動してね」
「何故席替えなど……」
ぶつぶつ言う宰相サマに、あたしはすかさず言い返す。
「フォージと仲良くなりたいから! さ、どいたどいた」
そう言って、あたしは宰相サマの肩を叩く。それを見た陛下が睨みつけたおかげか、宰相サマはフォージの隣の席を譲ってくれた。
「じゃあ席に着こうか」
あたしはフォージに声をかける。
席に着くと、身長差が少なくなって、俯いたフォージの顔をのぞき込めるようになる。
フォージははにかんでもじもじしてた。よかった。嫌がられてたわけじゃないみたい。
納得しないのは陛下だ。
「何故なんだ舞花~余の隣が嫌なのか?」
相変わらず幼稚園児並。いや、そんなこと言ったら幼稚園児さんたちに失礼か。
あたしは仕方なくなだめることにした。
「陛下はいっつもあたしの隣じゃないですか。たまには正面に座ってあたしの顔を眺めながら食事するのもいいと思いますよ」
ちょっと甘い笑顔を見せてそう言ったとたん、陛下はご満悦な顔になって言った。
「そうだな。たまにはいいものだな」
……ちょろいな。
内心シラケていると、隣からくすっと笑い声が聞こえてきた。見れば、フォージが口に両手を当てて笑うのをこらえようとしてる。女の子はやっぱりこうでなきゃ。
あたしは手を伸ばしてフォージの頭を撫でた。
「かわいいかわいい。宰相サマの娘さんとは思えないくらいかわいいわ」
宰相サマはむっつり黙り込んでしまう。自分の娘がほめられたんだから喜んだらいいのに。
けど、撫でたとたん、フォージはさっと青ざめて硬直してしまった。触られるのが嫌なのかな?
すぐに食事が運ばれてきて、四人同時に食べ始めた。出てきたのは、お城と変わらない朝食。パンに卵料理、ソーセージやベーコン等々。
そしていつも同席するこの人も変わらなかった。
「あ~ん」
陛下が腕と上体を目一杯伸ばして、ソーセージを突き刺したフォークをあたしの口元に突きつけてくる。あたしは身体をそらして避け、陛下を冷ややかに見つめた。
「訪問には不適切な時間、不躾な場所に押し掛けたあげく、仕方なしに誘ってもらった朝食の席ですることじゃないと思うんですけどー」
ふてぶてしい口調で文句を言ってやってから、隣のフォージに笑顔を向けた。
「フォージはお行儀いいわねー。あたし、お行儀いい子だーい好き」
それを聞いたとたん、陛下はフォークを引っ込めてお行儀よく食べ始めた。フォージをかわいがりたかっただけなんだけど、思わぬ副産物! あたしはここぞとばかりに言ってやる。
「お行儀のいい陛下は好きだなー。でも焼きもち焼いて【救世の力】を使ったり、あたしのベッドに勝手に潜り込んだりしなくなれば、もーっと好きになるんだけどなー」
すると陛下は情けない顔をして言った。
「ベッドをともにするのもダメなのか?」
「ダメに決まってます」
ぴしゃりと言い返すと、陛下はすっかりしょげてしまう。言い方キツすぎとは思うけど、これくらい言ってやらないと陛下はわかってくれないからね。
あたしたちのやりとりを聞きながらもくもくと食事をしていた宰相サマが、フォークを置いて眉間のしわをいっそう深くした。
「陛下を手玉に取るんじゃない、舞花」
「宰相サマ、あたしにじゃなくて陛下に言うべきだと思うんですけど。『簡単に手玉に取られるんじゃない』って。こんなにちょろい人が国王やってて、この国大丈夫なんですか?」
おまけに、目の前でこんな話をされてもあたしに怒ろうとしない陛下もどうかと思うんですけど!
フォージがまたクスクス笑う。フォージが楽しいならそれでよしとしよう。
おおむね和やかに朝食を終えたころに、陛下ご帰還の準備が整ったと連絡が入って、あたしは陛下と一緒にお城に戻ることになった。
あたしはフォージにこう挨拶した。
「またね。気配だけでなく、こうして直接フォージと会いたいな」
するとフォージは照れくさそうな悲しそうな、何ともいえない表情をしてうつむいた。
すぐ話がそれちゃうな。ともかく、王族の一人でもある宰相サマがその役目を果たさないわけがなかったのよね。そういうこと、全然考えもしなかったな。よっぽど宰相サマに興味ないのね、あたしって。
お城から駆けつけたテルミットさんが、衣装箱からあたしの服を出しながら話してくれた。
「モリブデン様は二十歳に幼なじみの女性と結婚なさいました。結婚九年目にお子を授かり、翌年生まれた方がフォージ様です。愛称がフォージ様で、正式なお名はフォルゼーリ様とおっしゃいます」
「ってことは、そのフォージ様は今十歳ってこと?」
「はい、そうです」
十歳か……その割に小柄だったな。お父さんの宰相サマは大きいほうだから、お母さんに似たのかな。
そういえば、娘の部屋に侵入者が現れて大騒ぎになったのに、集まった大勢の中にお母さんらしき人はいなかったな。なんでだろう。
そんなことを考えながら、あたしは差し出されたアンダードレスを下着の上に着込んだ。
そう、ベッドから直接こっちに来ちゃったから、寝間着のまんまだったのよね。あはは。はは……(うなだれ)。
今いるのは、宰相サマの屋敷の客室。宰相サマの家にお邪魔する日が来るとは思わなかったわ。
陛下は別の客室に連行されて、ロットさんが持ってきた服に着替えてる。きっと宰相サマにちくちくお小言を言われてるだろう。あたしから陛下を引きはがすとき、目くじら立ててたから。あ、宰相サマはしょっちゅう目くじら立ててるか。
着替え終わって客室を出ると、廊下でメイドさんが待っていた。
「我が主人が、朝食をご一緒にと申しております。案内いたします」
さすが宰相サマん家のメイドさん。折り目正しくていらっしゃる。断る理由も方法もないので、あたしはテルミットさんと一緒に、メイドさんについていった。
通された部屋は、大きなガラス窓のある部屋だった。青と白を基調とした部屋で、よけいな装飾はいっさいない。ごてごてに飾られたお城とは全然違う。やっぱり、あたしはこういうシンプルな部屋のが好きだわ。あくまでお城の客人であるあたしが、そういう注文をつけられるわけじゃないけどさ。
そこには陛下と宰相サマ、ロットさんが揃っていた。席は三つ。
「ええっと、ロットさんとテルミットさんは?」
「僕たちはもう朝食をすませていますから」
ロットさんは陛下の、テルミットさんはあたしのお世話をしてくれるから、そのために早起きしてご飯を食べてる。そのことは知ってるけど、知ってる人の前で自分たちだけご飯を食べるって状況には慣れないわ。
でも三つ?
「宰相サマの娘さんは?」
奥さんのことも口に出かかったけど、黙っておくことにした。食事の席にも現れないということは、何か事情があるのかもしれない。必要に応じてテルミットさんにこっそり聞こう。
宰相サマはいつものように素っ気なく答えた。
「フォージは自分の部屋で食べます」
「娘さんは一人きりでごはんを? いつもそうなの?」
「いえ、いつもはわたしと一緒です」
「だったら仲間外れはかわいそうですよ」
「娘は人見知りですので」
にべもない。
あたしは座りかけた席から立ち上がった。
「じゃあ、あたしが娘さんの部屋に行って一緒に食べてあげます。ここ数日あたしを見に来てたから、あたしには慣れてると思うんです」
斜め前の席に座った宰相サマが、眉間のしわを深くして訊ねてきた。
「先ほど陛下から聞きましたが、フォージがあなたのところへ意識を飛ばしていたとは本当ですか?」
「うん……多分」
自信なくあたしが答えると、宰相サマはこれ見よがしなため息をついた。
「多分などと曖昧なことを」
「しょうがないじゃないですか。あたしはこの世界に来るまで、【救世の力】どころか不思議な力全般とまったく無縁だったんです。感覚的なことを『間違いないか?』って訊ねられても、確信持って『はい』なんて答えられません」
宰相サマは眉間のしわをいっそう深くして小さくうなったあと、使用人に声をかけた。
「フォージをここへ。食事も運んでくるように」
やってきた小さな女の子──フォージは、おどおどしてドアのすぐ側で立ち止まった。メイドさんに促されるけど、こっちに来ない。怯えてるのに気付いて、あたしはフォージに近寄った。
「改めておはよう。さっきは突然お部屋にお邪魔してごめんなさい。あなたのお父さんが陛下によーく言って聞かせたと思うから、もうあんなことはしないと思うわ」
「……」
フォージは無言のまま警戒の目をあたしに向ける。笑いを取ろうと思ったんだけど、ダメだったか。
あたしはフォージの前にしゃがんで、少し見上げるようにして話しかけた。
「お話する前に自己紹介しなくちゃね。あたしは成宮舞花。姓が成宮で、名前が舞花ね。舞花って呼んでね。あなたのお名前は?」
「……フォルゼーリ・ヒーレンス、です……」
か細いにしっかり耳を傾けてから、あたしは訊ねる。
「名字がヒーレンスで名前がフォルゼーリっていうのね? みんながあなたのことをフォージって呼んでるけど、あたしもそう呼んでいいかな?」
フォージがびくびくしながらうなずく。
それを確認してから、あたしはまた話しかけた。
「いつもはお父さんとごはんを食べてるんだってね。あたしたちのせいでフォージが部屋で一人でごはんするのは申し訳なくて、お父さんに呼んでもらったの。一緒にごはん食べてくれるかな?」
すると、フォージの顔がほっとしたようにゆるみ、さっきよりしっかりとうなずいた。メイドさんはただ呼んできただけで、なんの説明もしなかったのかもしれない。叱られるんじゃないかって怯えても仕方ないな。宰相サマにあとで言ってやらなくちゃ。メイドさんにもっと柔軟な態度を取るように言うか、子ども好きなメイドさんについてもらうようにするかしてあげてって。
あたしは立ち上がり、フォージに手を差し出した。
「さ、行こう」
するとフォージは、何故か悲しそうな目をしておずおずと手を上げる。どうしたんだろうと思いながら、あたしはその手を取った。
そうして一緒に歩き始めると、宰相サマが驚いてこっちを見ていた。あたしには子どもと付き合えないと思ってたんだろうか。失礼な。
「さ、席替え席替え。宰相サマは陛下の隣に移動してね」
「何故席替えなど……」
ぶつぶつ言う宰相サマに、あたしはすかさず言い返す。
「フォージと仲良くなりたいから! さ、どいたどいた」
そう言って、あたしは宰相サマの肩を叩く。それを見た陛下が睨みつけたおかげか、宰相サマはフォージの隣の席を譲ってくれた。
「じゃあ席に着こうか」
あたしはフォージに声をかける。
席に着くと、身長差が少なくなって、俯いたフォージの顔をのぞき込めるようになる。
フォージははにかんでもじもじしてた。よかった。嫌がられてたわけじゃないみたい。
納得しないのは陛下だ。
「何故なんだ舞花~余の隣が嫌なのか?」
相変わらず幼稚園児並。いや、そんなこと言ったら幼稚園児さんたちに失礼か。
あたしは仕方なくなだめることにした。
「陛下はいっつもあたしの隣じゃないですか。たまには正面に座ってあたしの顔を眺めながら食事するのもいいと思いますよ」
ちょっと甘い笑顔を見せてそう言ったとたん、陛下はご満悦な顔になって言った。
「そうだな。たまにはいいものだな」
……ちょろいな。
内心シラケていると、隣からくすっと笑い声が聞こえてきた。見れば、フォージが口に両手を当てて笑うのをこらえようとしてる。女の子はやっぱりこうでなきゃ。
あたしは手を伸ばしてフォージの頭を撫でた。
「かわいいかわいい。宰相サマの娘さんとは思えないくらいかわいいわ」
宰相サマはむっつり黙り込んでしまう。自分の娘がほめられたんだから喜んだらいいのに。
けど、撫でたとたん、フォージはさっと青ざめて硬直してしまった。触られるのが嫌なのかな?
すぐに食事が運ばれてきて、四人同時に食べ始めた。出てきたのは、お城と変わらない朝食。パンに卵料理、ソーセージやベーコン等々。
そしていつも同席するこの人も変わらなかった。
「あ~ん」
陛下が腕と上体を目一杯伸ばして、ソーセージを突き刺したフォークをあたしの口元に突きつけてくる。あたしは身体をそらして避け、陛下を冷ややかに見つめた。
「訪問には不適切な時間、不躾な場所に押し掛けたあげく、仕方なしに誘ってもらった朝食の席ですることじゃないと思うんですけどー」
ふてぶてしい口調で文句を言ってやってから、隣のフォージに笑顔を向けた。
「フォージはお行儀いいわねー。あたし、お行儀いい子だーい好き」
それを聞いたとたん、陛下はフォークを引っ込めてお行儀よく食べ始めた。フォージをかわいがりたかっただけなんだけど、思わぬ副産物! あたしはここぞとばかりに言ってやる。
「お行儀のいい陛下は好きだなー。でも焼きもち焼いて【救世の力】を使ったり、あたしのベッドに勝手に潜り込んだりしなくなれば、もーっと好きになるんだけどなー」
すると陛下は情けない顔をして言った。
「ベッドをともにするのもダメなのか?」
「ダメに決まってます」
ぴしゃりと言い返すと、陛下はすっかりしょげてしまう。言い方キツすぎとは思うけど、これくらい言ってやらないと陛下はわかってくれないからね。
あたしたちのやりとりを聞きながらもくもくと食事をしていた宰相サマが、フォークを置いて眉間のしわをいっそう深くした。
「陛下を手玉に取るんじゃない、舞花」
「宰相サマ、あたしにじゃなくて陛下に言うべきだと思うんですけど。『簡単に手玉に取られるんじゃない』って。こんなにちょろい人が国王やってて、この国大丈夫なんですか?」
おまけに、目の前でこんな話をされてもあたしに怒ろうとしない陛下もどうかと思うんですけど!
フォージがまたクスクス笑う。フォージが楽しいならそれでよしとしよう。
おおむね和やかに朝食を終えたころに、陛下ご帰還の準備が整ったと連絡が入って、あたしは陛下と一緒にお城に戻ることになった。
あたしはフォージにこう挨拶した。
「またね。気配だけでなく、こうして直接フォージと会いたいな」
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