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第四章 獅子の檻編

27.背徳感はデザート

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「アーサー…!」

何度名前を呼んだだろう。

あろうことか、アーサー・フィン・マックールは本当に私をこの地下に閉じ込めて出て行ってしまった。視界は奪われたままで、手の自由も効かない。

何度も抱かれた身体は疲労を訴えているが、こんな汚れたシーツの上で眠るなんて出来ない。物音がするたびに心臓が跳ね上がる。目が見えないことが、こんなに心細いだなんて知らなかった。


「お願い…誰か!!」

壁に反響する自分の声を聞きながら考える。

アーサーは出掛けると行ったけれど本当だろうか?実は自室で私が困っている様子を見て笑っていたりしない?否、その可能性は信じがたい。彼がそこまでの意地悪だとは思えなかった。

そうであれば、呼んだところで人は来ない。

眠るまいと目を開いても、見える景色は変わらず真っ暗だ。必死で睡魔と戦っていたが、もう身体も頭も限界が来ている。手首に巻かれた革ベルトが擦れてヒリヒリした。

もう一度、やり直したい。
何もかも全部、無かったことにして。

私はまたオークション会場でアーサーに拾われて、犬として彼の側に居るのだ。今度はもう間違わず、自分の気持ちも隠さずに、彼に愛されるためだけの最短ルートを進みたい。

嘘は吐かずに純情に。
ハッピーエンドだけを目指して…





◇◇◇



「………ん、」

水の落ちる音で目が覚めた。
どうやら完全に寝落ちしていたらしい。

痛む身体を気に掛けながら、上体を起こす。

耳を澄ましても、もう音は聞こえない。人の気配もしないからアーサーはまだ帰っていないのかもしれない。上階の音を拾おうとしたが、聴覚さえ鈍ったのか何も聞こえなかった。


暗闇の中で手を伸ばすと、四角い箱に指先が当たった。

30cmほどの箱は紙のような材質で出来ていて、上部の蓋は持ち上げると容易に外れた。恐る恐る中に手を入れると、幾つかの小さなボールを連結した紐や、硬いプラスチックで出来た棒状のものが出て来た。


「……これって…」

棒状のものは先端がぷっくりと膨らんでおり、反対側には吸盤のようなシートが付いている。私の人生経験においてその形状が表すものはただ一つ、男性器を模したディルドだ。

恥ずかしくなって手放すと、床の上を転がって膝に当たった。


「アーサー!居るんでしょう?」

呼び掛けても声は返ってこない。
それどころか、服が擦れる音すらしない。

何のつもりでこんな物を置いて行ったのか。もしかして、彼は私が異常に性欲が高いモンスターだと思っているのだろうか。それは大いに勘違いだし、どちらかというと漲る欲を持て余しているのはあっちの方だ。

溜息を吐きながら、取り出した玩具を拾い集めた。
再び箱に仕舞おうとした手をふと止める。


「………本当に居ないの?」

何の音もしない。

「貴方が置いて行ったのよね…!?」

ごくりと生唾を呑む。
少しだけ、興味があっただけ。誰も見ていないのであれば、良いだろうと。アーサーは暫く帰って来ない。別に私が自分の趣味でそういった行動を起こしたわけではなくて、本当にただ少し興味が湧いただけの話。

恐る恐る、自分の身体に先端を近付ける。

壁に持たれて大きく脚を広げた私の姿は、さぞ下品だと思う。大丈夫、アーサーが帰って来たら音で分かる筈だから。彼が檻の前に来るまでに、箱の中に戻せば良い。


「……っあ、すご……」

小さな音を立てて、それは中に入って来た。
何の温度もない無機物だったが、嫌というほど使われたそこは想像以上に敏感に反応する。

視界を奪われていることも、興奮を誘った。

どこかで誰かが見ているかもしれない。
そんなこと有り得ないし、もし仮にそうであれば困るのは自分自身だと頭では理解しているが、何とも言えないスリルに快感を覚える。


「っはぁ、良いの、もっと…もっと、」

掻き回す手が止まらない。
あんなにアーサーに抱かれたのに、私は全く懲りていない。

「アーサー、お願い、深く……っあん」

昔こっそり読んだ大人向けの漫画では、主人公が好きな相手の名前を呼びながら一人で自分を慰めていたけれど、その興奮がようやくわかった気がする。

だって、こんなに気持ち良い。

「……っもう、イっちゃ…アーサー、」

響く水音が大きくなる。
こんな姿、誰にも見せられない。

犬みたいに舌を出して、私は達した。
余韻に腰をヒク付かせながら、もう一回、と抜け落ちたディルドを手に取ると挿入する前にそれは取り上げられた。



「…………え?」

頭が真っ白になる。
見られた?誰に?


「三日目の目標は概ね達成だな」

ズラされた目隠しの向こう側には、笑顔のアーサー。

理解が追い付かず、思わず俯く。
目に入るのは大きく開脚した脚、その間に転がる濡れた黒いディルド、充血した自分の秘部。

穴があるなら間違いなく、私は飛び込む。


「……い、いつから?」
「最初から最後まで全部、じっくり」
「あ、あの…これはつまり……、」
「どうして欲しい?」
「え?」
「お前が望んだ本物のアーサー・フィン・マックールが此処にいるが、お前はどうして欲しいんだ?」
「えっと…あ……」

視界がじんわりと滲む。
羞恥心で顔が焼けるように熱かった。

これぐらいで泣いてしまうなんて、子供でもないのに。


「イヴ、お前は俺をその気にさせる天才だよ」
「そんなつもり……っふ、あ、アーサー!?」

後ろから抱き締められて、硬いものが奥まで入って来た。
ずくずくに濡れていると、壁なんて何の摩擦にもならず、一番良いところを直ぐに突かれる。

「………っあ、あ、またイっちゃう、待って!」
「待たない」

トントンと子宮の入り口を刺激されると、呆気なく達した。
こんな単純な身体で彼が満足できているのかと不安になる。

本物のアーサーは温かくて、触れ合う肌が溶ける。
仰向けに転がされて弱いところを擦られると、スイッチが入ったように腰が跳ねた。

「そこ、だめ…!一緒にされたら変に…っんああ」

勢いよく水が飛んだ。
こんなの、私は現実世界で体験したことがないのに。異世界まで来て性の手解きを受けるなんて、聞いたことない。

アーサーも苦しげな顔をしていた。
綺麗な顔に手を伸ばすと、鎖が音を立てる。

「アーサー、ちょうだい…全部、ほしいから」
「………イヴ、」

大きく脈打つとすぐに温かい熱が膣内で広がった。


「……ありがとう」

微笑むと、珍しく少しだけ照れたような顔をした。
堪らなく愛しくなる。

私は、用意された檻の中でライオンに擦り寄った。



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