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第四章 全部まとめて解決します!
30、準備に奔走
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「何とかいう催しのお話、聞きました?」
「何でも舞花様のお国で行われている遊びだとか」
「親交を深める場で遊びなんて不謹慎に思いますけど、代わり映えしない毎日に飽きてきたところですもの。ちょっとした気晴らしになりそうですわ」
「そうですわね」
王女方が通り過ぎるのを、隅に寄って待っていたあたしは、頭を下げたままほくそ笑んだ。
今はそういう位置付けでいいよ。参加さえしてもらえれば、あっと驚かせてあげるから。──って、そう上手くいくかわからないけど。
「近日開催とのことですけど、具体的にはいつなのかしら?」
「急いで衣装をあつらえなくては」
「そうですわね」
王女たちがすっかり通り過ぎてから、あたしは周囲を見回しながら先を急ぐ。あ、あの辺り隠し場所にちょうどいいかも。立ち止まってお城の見取り図をチェック。携帯用の羽ペンを取り出して地図に印をつける。あとでフォージと来て、具体的な隠し場所決めるんだ。
また歩き出して階段ホールのところまで来ると、ちょうどテルミットさんがいた。
「あ、舞花様。各階階段ホールのハイテーブル設置はもう終わりますわ。当日みなさまにお出しする特別な軽食も、調理場に頼んでおきました」
「ありがとうございます! あとは休憩所の準備と飾り付けですね」
「飾り付けに必要なものと、あと特別な軽食に使う食材をそろえるのが大変ですが、陛下のご指示で大勢の応援が集まりましたので、明日までには何とかできますわ」
「じゃあ、他の準備を大急ぎですませなくちゃいけないですね。せっかく集めた食材がダメになっちゃったらもったいないですし」
そんな話をしているところにふわりと風が起こって、空から舞い降りるようにフォージが姿を現した。瞬間移動だね。誰に教えられたわけでもないだろうに、フォージの瞬間移動はとても優雅。名家のお嬢様だなぁとつくづく思う。対して、陛下の瞬間移動は荒々しい。嵐のように吹き荒れて、紙は舞い軽い置物は倒れる。悋気を起こすことしばしばだけど、たいていはおおらかな陛下。そんな陛下に荒々しい瞬間移動は意外なようでいて、でも陛下にそういう面もあることを、多分あたしだけが知ってる。──って、何を思い出してんのよ、あたし!
フォージが不思議そうにあたしの顔を見上げてくる。約束した通り、ひとの心読まないんだよね。気になっても好奇心を抑えてくれる。約束を守ってくれるからには、あたしも隠し事をしないようにしたい。なかなか難しいけどね。特に今回みたいな考え事は。うーん、どう答えようかな。
「フォージの瞬間移動のこと考えてたの。陛下と違って優雅だなって思って」
フォージは恐縮したみたいにうつむく。陛下と比べたからかな。それでも嬉しそうにはにかんでいる様子からして疑問は解消したみたい。よかった。
フォージははっとして照れから覚めると、たどたどしくあたしに言った。
「次をお願いって、フラックスさんが……」
「え? もう? 早い!」
フラックスさんって頭の回転早いのよね、意外と(←失礼)。 だって、普段バカやってるところをよく見てるから、頭いいって感じなくて。いや、以前完全にダマされたことあるけどね。あれは見事にやられたわ。
それはともかくとして。
「じゃあ隠し場所決めないとね」
フォージと、さっき地図に印をつけた場所に行く。瞬間移動を何度もするのは疲れるでしょうということで、徒歩で。
「他の人たちはどうしてる?」
フォージはちょっと考え込む。そのすぐあと、あたしの頭の中に、ウェルティが怒ってる姿が浮かんだ。
──暗号にしろって言われても、どうすればいいのよ!?
──ウェルティ、静かに考えなさい。
──ヘマータ様、もうそんなに終わったんですか!? すごいです!
──だから静かにしなさい。うるさいのは一人で十分です。
──え? できないんなら僕に回してよ! 暗号作るの楽しいよ! ひとの頭をとことん悩ませろってとこでしょ? 腕が、いや、頭脳が鳴るなぁ。
ははは……フラックスさんの意地が悪い一面を見てしまった。
「ええっと……ヘマータサマとウェルティには、隠し場所選びに回ってもらったほうがよさそうね」
呆れ笑いしたあたしの脳裏に次に浮かんだのは、頭を抱えるラジアル君となごやかなご両親だった。
──これ、そのまんま『二階の廊下の玄関ホールから五番目の置き物の下』じゃダメなのかよ!?
──これ! またお行儀の悪い言い方を。
──他に誰も聞いてないんだからいーじゃん。
──やれやれ。かわいそうだからといって、甘やかしすぎたようだな。
──……オレ、別にかわいそうじゃねーもん。
──だったらきちんとした言葉遣いをしなさい。陛下に、自慢の弟だと思ってもらえるようにね。
──他人がいるときだけちゃんとすればいーだろ?
──やれやれ。それはそうと、ラジアル、そのまま書いたのではおもしろくないよ。暗号を自分たちで解いてそこへ到達することにおもしろさがあるんだ。舞花の世界では、遊びが発達しているようだね。イベントプランナーか……。舞花のいた世界には、実に興味深い職業がある。
そう、実はあたし、イベントプランナーなの。勤めていたのは小さなイベント企画会社。でも依頼はひっきりなしで、スタッフ全員大忙し。あたしという人手がいなくなって、みんながオーバーワークになってそうで申し訳ない。
でまあ、あたしが関わってるイベントの特性上、大人数で遊べるゲームの知識はけっこう蓄えてるのよね。そこで今回やろうと思うのは、宝探しゲームをアレンジしたもの。暗号とクイズを解きながら上の階を目指す。商品? は陛下との接見。一位から順に接見の機会を得られ、上位であるほど時間が長く持てる。
友好国の王子王女たちだけでなく、ディオファーン貴族たちも招待されている。よほどのことがない限り国王陛下からの招待を断ることはないだろうから、多分全員参加するんじゃないかな。まあ、当日になればわかることだからそれは置いておいて。
あとでラジアル君とご両親のところへ行って、暗号の出来具合を確認してこよう。フラックスさんのも確認しないと。あんまり難しくてもよくない。暗号解読は主な目的じゃないから。
隠し場所の相談を終えると、フォージはふわりとこの場から消える。
さて、と。そろそろクイズの様子を見に行ってこようかな。
あたしは階段を上がって最上階まで行く。
寝室じゃないほうの扉を叩けば、中から「どうぞ」と声が返ってきた。
「陛下―? 進み具合はどう?」
「まあまあ進んだと思うが、そろそろ手が痛くなってきた」
大きな机で書き物をしていた陛下は、ペンを置いて手を振ってほぐす。
あたしは机に近付きながら、呆れ混じりに笑った。
「一人でやるって言って聞かないから。モリブデンサマに応援頼もうか?」
「いや。これは余が一人でやることに、意味があると思うのだ」
「でも大変じゃない? 書くのもだけど、クイズを考えるのも」
あたしが机の隣に立つと、陛下は手を止めてあたしを見上げる。
「大丈夫だ。すべての問いと答えはここにある」
そう言って、人差し指を頭に当てた。
「何でも舞花様のお国で行われている遊びだとか」
「親交を深める場で遊びなんて不謹慎に思いますけど、代わり映えしない毎日に飽きてきたところですもの。ちょっとした気晴らしになりそうですわ」
「そうですわね」
王女方が通り過ぎるのを、隅に寄って待っていたあたしは、頭を下げたままほくそ笑んだ。
今はそういう位置付けでいいよ。参加さえしてもらえれば、あっと驚かせてあげるから。──って、そう上手くいくかわからないけど。
「近日開催とのことですけど、具体的にはいつなのかしら?」
「急いで衣装をあつらえなくては」
「そうですわね」
王女たちがすっかり通り過ぎてから、あたしは周囲を見回しながら先を急ぐ。あ、あの辺り隠し場所にちょうどいいかも。立ち止まってお城の見取り図をチェック。携帯用の羽ペンを取り出して地図に印をつける。あとでフォージと来て、具体的な隠し場所決めるんだ。
また歩き出して階段ホールのところまで来ると、ちょうどテルミットさんがいた。
「あ、舞花様。各階階段ホールのハイテーブル設置はもう終わりますわ。当日みなさまにお出しする特別な軽食も、調理場に頼んでおきました」
「ありがとうございます! あとは休憩所の準備と飾り付けですね」
「飾り付けに必要なものと、あと特別な軽食に使う食材をそろえるのが大変ですが、陛下のご指示で大勢の応援が集まりましたので、明日までには何とかできますわ」
「じゃあ、他の準備を大急ぎですませなくちゃいけないですね。せっかく集めた食材がダメになっちゃったらもったいないですし」
そんな話をしているところにふわりと風が起こって、空から舞い降りるようにフォージが姿を現した。瞬間移動だね。誰に教えられたわけでもないだろうに、フォージの瞬間移動はとても優雅。名家のお嬢様だなぁとつくづく思う。対して、陛下の瞬間移動は荒々しい。嵐のように吹き荒れて、紙は舞い軽い置物は倒れる。悋気を起こすことしばしばだけど、たいていはおおらかな陛下。そんな陛下に荒々しい瞬間移動は意外なようでいて、でも陛下にそういう面もあることを、多分あたしだけが知ってる。──って、何を思い出してんのよ、あたし!
フォージが不思議そうにあたしの顔を見上げてくる。約束した通り、ひとの心読まないんだよね。気になっても好奇心を抑えてくれる。約束を守ってくれるからには、あたしも隠し事をしないようにしたい。なかなか難しいけどね。特に今回みたいな考え事は。うーん、どう答えようかな。
「フォージの瞬間移動のこと考えてたの。陛下と違って優雅だなって思って」
フォージは恐縮したみたいにうつむく。陛下と比べたからかな。それでも嬉しそうにはにかんでいる様子からして疑問は解消したみたい。よかった。
フォージははっとして照れから覚めると、たどたどしくあたしに言った。
「次をお願いって、フラックスさんが……」
「え? もう? 早い!」
フラックスさんって頭の回転早いのよね、意外と(←失礼)。 だって、普段バカやってるところをよく見てるから、頭いいって感じなくて。いや、以前完全にダマされたことあるけどね。あれは見事にやられたわ。
それはともかくとして。
「じゃあ隠し場所決めないとね」
フォージと、さっき地図に印をつけた場所に行く。瞬間移動を何度もするのは疲れるでしょうということで、徒歩で。
「他の人たちはどうしてる?」
フォージはちょっと考え込む。そのすぐあと、あたしの頭の中に、ウェルティが怒ってる姿が浮かんだ。
──暗号にしろって言われても、どうすればいいのよ!?
──ウェルティ、静かに考えなさい。
──ヘマータ様、もうそんなに終わったんですか!? すごいです!
──だから静かにしなさい。うるさいのは一人で十分です。
──え? できないんなら僕に回してよ! 暗号作るの楽しいよ! ひとの頭をとことん悩ませろってとこでしょ? 腕が、いや、頭脳が鳴るなぁ。
ははは……フラックスさんの意地が悪い一面を見てしまった。
「ええっと……ヘマータサマとウェルティには、隠し場所選びに回ってもらったほうがよさそうね」
呆れ笑いしたあたしの脳裏に次に浮かんだのは、頭を抱えるラジアル君となごやかなご両親だった。
──これ、そのまんま『二階の廊下の玄関ホールから五番目の置き物の下』じゃダメなのかよ!?
──これ! またお行儀の悪い言い方を。
──他に誰も聞いてないんだからいーじゃん。
──やれやれ。かわいそうだからといって、甘やかしすぎたようだな。
──……オレ、別にかわいそうじゃねーもん。
──だったらきちんとした言葉遣いをしなさい。陛下に、自慢の弟だと思ってもらえるようにね。
──他人がいるときだけちゃんとすればいーだろ?
──やれやれ。それはそうと、ラジアル、そのまま書いたのではおもしろくないよ。暗号を自分たちで解いてそこへ到達することにおもしろさがあるんだ。舞花の世界では、遊びが発達しているようだね。イベントプランナーか……。舞花のいた世界には、実に興味深い職業がある。
そう、実はあたし、イベントプランナーなの。勤めていたのは小さなイベント企画会社。でも依頼はひっきりなしで、スタッフ全員大忙し。あたしという人手がいなくなって、みんながオーバーワークになってそうで申し訳ない。
でまあ、あたしが関わってるイベントの特性上、大人数で遊べるゲームの知識はけっこう蓄えてるのよね。そこで今回やろうと思うのは、宝探しゲームをアレンジしたもの。暗号とクイズを解きながら上の階を目指す。商品? は陛下との接見。一位から順に接見の機会を得られ、上位であるほど時間が長く持てる。
友好国の王子王女たちだけでなく、ディオファーン貴族たちも招待されている。よほどのことがない限り国王陛下からの招待を断ることはないだろうから、多分全員参加するんじゃないかな。まあ、当日になればわかることだからそれは置いておいて。
あとでラジアル君とご両親のところへ行って、暗号の出来具合を確認してこよう。フラックスさんのも確認しないと。あんまり難しくてもよくない。暗号解読は主な目的じゃないから。
隠し場所の相談を終えると、フォージはふわりとこの場から消える。
さて、と。そろそろクイズの様子を見に行ってこようかな。
あたしは階段を上がって最上階まで行く。
寝室じゃないほうの扉を叩けば、中から「どうぞ」と声が返ってきた。
「陛下―? 進み具合はどう?」
「まあまあ進んだと思うが、そろそろ手が痛くなってきた」
大きな机で書き物をしていた陛下は、ペンを置いて手を振ってほぐす。
あたしは机に近付きながら、呆れ混じりに笑った。
「一人でやるって言って聞かないから。モリブデンサマに応援頼もうか?」
「いや。これは余が一人でやることに、意味があると思うのだ」
「でも大変じゃない? 書くのもだけど、クイズを考えるのも」
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