【完結】溺愛してくれた王子が記憶喪失になったようです

おのまとぺ

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第二章 シルヴィアの店編

26.リゼッタは決意する

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エレンの去った店内で床を拭いていたら、扉が開いてシルヴィアが帰ってきた。ピンク色の口紅を塗った艶やかな口元からは口笛が漏れていて、かなり上機嫌なようだ。

「おかえりなさい。何か良いことでもありましたか?」
「聞いてくれる?実は引ったくりにあったの」
「え!」

驚いて雑巾を持つ手を止めると、シルヴィアは慌てたように付け足した。

「あ、だけど助けてもらったのよ!」
「…よかった。びっくりしちゃいました」
「ごめんなさいね」
「勇敢な人も居るんですね、すごい」

走って来る泥棒に立ち向かうなど私には出来そうにない。追いかけたところで、おそらく追い付けないし、最悪の場合はボコボコにされてしまいそうだ。

「兵隊さんだったんだけど結構顔が良かったのよ~リゼッタにも見せてあげたかったわ!綺麗な顔なんだけど、男らしい色気もあって……んふふ、」

思い出し笑いなのか頬を緩めるシルヴィアの様子を眺めながら、少し羨ましく思った。そんな風に恋や愛に真っ直ぐ走ることが出来る素直さが私もほしい。

臆病な私はまだ、エレンに誘われた週末のデートに少し怯えていた。承諾してしまったけれど、行ったところでどうなるのか。痛い目を見ないためにも暫く恋はしない方が良いのではないか。そんなネガティヴな考えが、泡のように湧き上がっては消えて行く。


「シルヴィアさん…ちょっとお話聞いてもらえますか?」
「ん?いいわよ、何でも言ってちょうだい」
「実は日曜日にエレンさんとデートするんです」
「まぁ!」

シルヴィアは高い声を上げて驚く。

「誘ってくれたことは嬉しいんですが…本音を言うと少しまだ心の整理ができていなくて……」

ノアではない男を見上げながら、隣を歩く。話す内容も訪れる場所も、私の話に対する返答一つを取っても、エレンはノアとは違うはずだ。それは当たり前。だって別の人間なのだから。

「心の整理って何それ?」
「?」
「整理がつかないと新しい恋をしちゃいけないの?」
「……どうなんでしょう」
「そんな事ないに決まってるじゃない!恋なんて突然よ、稲妻なのよ!どこに出会いがあるか分からない」

ビビッと来たら走って追い掛けるの、と言い切ってシルヴィアは冷蔵庫から取り出したビールの缶を開けた。目の前でゴクゴクと数口飲むと、私に向かって新しい缶を差し出す。

「行きなさい。リゼッタ、逃げちゃだめ」
「逃げてなんか、」
「いいえ。貴女はなんだかんだ理由を付けて、結局自分が距離を置いた婚約者との思い出にすがっているように見える」
「………!」
「思い出と共に年を取ることは出来ないのよ」

まったくもって、その通りだった。

私は受け取った冷たい缶に手を添えて、プルタブを引く。口を付けるとよく冷えた液体が喉を潤した。カウンター越しにこちらを見据えるシルヴィアを見つめ返す。

「行ってみます…私、前に進みたいんです」
「うん。良い報告を待っているから」

シルヴィアと静かに乾杯した。
それは私の決意の表明のようなもの。


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