パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

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序章(プロローグ)

第11話 二日目の異世界

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とりあえず、雨風を凌げる寝床が必要だ。ならば、次に試すのは土属性の魔法だろう。

「……土球?」

火球・水球があったのだから、土属性なら土球かなと思ってやってみたら、できてしまった。できてしまったのだが……

できたのはただの土の団子である。それを打ち出したところ、結構な威力ではあったのだが。

土の団子は魔力を込めるほど堅くなるようだ。ごく小さく作って大量に魔力を注いでから飛ばしてみたら、弾丸のように目標を破壊した。(所謂石弾ストーンバレットである。)逆に、ふんわり微かに魔力を込めてみたら、スッカスカの粉を丸めたような土球になった。もちろん破壊力はほとんどない。目眩ましの煙幕には使えるかも?

「そう言えば、風球はないのかにゃ?」

試してみたらこれもできた。ただ、今までで一番威力が弱い。それはそうだ、空気が圧縮された球なのだから。

「まぁ、見えないから、相手を押したり驚かしたりするには使えるかな?」

空気の球も、色々使い方のアイデアがないわけではないが、それよりも今は必要なのは土属性の魔法である。

まずは、地面に手をつき、土で壁を作ってみる。

―――できた。

土が盛り上がって壁状になった。これは、いままでより少し多めに魔力を消費するようであった。

試しに何もないところから土壁を作り出してみる。これも成功したが、かなり大量の魔力を消費するようだ。既にある地面から土の素材を借りてくるほうが消費魔力は少なくて済むようである。

何度か試して、壁を作ったり戻したりを繰り返す。魔力が減ってきたらラキシスの実を食べれば良いので気にしない。

土を操作する魔法は、手で触れなくとも足が地に着いていればできる事が分かった。

それを壊して、今度は壁ではなく半球ドーム状に盛り上げてみる。

―――できた。

多めに魔力を注ぎ、大きめの小山を作り出し、内部だけくり抜くように戻してやると、土のドームが完成した。

「ちょっと強度が弱いかな?」

俺はドームに手で触れ次なる魔法を発動する。

【強化】

すると、どんどんドームが固くなっていく手応えがある。

魔力は込めただけ、際限なく吸収されていく。どうやら込めるほど強度を増す事ができるようだ。

ドームは叩いても蹴ってもビクともしない、まるで鋼鉄のようになってしまっていた。

残りの魔力は2500程度になっていた。

「やりすぎたかな? まぁ、寝床にするにはちょうどいいか」

ドームは雪国のカマクラのように、入口部分がぽっかり開いた状態である。

いくらドームが強固でも、入口が開きっぱなしでは落ち着かないので、土魔法でドアを作った。土壁を作り地面から切り離して強化、板状にする。

土魔法は便利であった。形状もイメージ通りに自由に作れるし、強化してしまえば鉄のように堅くなる。蝶番などのパーツも試行錯誤しながら作り、ドアが無事完成した。内側には閂を取り付けたので、入って閉じてしまえば外からは入れないだろう。

扉を締めると室内は当然真っ暗になってしまうので、光魔法で光球を作り出し、ドームの天井付近に浮かべた。

酸欠が心配になったので、通気孔を何箇所か開けた。異世界であっても呼吸いきができなければまずいだろう。

それから、床を強化していなかったので、土魔法で床板を作り、さらに【強化】する。(モグラのように、地面の中を掘ってくる生き物もいるかも知れないからな。)

それから、ベッドを土魔法で作る。残念ながら毛布などはないので、堅いだけのベッドであるが。

ただ、身体が猫だからか、布団などなくても丸くなって眠る分にはそれほど不快でもなかった。

まだこの世界に来て半日程度しか経っていないが……

俺はとりあえず寝る事にした。

思えば、日本で働いていた頃は、早朝出社し深夜まで残業、そして休日も出勤で、休みは半年に一度くらいしかとれなかったため、ずっと寝不足だった。

仕事を辞め、ゆっくり好きなだけ眠ることが夢の一つであったのだ。

もう、毎日追われるような気持ちであくせく働き続ける生活はしたくない。

今日は魔法の確認もしたし、寝床も作った。もう十分だろう。続きはまた明日という事にして俺は眠る事にしたのであった。

まだ周辺の状況もよく分かっていないが、これだけ強度のあるドームなら襲われる事もないだろう。続きはまた翌朝から……ZZZZZ……



  +  +  +  +



■転生二日目

悪夢にうなされ、目を覚ましてしまった。

ちなみに、納期に追われ必死でパソコンを操作しているという夢であった。しかも、パワハラ上司が仕事を妨害するかのように、どうでもいいような雑用を押し付けてきて、断ろうとすると恫喝してくるのだ。

「異世界に来てまで夢に出てくるとはな…」

しかし、それも仕方がないとも言える。この世界に来てまだ一日、俺は昨日まで日本に居たのだ。カイトの記憶は日本の生活で埋まっており、この世界での情景は夢に見るほどにはまだ印象に残ってはいないのだから。

起きたはよいが真っ暗で、瞼を開けても閉じても違いがない。土のドームに窓はつけなかったから真っ暗なのだ。

魔法を使って光の球を天井に浮かべる。

一体どれくらい寝ていたのだろう? 

部屋の中は見えるようになったが、外の明るさは分からない。

夜が明けているかもしれないとドアを空けてみたが……

ドアの外もまだ闇夜であった。

時計などないので時間が分からないが…

「……うにゃ?」

前世? の記憶とごっちゃになっているが、この世界に来てから、どこかで時計を見た気がした…。夢の中かもしれないが…

……そうだ、ステータスボードだ!

ステータスを開いて見てみたところ、なんと、日付と時刻が枠の端に表示されていた!

これは便利である。

ただし、日付はこの世界に来たばかりのカイトには意味がないものであったが。

「アルカ歴645年7月45日って一体いつにゃ???」

時刻はデジタル表示で、2:00と表示されていた。なるほど夜中の二時ならばまだ暗いのも当然だ。

朝までもう一寝入りしようかと思ったが…

…まったく眠くない。かなり早く寝たからというのもあるだろうが…

「もしかして、猫だから夜行性にゃのか!?」

試しに外に出てみた。

満点の星空はとても美しかった。

小さな月が空にふたつあって、異世界なのだと実感する。

空気がきれいで、月がふたつもあって明るいという事もあるが、それにしても昼間のようによく見えるのは、夜行性の猫の目だからかも知れない。


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