【完結】お望み通り、悪妻になりましょう

おのまとぺ

文字の大きさ
63 / 83
第三章 公爵家の真実

62 開幕2

しおりを挟む


 本当のことを知りたいと思っていた。

 恐れずに直接、アマンダに尋ねることが正しい方法だと信じていた。だって私たちは長い間同じ家で過ごした家族だったから。なんでも話し合える間柄で、一番の友人であって、姉妹でもある。

(なんでも………?)

 だけど、今なら分かる。
 すべて打ち明けていたのは私だけ。



「べつに悪いことはしてないわ、そうでしょう?」

 波打つ金髪を後ろに払って、アマンダは同意を求めるように私の顔を覗き込む。気後れしてはいけないのに、私は言葉が出て来なかった。

「貴女はもともと結婚に後ろ向きだった。挙式を止めようとしているって小父様から聞いたときは驚いちゃった、あんなに楽しみにしてたのになんで?」
「それは………」
「釣り合ってないから心配になったのね。でも、大丈夫。こうして私が貴女の後釜になってあげるから」

 話し続けるアマンダの声を聞きながら、ほろほろと心が外側から崩れていくようだった。いつの日かユーリが言っていたはずだ。分かり合うことなど出来ないのだと。

「………浮気を認めるの?」

 なんとか絞り出した質問にアマンダは笑みを深める。

「浮気じゃないわ、本気よ。貴女がイーサンと結婚するずっと前から私たちは愛し合っていたの。それこそ、貴女が恋心をちまちまと日記帳に書いていた頃からね」
「じゃあ、自分が結婚すれば良かったじゃない!!」

 気持ちが込み上げて思わず叫ぶ。
 アマンダはきょとんとした顔で首を傾げた。

「どうして私が?」
「だ、だって、好きだったんでしょう?それならどうして私が結婚するのを黙って見過ごしたの。どうして本当の気持ちを教えてくれなかったの……!」

 言ってくれたらもちろん結婚なんてしなかった。

 一度目の人生でも、二度目の人生でも、アマンダが心からイーサンを愛していると挙式前に私に打ち明けてくれたら、私は結婚に踏み切らなかった。一度目の人生では結婚の行く末を知らなかったから確かにイーサンへの好意はあったものの、大切な従姉妹が同じ相手を好きだと知っていたら、思い止まっただろう。

 それぐらい、アマンダだって大切な存在だった。
 傷付けてまで幸せになりたいと思っていない。

「お願い……イーサンと離婚するから自分の口で伯爵夫妻に説明して。貴女たちが愛し合っていること、自分で伝えてちょうだい」

 せめてものお願いだったのに、アマンダは自分の爪の先を見比べながら「嫌よ」と答えた。私は驚いてその顔を見つめる。


「私は小父様の信頼を裏切りたくないもの」
「信頼……?何を言っているの?」

 信頼も何もない。彼女がしていることはその真逆だ。私が離縁すれば父は必然的にアマンダの裏切りを知ることになる。

「あくまでも貴女の意思で離縁したことにしてほしいのよ。きっとこの街に居るのは辛いと思うから、しばらくは王都を離れると良いわ」

 大好きなお祖母様のそばに行くのもありね、と楽しそうに笑うから私は絶句した。

「意味が分からないわ……!貴女がしていることは私や父への裏切りに違いないでしょう!?今更何を言ったって変わりない!」
「あら、貴女が言わなければ良いのよ」
「え?」
「毎日一生懸命に働いている小父様をがっかりさせたくないでしょう。小母様の意思で引き取った私を恨みたくもないはずよ。ねぇジャンヌ、貴女なら私の言っている意味が分かるわよね?」

 椅子の背もたれに置いたままの手に、アマンダの手のひらが重なった。ぎゅっと強い力で握られれば、私は自分の心臓がまるで掴まれているような感覚に陥る。

 私が、辛辣を舐めれば良いのだろうか。
 すべて丸く収まって父は傷付かずに済む?


「だけど………だけど貴女は、私を殺そうとしたわ」

 私は唇を固く結んでアマンダの双眼を見据える。

「イーサンとの間に子供がいたのよね?」
「………!」

 それまで退屈そうな様子で床を見ていた青い瞳が急にハッとしたように見開かれた。私は更に言葉を重ねる。

「ある方に協力してもらって調べたの。マコーレイ・リンクス先生と貴女の関係は、ただの事務と医師じゃない。貴女は二年前にイーサンとの子供を堕ろしてる。そうでしょう?」
「ちがうわ、ちがう……!」
「イーサンがきっとお金を積んだのね。お義母様たちは知らないみたいだけど、彼が第三部隊で可愛がられているのも納得がいく」
「好き勝手言わないで!!」

 勢いよく振り上げたアマンダの手が、後ろにあった本棚に当たった。ガシャンッという大きな音がして、ガラス扉が割れる。驚く私の後ろで複数人が慌てて駆け付ける足音がした。

 振り返った視線の先に、息を切らすイーサンとヘルゼン伯爵夫人の姿が目に入る。夫人の後ろでは大袈裟なほど震えるイボンヌも立っていた。

 もう一度身体を戻す。
 床にしゃがみ込んだままで痛みに顔を歪めるアマンダの腕からは血が流れていた。


「ジャンヌ、どういうことだ……?」
「説明させてください。これは、」
「もうやめて……ジャンヌ!」

 割って入った叫び声が皆の注目を集める。

「私のことが邪魔だと言われました。クレモルンのお屋敷に入り込んで来た悪魔だと……今日も本当は来てほしくなかったそうです。どうして来たんだと責められて、突き飛ばされました………」
「違います!そんなことしてないわ!」
「本当か、ジャンヌ?」
「これは由々しき事態ね。クレモルン男爵を呼んだ方が良いんじゃないかしら。あら、男爵は?」
「おかしいな。今さっきそこに、」

 扉の方を振り返ったイーサンとペチュニアの向こうに、私は表情を消した父ダフマンを見た。恐ろしいほど青白い顔で、目だけは一点を見つめている。


「お、小父様……?いつからそちらに?」

 ヒクッとアマンダの頬が引き攣る。

「話はすべて聞かせてもらった。アマンダ……みんなの前でもう一度話してほしい」

 重々しいダフマンの声音を聞いて、私は安堵の息を吐く。父は約束を守ってくれたのだ。私の部屋に来て、この一部始終を聞き遂げるという役割を果たしてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。 ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...