国王陛下の大迷惑な求婚

市尾彩佳

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第四章 全部まとめて解決します!

33、ゲーム開始 ~国王問題~

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「まず、三人集まってチームを作ってください。チームができたら大広間の出入り口わきにある第一ポイントへ行ってください。そこで箱の中から1チーム一つのボールを引いてください。ボールに書かれている番号によって、そのチームへの出題が決まります。第一ポイントで暗号が書かれた紙を受け取り、暗号の示す場所からクイズの書かれた紙を手に入れ、次のポイントにいる係にクイズの答えを言ってください。正解すれば、次のクイズのありかを示す暗号をお渡しします。暗号とクイズを交互に解きながら、最上階を目指すことになります。最上階では、ソルバイト陛下が最後のクイズを出します。そのクイズに正解したチームに順位が与えられます。十位以内に入れば、ソルバイト陛下から個別に面談する機会を与えられます。順位が早いほど面談が早く叶い、時間も多く取られますので、みなさん頑張ってゴールを目指してくださいね! それではこれよりゲームをスタートします! 三人チームを作ってポイントに並んでくださいね!」

 開始の合図をしたけれど、なかなか動いてくれない。ほとんどの人が戸惑ってざわざわしてる。
 仕方ない。

「ポイントでは、お並びいただいた順に受け付けいたしまーす! チームを作って第一ポイントに行くのが遅くなるほど、ポイントで待たされることになりますよー あと、ポイントにはそれぞれ制限時間がありまーす。その時間を過ぎたら失格ですからねー」

 これを聞いて、半分くらいの人たちが本腰入れてチームメンバーを探し始める。よかった。これ言っても動いてもらえなかったらどうしようかと思ってたよ。まだ会話に花を咲かせてのんびり構えている人たちがいるけど、大広間から人が少なくなればそのうち焦ってくれるでしょ。

 第一ポイントに急ぐ三人チームを何組か見てほっとしてから、あたしは大広間全体に目を配る。困っている人がいたら手助けをするためでもあるけど、トラブル監視が一番の目的だ。周知の事実とはいえ、王族三人の存在が突然公にされたんだもん。最初の騒ぎは収められたけど、また騒がしくなってもおかしくない。

 現に、ディオファーンの女性貴族の一部は、陛下のお父上のあとから姿を現したお母上を囲んでいる。友好国の王子王女たちをもてなすためのイベントそっちのけで。今からお母上とよしみを結んでおいて、何かに利用しようというんだろうか。やれやれ。
 しかし、さすがは元王太子妃殿下。お母上は気品ある微笑みを浮かべて彼女たちをあしらい、話題を上手にイベントへと持っていってくれる。ありがたいことです。

 後の二人はどうしてるかなとまた大広間を見回すと、少し離れたところに人だかりを見つけた。嫌な予感がして近付くと、予感的中! な話が聞こえてくる。

「生きておられて、これほど嬉しいことはありません。我々はあなた様の味方です。お助けいたしますから、どうぞ王位を手に」

 あの人たちは~! 友好国をそっちのけにして、国の恥をさらすんじゃないって釘刺したのに、全然理解してない。もっとはっきり言ってやらないと!
 意気込んで近付いていったけど、あたしの出る幕はなかった。
 お父上の穏やかな声が聞こえてくる。

「私は国王の器ではないよ。だから私を飛ばして息子に王位をという意見が出たのだから」

「そんなことはございません!」

「いや。実のところ、私は王位に興味がないのだ。特に、我が息子が立派に国を治めている今となっては」

「しかし……」

「統治に対する熱意がないだけでなく、私は長年閉ざされた場所にいたせいで世間の出来事に疎くなっている。そのような者に国を正しく導けると思うか? 不足だらけで、みなに肩代わりしてもらわなければならないことが多々出てくることだろう」

「かまいません。私たちはそのためにいるのですから」

 答える男性貴族の微笑みに、それこそ願ったりという思いが見え隠れする。けど、お父上はその貴族の思い通りにはならなかった。

「つまり、そなたたちはソルバイト陛下の統治に何らかの不満があるということか?」

 お父上を囲んでいた数人の貴族はうろたえた。

「い、いえ。そういうわけでは…」

「では、満足しているということで相違ないな」

「は、はい…」

 お父上の顔に心底ほっとしたといわんばかりの笑みが広がる。

「ならよかった。死んだと偽ってそなたたちの前から消えた甲斐があったというものだ。──陛下におかれては、私が死んだのはご自分のせいだと思いつらい思いをなさったとのこと。国のためであったと思い些少なりとも心なぐさめられればよろしいのだが」

 お父上の心痛めたような様子に、周りの男性貴族たちは黙り込む。
 お父上、話運び上手い! お父上を利用しようとした貴族たちは、もはや一言もないみたい。

 ほっとしたあたしは、そうっとその場を離れ、もうひとつの人だかりに向かった。こちらはラジアル君を中心にした男性貴族が、みんな膝をついている。立ったままじゃラジアル君を見下ろすことになっちゃうもんね。
 近付いていく間に、ラジアル君の大きな声が聞こえてくる。

「僕の一存では決められないので、返事は後日改めてさせていただきたいのです」

「おかわいそうに! 外に出られたのに、なお行動を制限されてらっしゃるのですか」

「殿下はもっと自由におなりあそばすべきです。生まれてから今まで軟禁生活を強いられてきたのですから」

「おかしなことを言われる。僕は以前も今も自由です」

 よしよし。公の場だということを意識して、ちゃんとした言葉遣いしてる。他にも、あたしが口を酸っぱくして教えたことをしっかり守ってるようだ。それでも食い下がられてるようだから、援護射撃に入ろうかな。
 あたしはラジアル君の横にしゃがんで視線を下げた。

「ラジアル殿下、ご歓談中失礼いたします」

「ああ、舞花様。ちょうどよいところに来てくださいました」

 いつもはもっとくだけた言葉を掛け合うから、こうしてかしこまった口調で話すのはこそばゆい。しかしそれを我慢して話を聞く。

「何かお困りのことでもございましたか?」

「こちらにおられる方々が、理解してくださらないんです。僕はかわいそうではなければ、不自由でもないということを」

 さっきの一件で、侍女服を着ていてもあたしが舞花だとすっかり知れ渡ったので、膝をついている貴族のみなさんは押し黙る。王子様と国王陛下の婚約者の会話を邪魔してはいけないと思っているんだろうか。あたしはそんな大層な者じゃないけど、今はありがたく先に話をさせてもらう。

「価値観は人それぞれですから、殿下の境遇を不憫に思う方もおられるのでしょう。そういうときは、理解していただけるまでお話しなさってくださいませ。適当に話を切り上げてはいけません。人間は自身に都合がよいように話を作り替えることがままあります。好き勝手に話を作り替えられる隙を他人に与えてしまっては、のちのち大問題を引き起こすことになりかねないからです」

「はい。舞花様から事前にそう教わっていましたから、曲解されないような話し方を心がけています」

「わたくしのアドバイスを聞き入れてくださって光栄です。では、こちらにいらっしゃる方々に理解していただけるよう、殿下のお気持ちをお話ししましょう。──殿下は以前、わたくしに打ち明けてくださいましたね。もう一度お聞かせいただけますでしょうか? 殿下がしたいと思っていることを」

 ラジアル君は誇らしげに胸を張って言った。

「僕は、国王陛下である兄上の役に立ちたい。僕が両親に愛されながら幸せに暮らしている間、兄上は一人きりで国を守ってこられた。僕が何の心配もなく安心して暮らしていられたのは、兄上のおかげなんだ。だから、今度は僕が兄上をお助けしたい。兄上のご負担を少しでも減らせるように」

 ラジアル君の前で膝をついていた貴族が、ここぞとばかりに口を開いた。

「でしたら、なおのこと我が屋敷にお越しください。どうやったら陛下のご負担を減らせるか、一緒に考えましょう。伊達に歳は取っておりません。蓄えた知識で、必ずや殿下のお役に立ってみせます」

 おっしゃってることがご立派。疑ってかかるのは失礼に思えてしまう。けど、ありがたいことに斜め後ろで膝をついている若い貴族がボロを出してくれた。

「殿下。陛下をお助けしたいのでしたら、いっそのこと代わって差し上げたらいかがでしょう? 殿下が国王になられるのでしたら、我が父と私が補佐いたします」

「ばっばかもん! 何を言っておる! ソルバイト陛下に反逆する意があると思われたらどうする!?」

 若い貴族ははっとして口をつぐむ。でももう遅い。父親のほうのうろたえぶりから察するに、若い貴族が言ったことが二人のもくろんでることなんだろう。
 あたしはそれに気付かなかったふりをして話を続けようとしたけれど、その前に割って入ってくる声があった。

「ラジアルにその気があれば、余は喜んで王位を譲るが? そうしたら、余が全力で支えよう」

「へ、陛下……!」

 ラジアル君にひざまずいていた貴族たちは、陛下の登場に驚いてさらに頭を低くする。反対に、ラジアル君は首を伸ばすようにして陛下に話しかけた。

「とんでもない! 国王なんて面倒なことやりたくな──あわわ! ぼ、僕に国王なんてとうてい務まりません。やはり兄上が国王陛下で、僕は臣下の一人となってお仕えするのが一番です」

 ラジアル君、わざと本音をもらしたのかな? まあいいや。ともかく、目一杯けん制させてもらおう。

「ラジアル殿下。わたくしが殿下にアドバイスしたことをおっしゃっていただけますか?」

「ああ。──まず、不用意に他人についていかないこと。常に二人以上の従者と行動を共にし、決して一人にならないこと。それから、一人で決断しないこと。どんなに良いと思う提案でも、必ず陛下かモリブデンか舞花に相談すること」

 あたしに相談しろだなんて言った覚えないんだけどな。何しろ部外者だし──と、心の中でツッコミを入れてる最中にも、ラジアル君は指折り数えつつ話し続ける。

「相手が決断を急かしてくるときは特に要注意。判断を狂わす際の常套手段につき、絶対に断ること。──陛下のお役に立ちたいのなら、以上のことを当面の間厳守すること」

「はい、よくできました」

 ほめてあげると、ラジアル君はむくれる。

「僕はそんなふうに言われなきゃならないほどの子供ではないんですが」

「わたくしから見れば、殿下はまだまだ可愛いお年頃ですよ」

「あんた、ばばあだもんな」

「言ったわね、この雷小僧」

 いつもの軽口を言い合っていると、周りの貴族たちはぎょっとする。こんなお上品でない言葉遣いは聞き慣れないんだろう。あたしとラジアル君は顔を見合わせてこっそり笑う。
 それからラジアル君は、周りにいる貴族たちに、王子様っぽく堂々と告げた。

「舞花様と国王陛下は、僕が望みを叶えるためにご助力くださり、アドバイスをしてくださった。お二人のアドバイスに従っているのは、僕の自由意志だ」

 これにて、ラジアル君の身辺も決着がついた。
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