”お飾り王妃”の立て籠もり

KAORU

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 意を決して、封を切る。

 中には数枚の紙。
 綴られた文字は、アンジェリカの手による丁寧な物だった。

 クラウスは机の上に、ギルバートにも見えるよう、紙を並べて置いた。

「個人的な内容だが、本当にいいのか?」

 ギルバートは紙面に目を向ける前に、クラウスにそう尋ねた。
 クラウスは小さく頷いて、机に視線を落とした。

 そこには、乱れのない字でこう書かれていた。

『クラウス、貴方に相談もなく王妃宮を閉鎖する決断に至ったこと、先ずはお詫びいたします。本当にごめんなさい。
 
 今回の事は、少し前から考えていたことなのです。
 事の発端は……』

 そんな出だしから始まるアンジェリカの手紙の主旨は、凡そこんな内容だった。

 王宮内に実しやかに囁かれるあの噂。
 その原点は、にある。
 噂は噂。そういたけれど、そうはいっていられないところまで来てしまった。
 対処しなかった私も悪いが、すでに私でどうにか出来る範疇を越えたと思われる。

 だから。
 がその真実を明らかにするまで、王妃宮の扉は開かない。

 
「やはりだったか」

 ギルバートのため息交じりの一言が、クラウスを責めているようにも聞こえ、クラウスは目を伏せた。

「だが、アンジェにはちゃんと否定をしたんだぞ。アンジェも分かっていると言っていたのに」

「アンジェリカ……、いや、妃陛下は、そういうことを言いたいのではないんだ」

 ギルバートが、わざわざ敬称に切り替えたことに、クラウスは目を瞠る。

「クラウスは、夫クラウスとしてではなく、陛下としてやらねばならないことがあるんだろう」

「どうしてそう思う?」

「手紙の内容だ。クラウス宛の手紙に、『原点は陛下にある』と書かれているのは、どうしてだ?
 宛名は『クラウス』と書いてあるし、 真実を明らかにするのはクラウス名指しで書かれている」

「手紙の、『原点は陛下』は、私の事だと思うか」

「まあ、問題の噂の中心人物は、クラウスであることは否定できない。
 アンジェリカの言う『陛下』とは、王としてのクラウスの事だと捉えるのが真っ当だろう」

「あの噂はアンジェを傷つけたのだろうな。私が不甲斐ない所為だ。アンジェの要求は尤もだ」

「……出来ることはしているつもりだ。それはアンジェリカにも伝わっていると思っていたが。
 だからこそ、俺にはこれはアンジェリカからの挑戦状に見える」

 ギルバートが腕を組んで椅子に深く座った。

 今回の王妃宮の閉鎖には、理由がある。
 その理由には、今王宮内を席巻している噂が大きく関わっている。
 それは、誰の目から見ても明らかで、勿論クラウスもギルバートにも痛いほどわかっている。

 しかし、クラウスは思う。
 妻であるアンジェリカには、『噂については気にしないように』と言い続けてきた。
 子供の頃から育ててきた信頼は、そう簡単に揺らがないと信じてきたのだ。

「……アンジェリカの手紙には、返事を書かねばならないな」

 そうクラウスが呟いたその時。

 扉の外から、声がした。

「陛下、閣下。お茶をお入れしましょうか?」

 
 
 

 
 
 
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