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21 対面
しおりを挟む若い使用人の男の後をついて向かった先は、来賓が食事を取る部屋から少し離れた場所に位置する客室だった。
エーデルフィア帝国を象徴する深い碧色に塗られた壁が四方を取り囲む中に、ゆったりとしたソファと机が置かれている。床にはオリヴィアが一生働いても手に入れられないような繊細な模様の入ったラグマットが敷かれていた。
「………皇太后、連れて参りました」
「ありがとう。下がって良いわ」
オリヴィアは黙って顔を上げる。
そこで、ソファに座るネロと目が合った。
淡いブルーの瞳が驚いたように見開かれる。
ネロの隣には彼にもたれかかって目を閉じる女の姿があり、美しく流れる金髪と高貴な佇まいから、オリヴィアはその人がソフィア王女であると気付いた。
机を挟んで並んでいたもう一つのソファに腰掛けていた女がゆっくりと立ち上がってこちらを振り返る。深い森のようなグリーンのドレスが彼女の動きに合わせて翻った。
「貴女が?」
皇太后が何を言いたいのか分かる。
オリヴィアは静かに頷いて頭を下げた。
「名前を名乗りなさい。自分のしたことが如何に問題か理解しているの?」
「オリヴィア・バレットと申します。この度は私の不手際で王女殿下のお皿に……」
「先ずは謝罪でしょう……!!ソフィア王女はアレルギー体質でいらっしゃるの!こんなことが許されるわけがないわ、断じて許されない……!!」
「………申し訳ありませんでした」
オリヴィアはその場に両膝を突き、跪いた。
どれだけ時間が経ったのか分からないけれど、もしやこのまま明日の朝まで頭を上げることはないのだろうか、とぼんやり考えていると小さく咳き込む声がした。
「あの……もう大丈夫です」
恐る恐る顔を上げるとこちらを見るアメジストの瞳が目に入る。アデーレ王国の王女がオリヴィアを見ていた。
「誰しも過ちを起こすことはあります。ショックで少し気分が悪くなりましたが、皇帝陛下が付き添ってくださったお陰でだいぶ回復しました」
「王女殿下………」
「ネロ、ソフィア王女を部屋の外にお連れしなさい。この料理人の処遇は私が決めます」
王女の慈悲をありがたく思うオリヴィアを睨み付けて、皇太后はネロに指示を飛ばす。
先代皇帝が亡くなってから体調が優れないとは聞いていたけれど、皇太后ルイーダ・マッキンリーがここまでの恐ろしさだとは思っていなかった。
オリヴィアは頭の中で、いつかのメイドの様子を思い出す。ルイーダが白葡萄ゼリーを食べたがっているから作ってほしいと厨房に飛び込んできた彼女は、酷く疲れ果てたように見えた。
「皇太后……お言葉ですが、彼女のことは僕に任せていただけないでしょうか?」
「なんですって?」
「この料理人はデニスが育てている。今回の失敗は許されることではないので、彼の意見も取り入れながら僕が処罰を考えます」
「まぁ、そう。あまり時間は割かないようにね」
「分かりました。君はもう持ち場へ戻れ」
こちらを見据えてそう言うネロに、小さく頭を下げてオリヴィアはその部屋を後にした。
庇ってくれたのだと分かった。
あのままではオリヴィアはきっとクビを切られて職を失っていた。だからきっと、ネロはああいう風に皇太后の前で意見を呈したのだ。
喜ぶべきことなのに気分は晴れない。
ネロに寄り添う美しいブロンドが頭から離れなくて。
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