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花屋の娘は特待生
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「ちょっとクレア! お店、手伝って!」
母親の声が、クレアを呼ぶ。
クレアは、走らせていた鉛筆を置いて、大きく息を吸う。
「はぁ~~い! 今行くっ」
精一杯の大声で、返事をして、机の上に広げていた参考書とノートに折り目を付けてパタンと閉じた。
クレア・バートン、16歳。
多くの商店が軒を連ねる商店街の一角が、クレアの家だ。
クレアが住む商店街は、王都の中心にある。
大通りに面した奥行きのある家で、表では父と母が花屋を営んでいる。商店街の中でも一等地に位置する立地のおかげか、はたまた仕入れ担当の父のセンスがいいからなのか、王都では一番の花屋として人気だ。
代々受け継がれる家業の功績が認められ、先祖がバートンの姓を国から授かった、とクレアは聞かされている。
顧客には貴族や裕福な商人などもいて、市井の民としてはそれなりに地位を築いている家と言えよう。
バートン家は5人家族だ。
クレアは、中間子で、3つ年上の兄と、5つ離れた弟がいる。
兄は家業を継ぐ予定で、王都にある平民のための学校を卒業した現在は、仕入先でもある大規模農園にて修業中。弟はまだ小さいが、【兄を助ける】が口癖で、店の手伝いを積極的に熟している。ある意味、看板息子だ。
そんな兄弟に囲まれた唯一の娘は、看板娘とは呼ばれない。
花屋の店頭に立つことは稀だからだ。
クレアは、小さなころから所謂頭でっかちな子供だった。知識欲が旺盛で、何でも知りたがる。
平民にしては生活資金に余裕があるバートン家は、子供たちの教育にも熱心で、そんな知りたがりなクレアに本人が望むものは何でも与えた。もちろん、兄と弟にも同様に。
クレアは特に、本を欲しがった。
本はクレアに知らない世界を教えてくれる。読めば読むほど知りたくなり、また新たな本が欲しくなる。そんなクレアの部屋は、まるで図書館のよう。可愛らしい服や、アクセサリーなどは必要最低限なのに、ありとあらゆる本が所狭しと並んでいる。
凡そ、年頃の女子の部屋とは思えない様相を呈している。
クレアは、本に貴賤はない、と思っている。それこそ、友達から薦められた大衆小説も有れば、専門用語満載の学術書まで。どんな本でも、クレアの興味を引けばその一冊は彼女の宝のひとつとなる。
子供の頃からそうして、知識欲を本から満たしてきたクレアは、今年、王立の学園に特待生として通うことになった。
兄の通った市民学校とは別の、国で高位の学び舎である。望めばその上に専門性の高い大学への道も続く。主に、貴族の子女が通うため、平民たちには狭き門となっているのが現状で、実家の資金に余裕がある者と、成績が優秀と認められた特待生だけが受け入れられる。
クレアは、特待生として学園に入学した。
特待生は、平民だけの特権で、貴族には適用されない。特待生になる利点は、授業料が免除されることだ。しかしそれには条件があり、学期末に行われる試験で必ず上位に入らなければならない。
だから、クレアは入学できたからといって、気は抜けないのだ。基本、貴族の教育を目的とした学園の学費は平民には手の届かない金額であり、例え余裕のあるバートン家とは言えども、かなりの出費であることは間違いないから。
出来る限り家族には迷惑はかけたくない。特待生であり続けることはクレアにとっては至上命題なのだ。
そういう理由から、クレアは家でも勉学に励んでいる。
だからと言って、家の手伝いをしないわけではない。
家族の配慮もあって多くはないが、呼ばれれば、ちゃんと店頭にも立つ。特に花束などの装飾系の注文時にはクレアが呼ばれることが多く、彼女指名でのアレンジを頼まれることもあったりして、ちゃんと家業の一端も担っている。
今は学業を優先してくれる両親だが、クレアに家族の一員としての立ち位置も忘れないよう、時折店に呼び仕事を与えてくれるのだ。
「クレア、悪いんだけど、花束の注文よ。お客様のお話を聞いてね」
表へ出たクレアに、忙しなく立ち回る母から声が掛けられる。
差し出された母の手は、日々冷たい水に晒され、赤く手荒れしている。でもそれは、母にとっては誇りで、クレアも恥だと思ったことなど一度もない。
働き者の美しい手である。
そんな母の手から、白紙の注文書を受け取り、クレアは店の受付に立って、にこりと笑った。
「花束のご注文、こちらで承りますね。
どのお花を使うか、ご希望などありますでしょうか」
母親の声が、クレアを呼ぶ。
クレアは、走らせていた鉛筆を置いて、大きく息を吸う。
「はぁ~~い! 今行くっ」
精一杯の大声で、返事をして、机の上に広げていた参考書とノートに折り目を付けてパタンと閉じた。
クレア・バートン、16歳。
多くの商店が軒を連ねる商店街の一角が、クレアの家だ。
クレアが住む商店街は、王都の中心にある。
大通りに面した奥行きのある家で、表では父と母が花屋を営んでいる。商店街の中でも一等地に位置する立地のおかげか、はたまた仕入れ担当の父のセンスがいいからなのか、王都では一番の花屋として人気だ。
代々受け継がれる家業の功績が認められ、先祖がバートンの姓を国から授かった、とクレアは聞かされている。
顧客には貴族や裕福な商人などもいて、市井の民としてはそれなりに地位を築いている家と言えよう。
バートン家は5人家族だ。
クレアは、中間子で、3つ年上の兄と、5つ離れた弟がいる。
兄は家業を継ぐ予定で、王都にある平民のための学校を卒業した現在は、仕入先でもある大規模農園にて修業中。弟はまだ小さいが、【兄を助ける】が口癖で、店の手伝いを積極的に熟している。ある意味、看板息子だ。
そんな兄弟に囲まれた唯一の娘は、看板娘とは呼ばれない。
花屋の店頭に立つことは稀だからだ。
クレアは、小さなころから所謂頭でっかちな子供だった。知識欲が旺盛で、何でも知りたがる。
平民にしては生活資金に余裕があるバートン家は、子供たちの教育にも熱心で、そんな知りたがりなクレアに本人が望むものは何でも与えた。もちろん、兄と弟にも同様に。
クレアは特に、本を欲しがった。
本はクレアに知らない世界を教えてくれる。読めば読むほど知りたくなり、また新たな本が欲しくなる。そんなクレアの部屋は、まるで図書館のよう。可愛らしい服や、アクセサリーなどは必要最低限なのに、ありとあらゆる本が所狭しと並んでいる。
凡そ、年頃の女子の部屋とは思えない様相を呈している。
クレアは、本に貴賤はない、と思っている。それこそ、友達から薦められた大衆小説も有れば、専門用語満載の学術書まで。どんな本でも、クレアの興味を引けばその一冊は彼女の宝のひとつとなる。
子供の頃からそうして、知識欲を本から満たしてきたクレアは、今年、王立の学園に特待生として通うことになった。
兄の通った市民学校とは別の、国で高位の学び舎である。望めばその上に専門性の高い大学への道も続く。主に、貴族の子女が通うため、平民たちには狭き門となっているのが現状で、実家の資金に余裕がある者と、成績が優秀と認められた特待生だけが受け入れられる。
クレアは、特待生として学園に入学した。
特待生は、平民だけの特権で、貴族には適用されない。特待生になる利点は、授業料が免除されることだ。しかしそれには条件があり、学期末に行われる試験で必ず上位に入らなければならない。
だから、クレアは入学できたからといって、気は抜けないのだ。基本、貴族の教育を目的とした学園の学費は平民には手の届かない金額であり、例え余裕のあるバートン家とは言えども、かなりの出費であることは間違いないから。
出来る限り家族には迷惑はかけたくない。特待生であり続けることはクレアにとっては至上命題なのだ。
そういう理由から、クレアは家でも勉学に励んでいる。
だからと言って、家の手伝いをしないわけではない。
家族の配慮もあって多くはないが、呼ばれれば、ちゃんと店頭にも立つ。特に花束などの装飾系の注文時にはクレアが呼ばれることが多く、彼女指名でのアレンジを頼まれることもあったりして、ちゃんと家業の一端も担っている。
今は学業を優先してくれる両親だが、クレアに家族の一員としての立ち位置も忘れないよう、時折店に呼び仕事を与えてくれるのだ。
「クレア、悪いんだけど、花束の注文よ。お客様のお話を聞いてね」
表へ出たクレアに、忙しなく立ち回る母から声が掛けられる。
差し出された母の手は、日々冷たい水に晒され、赤く手荒れしている。でもそれは、母にとっては誇りで、クレアも恥だと思ったことなど一度もない。
働き者の美しい手である。
そんな母の手から、白紙の注文書を受け取り、クレアは店の受付に立って、にこりと笑った。
「花束のご注文、こちらで承りますね。
どのお花を使うか、ご希望などありますでしょうか」
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