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第三章 公爵家の真実
62 開幕2
しおりを挟む本当のことを知りたいと思っていた。
恐れずに直接、アマンダに尋ねることが正しい方法だと信じていた。だって私たちは長い間同じ家で過ごした家族だったから。なんでも話し合える間柄で、一番の友人であって、姉妹でもある。
(なんでも………?)
だけど、今なら分かる。
すべて打ち明けていたのは私だけ。
「べつに悪いことはしてないわ、そうでしょう?」
波打つ金髪を後ろに払って、アマンダは同意を求めるように私の顔を覗き込む。気後れしてはいけないのに、私は言葉が出て来なかった。
「貴女はもともと結婚に後ろ向きだった。挙式を止めようとしているって小父様から聞いたときは驚いちゃった、あんなに楽しみにしてたのになんで?」
「それは………」
「釣り合ってないから心配になったのね。でも、大丈夫。こうして私が貴女の後釜になってあげるから」
話し続けるアマンダの声を聞きながら、ほろほろと心が外側から崩れていくようだった。いつの日かユーリが言っていたはずだ。分かり合うことなど出来ないのだと。
「………浮気を認めるの?」
なんとか絞り出した質問にアマンダは笑みを深める。
「浮気じゃないわ、本気よ。貴女がイーサンと結婚するずっと前から私たちは愛し合っていたの。それこそ、貴女が恋心をちまちまと日記帳に書いていた頃からね」
「じゃあ、自分が結婚すれば良かったじゃない!!」
気持ちが込み上げて思わず叫ぶ。
アマンダはきょとんとした顔で首を傾げた。
「どうして私が?」
「だ、だって、好きだったんでしょう?それならどうして私が結婚するのを黙って見過ごしたの。どうして本当の気持ちを教えてくれなかったの……!」
言ってくれたらもちろん結婚なんてしなかった。
一度目の人生でも、二度目の人生でも、アマンダが心からイーサンを愛していると挙式前に私に打ち明けてくれたら、私は結婚に踏み切らなかった。一度目の人生では結婚の行く末を知らなかったから確かにイーサンへの好意はあったものの、大切な従姉妹が同じ相手を好きだと知っていたら、思い止まっただろう。
それぐらい、アマンダだって大切な存在だった。
傷付けてまで幸せになりたいと思っていない。
「お願い……イーサンと離婚するから自分の口で伯爵夫妻に説明して。貴女たちが愛し合っていること、自分で伝えてちょうだい」
せめてものお願いだったのに、アマンダは自分の爪の先を見比べながら「嫌よ」と答えた。私は驚いてその顔を見つめる。
「私は小父様の信頼を裏切りたくないもの」
「信頼……?何を言っているの?」
信頼も何もない。彼女がしていることはその真逆だ。私が離縁すれば父は必然的にアマンダの裏切りを知ることになる。
「あくまでも貴女の意思で離縁したことにしてほしいのよ。きっとこの街に居るのは辛いと思うから、しばらくは王都を離れると良いわ」
大好きなお祖母様のそばに行くのもありね、と楽しそうに笑うから私は絶句した。
「意味が分からないわ……!貴女がしていることは私や父への裏切りに違いないでしょう!?今更何を言ったって変わりない!」
「あら、貴女が言わなければ良いのよ」
「え?」
「毎日一生懸命に働いている小父様をがっかりさせたくないでしょう。小母様の意思で引き取った私を恨みたくもないはずよ。ねぇジャンヌ、貴女なら私の言っている意味が分かるわよね?」
椅子の背もたれに置いたままの手に、アマンダの手のひらが重なった。ぎゅっと強い力で握られれば、私は自分の心臓がまるで掴まれているような感覚に陥る。
私が、辛辣を舐めれば良いのだろうか。
すべて丸く収まって父は傷付かずに済む?
「だけど………だけど貴女は、私を殺そうとしたわ」
私は唇を固く結んでアマンダの双眼を見据える。
「イーサンとの間に子供がいたのよね?」
「………!」
それまで退屈そうな様子で床を見ていた青い瞳が急にハッとしたように見開かれた。私は更に言葉を重ねる。
「ある方に協力してもらって調べたの。マコーレイ・リンクス先生と貴女の関係は、ただの事務と医師じゃない。貴女は二年前にイーサンとの子供を堕ろしてる。そうでしょう?」
「ちがうわ、ちがう……!」
「イーサンがきっとお金を積んだのね。お義母様たちは知らないみたいだけど、彼が第三部隊で可愛がられているのも納得がいく」
「好き勝手言わないで!!」
勢いよく振り上げたアマンダの手が、後ろにあった本棚に当たった。ガシャンッという大きな音がして、ガラス扉が割れる。驚く私の後ろで複数人が慌てて駆け付ける足音がした。
振り返った視線の先に、息を切らすイーサンとヘルゼン伯爵夫人の姿が目に入る。夫人の後ろでは大袈裟なほど震えるイボンヌも立っていた。
もう一度身体を戻す。
床にしゃがみ込んだままで痛みに顔を歪めるアマンダの腕からは血が流れていた。
「ジャンヌ、どういうことだ……?」
「説明させてください。これは、」
「もうやめて……ジャンヌ!」
割って入った叫び声が皆の注目を集める。
「私のことが邪魔だと言われました。クレモルンのお屋敷に入り込んで来た悪魔だと……今日も本当は来てほしくなかったそうです。どうして来たんだと責められて、突き飛ばされました………」
「違います!そんなことしてないわ!」
「本当か、ジャンヌ?」
「これは由々しき事態ね。クレモルン男爵を呼んだ方が良いんじゃないかしら。あら、男爵は?」
「おかしいな。今さっきそこに、」
扉の方を振り返ったイーサンとペチュニアの向こうに、私は表情を消した父ダフマンを見た。恐ろしいほど青白い顔で、目だけは一点を見つめている。
「お、小父様……?いつからそちらに?」
ヒクッとアマンダの頬が引き攣る。
「話はすべて聞かせてもらった。アマンダ……みんなの前でもう一度話してほしい」
重々しいダフマンの声音を聞いて、私は安堵の息を吐く。父は約束を守ってくれたのだ。私の部屋に来て、この一部始終を聞き遂げるという役割を果たしてくれた。
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