鈴音さんのおと

追憶劇場

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鈴音さんの音

鈴音さんの音 1 小学生コウ君の記憶

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学校がいつもより早く終わったから、友達と近くの公園で遊ぶことにした。
ランドセルを玄関に置き、当時大人気だったおもちゃを持って、公園に走った。
途中で
カシャッ    カシャッ
という音が聞こえたが、友達より先に公園に着きたいコウは音がした方には興味を示さず、公園に向かった。
公園に着くと、どうやら一番乗りらしい。
出所不明の優越感に浸りながら友達を待つ。
だが、コウの目が友達の姿を見つける前に、また
カシャッ    カシャッ
耳がその音を捉えていた。
一軒家が多い街の一角で、その音は不自然なほど響いていた。
思わず音のした方を向くと、そこにお姉さんが居た。
裾が擦りきれた服を着て、ボサボサな髪を腰近くに垂らし、おぼつかない足取りで歩いていた。
手足は痩せこけていて、傷や汚れまみれだった。
そこでようやくコウは先ほどの音がこの女性から出されていたものだとわかった。
女性が一歩足を地面につける度に
カシャッ   カシャン
と、裸足なのにも関わらず高い金属音がするのだ。
鈴を地面に落としたような音だった。
ただ、そんな異様さに対する不信感よりも好奇心、または正義感が強まったのか、コウはその女性に向かって歩き出した。
コウが近づいてきたことに気付いた女性は、驚いたようにビクッとコウに顔を向けた。
髪が揺れて、しゃらしゃらと錆びた鈴のような音がした。
「これ、どうぞ」
コウは母からおやつにと貰っていた大きいパンを渡した。
女性は最初こそ戸惑っていたが、コウが自分に危害を加えないとわかったのか、恐る恐る手を伸ばし、ぎこちない動作で受け取り、ゆっくりと口に運び、一口食べた。
女性は目を見開いてまじまじとパンを見つめ、一口一口を噛み締めるように食べきった。
「おいしかった?」
コウが聞くと、女性はまたビクッと驚いた様子でコウを見た後、おずおずと笑いかけた。
痩せこけていたが美形な顔の真っ白な肌に生々しい切り傷が付いていた。
「…きれい」
何故かその顔がとても美しいものに感じ、思わずコウが呟くと、女性は
リリリリリ…
と鈴虫のような音をだしながらペコリと頭を下げた。
女性が落ち着いてきたのでコウは
「お姉ちゃん、迷子なの?」
とコウが聞くと、少し考え、辺りを見回してから頷いた。
女性が動く度に鈴のような音が鳴った。
ここに来てコウは彼女の名前を聞いていないことに気がついた。
名前を聞いたが女性は困ったような顔でコウの事を見るだけで声をださない 
辺りを見回して、公園に向かうと砂の上に指で文字を書いた。
変な記号のような文字で小学生のコウには大半が読めなかったが、辛うじて名前だけは読めた。
「鈴…音さん?」
鈴音さんは
しゃりん
と頷いた。
心なしかさっきよりもきれいな音だった。
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